「文蔵コレクション鈴本編」(2013/11/12)
鈴本演芸場11月中席夜の部は特別興行となっていて、11月12日は「橘家文蔵13回忌記念公演・文蔵コレクション鈴本編」。
アタシは文蔵の高座を観る機会がなかった、以下に略歴を紹介する。
【橘家文蔵】1939年8月25日生れの東京都出身の落語家。生前は落語協会所属。
1955年3月に8代目林家正蔵(彦六)に入門
1968年9月真打昇進
1990年頃に体調を崩し、以後高座に上がる機会が減っていた
2001年9月10日に心不全で死去、享年62
弟子に橘家文左衛門がいる。
その文左衛門により一連の追悼興行が行われているようで、良い弟子に恵まれた。
この日の顔ぶれからすると、同じ先代正蔵門下から百栄、それに柳家と古今亭から人気者を加えたのだろう。
この内、百栄だけがネタを文蔵から藤兵衛を経て教わったそうで、他の人は文蔵から直接教示を受けたようだが、本人たちが中身はかなり変えていたと思われる。
当日売りだったにもかかわらず前から4列目の席が確保できた。
< 番組 >
前座・柳家フラワー「道灌」
桃月庵白酒「花色木綿」
橘家文左衛門「寝床」
~仲入り~
春風亭百栄「おつとめ~尼寺の怪~」
ロケット団「漫才」
柳家喬太郎「錦木検校」
白酒「花色木綿」
柳家だと「出来心」、オチが違うだけで内容は同じ。
前段の親分に叱られてしぶしぶ泥棒稼業に出るが、しくじってばかり、という場面はカットし、いきなり貧乏長屋に盗みに入る所からスタート。とにかく何もない、仕方なく掛けてあった褌(なぜ、こんなモノを?)を懐に入れると途端に住人の男が帰ってきた。泥棒は仕方なく床下へ。
ここから被害を並び立てる八五郎と大家との珍妙な掛け合いが聴かせ所となる。布団も着物も蚊帳も刀もお札まで「裏が花色木綿」の一点張りに家主が呆れていると、怒った泥棒が飛び出してきて・・・。
通常のスタイルと異なり、主人公は泥棒の方ではなく、空き巣に入られた八五郎で、いかにも白酒らしいトボケぶりが堂に入っていた。
この人は何を演らせても上手い。
文左衛門「寝床」
10年前ぐらい前までは池袋演芸場で受ける落語家というイメージだった。鈴本で初トリを取った辺りからこの人の変化を感じるようになった。今や人気落語家の仲間入りだ。
何が成功したかというと、自分のイメージと「型」を持ったことだろう。
「恐いお兄さん」というキャラを前面に出し、隠居とそこに訪れる人物とも会話に独特の雰囲気を持たせた。「道灌」「千早ふる」「ちりとてちん」など得意ネタは全てこのパターンだ。
男としての色気を感じさせるという評もある。
強い個性が「アク」に感じられることもあり、その辺りで好き嫌いが分かれるだろう。
この「寝床」も人物の造形だの心理描写だのというのはすっ飛ばして、場面の切り替えのテンポの良さだけで筋を運んだ感じだ。
主が義太夫を奉公人に聴かせるという場面で、「定吉は?」というと重蔵が「あれだダメです、子どもですよ。」と答えるクスグリは秀逸。これが最後のサゲにもつながる。
主が怒ってからやたらに「エー!」を連発する癖は直した方がいい。
百栄「おつとめ~尼寺の怪~」
若い連中が集まって「百物語」をやろうということになる。 怪談ネタのない熊が 困って、寺の和尚に怖い話はないかと訊きに行く。和尚が二十の頃、托鉢をしていて山道に迷い、ようやく見つけた尼寺に無理やり本堂に泊めて貰った。真夜中すぎに真の闇の中で、木魚を叩きお勤めをする声を聞く。ハハーン、庵主が読経しているのだと思って寝たら 翌朝庵主はそんなお勤めは していなかったと言う。そこへ近村の若い者が飛び込んで来て、新仏が出来ましたと伝えてきた。つまり真夜中のお勤めは、新仏だったのだ。
これを聞いた熊が仲間に怪談話として伝えるのだが、これがトンチンカン。
按摩さんが木魚を叩きながら、おつけの実を刻んでいた。それが実は新仏の幽霊だったというので、一同はキツネにつままれたような話じゃないかとなる。
それもその筈、刻んでいたのは油揚げだったでサゲ。
百栄は段々良くなってきている。語りがしっかりしてきたし噛む回数も減ったようだ。
元々フラがある人だから、話芸を磨けば飛躍する可能性があるだろう。
喬太郎「錦木検校」別名「三味線栗毛」
大名の酒井雅楽頭、どうも三男・格三郎とウマが合わないと、下屋敷に下げてしまい100石取りの家臣同様の扱い。家来の中村吉兵衛が夫婦で内職などして、苦しい暮しを支える有り様。 格三郎は本を買って読む日々で、目が疲れ肩が凝る。按摩を呼ぶと、名を聞けば錦木。この錦木、療治は上手いし話が面白い。
実の親子であっても疎遠なこともあれば、格三郎と錦木のように赤の他人でも十年、二十年来の友人のようにもなる。
ある日錦木が格三郎に、あなたはやがて大名になる骨相をしていると告げる。一笑にふす格三郎だが、儂がもし大名になったら、お前を検校にしてやろうと約束する。
ある時、錦木が高熱を出し長屋でひと月も寝込む。 隣の源兵衛が見舞うと、錦木は病が直らないから首を括って死にたいともらす。
源兵衛がそこで生きていりゃいいこともあると諭し、酒井雅楽頭が隠居をしたが長男は病身、次の女の子は養子を取らず、結局三男が跡を継いだと告げる。源兵衛さん、今の話は本当かと起き上がって、錦木が酒井雅楽頭邸に駆けつける。
中村吉兵衛のとりなしで、ようやく殿様の目通りが許される。
格三郎、今は酒井雅楽頭となったが、良き友と申すものは有難い、お前が大名にしてくれたと錦木を讃える。恐縮する錦木に、約束通りお前を検校にすると告げる。
しかし激しく咳き込みやがて倒れる錦木、医者が駆け付け脈をとると既に事切れていた。
オリジナルでは目出度く錦木は検校に出世。
ある日、錦木検校が酒井雅楽頭にご機嫌伺いに来る。
雅楽頭は、このほど南部産の栗毛の良馬を手に入れ、三味線と名づけたと話す。
錦木がそのいわれを聞いてみた。
「雅楽頭(うたのかみ)が乗るから三味線だ」
「それでは、家来が乗りましたら?」
「バチが当たるぞ」
この後半を喬太郎は悲劇で終わらせる演出に変えている。
盲人が主人公の噺が巧みな喬太郎だが、なかでもこのネタがベストと言って良い。
不遇な大名の息子と貧しい按摩のとの間の温かい交流と、二人の思いが交差する最後のシーンは聴いていて胸を打つ。
こういう地味な噺でこれだけ観客を惹きつけるというのは、喬太郎の話芸、とりわけ人物の造形の見事さとセリフの「間」の絶妙さだ。
今年のベスト候補だが、残念ながら数年前に既に「My演芸大賞」に選んでいるので外さざるを得ない。
脂の乗り切った4人の高座、それぞれ聴きごたえがあった。
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