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2013/11/10

劇団大阪「臨界幻想」(2013/11/8)

11月8日、一心寺シアター倶楽で行われた”第74回劇団大阪本公演「臨界幻想」”へ。
今回の公演は”関西芸術座”と”劇団せすん”との共同製作。
かつて現役時代だった頃の取引先の企業の技術者で、その前は東電社員として福島原子力発電所に勤務していたという人がいた。なんで辞めたんですかと問うたら、「表には出てないけど、事故が多くてね」と転職した理由を語っていた。
ふじたあさや作のこの芝居の初演は1981年というからもう30年以上前になる。作者の綿密な現地調査によって書かれたこの劇も、その当時はSFとして扱われたこともあったそうだ。それだけ当時は原発の危険性、原発で働く人々の実態が知られていなかったわけだ。
作者のふじたあさやはこう言っている。
「30年経っても、我々が告発した原発労働者被爆の実態、電力会社の隠ぺい体質、行政の無責任体質は変わっていないのだ。」
「それは我々の責任ではないのか。告発の声が小さかったのかも知れないし、ひ弱だったのかも知れない。告発する一方で、どうせ何も変わらないと、諦めていたのではなかろうか。ならば、責任を取ろうではないか。」
「それにしても、いつまで『臨界幻想』をやらなければならないのか。汚染水の始末もつかないのに、政府は再稼働をちらつかせ、未完成な技術であることを露呈したにもかかわらず原発の輸出を企んでいる。やめるわけにはいかないではないか。」

作:ふじたあさや
演出:堀江ひろゆき
<ストーリー>
舞台はある地方の原子力発電所とその周辺。
農家を営む速水千津子(田中恵理)は父親(斎藤誠)と、原発の一次下請け社員である長男・暁生(松村翔太)と地元で保母をしている長女(保田麻衣)の4人暮らし。夫は出稼ぎ先の東京で労災で死亡している。
その暁生が仕事中に倒れ町立病院に運ばれるが急死、医師(秋田高志)は心臓病と診断する。釈然としない千津子は、地元の「原発を考える会」のメンバ―(津雛拓、伊能務)や新聞記者(上田啓輔)から暁生の死が原発の放射能が原因かも知れないと聞かされ不安になり、病院の医師や暁生の会社の上司(津田満)に問い質すがいずれも一蹴されてしまう。暁生の親会社から1千万円の見舞金が千津子宅に届き、ますます不信を募らせた千津子は親会社の課長(宮村信吾)を訪ねると、金が口止め料であることが分かり突き返す。
そうこうしているうちに、病院の看護婦(津田ひろこ)から原発企業からの圧力でカルテが改竄されていて、暁生の死が白血病である疑いが濃いと知らされる。そこで暁生と一緒に作業していた二次下請けの労働者(神津晴朗、下村和行)から事情を訊くと、暁生は放射線を多量に浴びる作業をしていて危険な状況にあったこと、会社から支給される「被爆手帳」は実際には会社が管理していて適当な数値が書かれていると聞かされ、千津子としては息子の死が放射線を多量に浴びたのが原因だと確信する。
事実が明らかになるにつれ、本家にあたる地元議員(清村正次)から千津子の家族や「原発を考える会」のメンバーに対する圧力が嫌がらせが増す一方、親会社からは懐柔策が打診される。
やがて原発の周辺地域の放射線量のデータが異常値を示し始め、原発で重大事故が起きたのではとの噂が流れ出し・・・。

原発所在地の地元には電力会社(我々の支払う電力料金)や国(我々の税金)から多額の資金が流れ込み、それによって恩恵を受ける人たちも少なくない。そうした中で原発の安全性に疑いを抱いたり、放射線の健康への被害を訴えたりした人々は村八分のような扱いを受けてきた。この戯曲には描かれていないが、警察もこうした「不審人物」の身辺調査に手を貸していたことも明らかになっている。
原子力発電所の現場で危険な作業を行っていた人々は下請け、孫請け、さらには三次、四次といった下請け労働者であり、その多くは他の産業を追われて各地の原発を転々としてきたいわゆる「原発ジプシー」と呼ばれる人たちだ。被爆データは改竄され、放射能による健康被害は隠蔽されたまま、働けない身体になれば解雇される。
こうした実態は福島での原発事故を経た今では多くの国民の知る所になったが、この台本が書かれた30年以上前にはごく一部の人しか知らなかった、というより知らされなかった。
原発労働者の実態をリアルに描いた点、さらには原発の安全神話が政府によって刷り込まれていた当時に原発事故を予見した点に、この戯曲の先見性がある。

出演者では放射能による白血病で亡くなった息子の母親役を演じた田中恵理の演技が際立つ。息子の死の真実を知りたいという一途な姿は、ゴーリキーの「母」や小林多喜二の母と重なる。この演劇は彼女の芝居といっても過言ではない。
劇団大阪の公演で毎回感じるののだが、今回の公演でも上田啓輔、齋藤誠、清原正次といったベテラン勢に比べ、若手の演技が見劣りする。
全体としては良い出来だったが、その点だけが残念だった。
それぞれ自分の仕事を抱えながら芝居に取り組まざるを得ないという、アマチュア劇団運営の難しさは承知しているつもりだが。

いま安倍政権は原発の再稼働と輸出へ大きく舵を切った。そのために彼らは性懲りもなく汚染水が完全にブロックされているだの、コントロールされているだのという、新たな「安全神話」を振りまいている。
こうした時期だからこそ「臨界幻想」のような芝居を公演する意義は大きいし、これから各地でも上演されるだろうが、是非ひとりでも多くの方に観て貰いたいと願っている。

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コメント

東京公演なのですか。

投稿: 佐平次 | 2013/11/10 12:11

佐平次様
今回の公演は関西に限られています。今後は東京でも上演されると思われます。

投稿: HOME-(ほめ・く) | 2013/11/10 12:25

またも遅レスで失礼します。
この作品、東京では「本家」青年劇場が今年も上演した筈ですが・・・。
劇団大阪の底力に圧倒されながら、「30年前にこれだけ分かっていながら、なぜ広く受け入れられなかったのか」とやりきれなくなりました。

劇団大阪の場合、主要メンバーが70代前半・若手は20代前半なので・・・。
ギャップを埋めるのは時間がかかりそうですね。

投稿: 明彦 | 2013/12/16 00:33

明彦様
今回の福島原発事故で避難を余儀なくされている方の感想を聞いても、あれほどの事故が起きようとは思ってもみなかったという声があります。そこが政府の目の付け所であり、逆に見れば、この芝居に先見性になると言えます。

投稿: HOME-(ほめ・く) | 2013/12/16 22:18

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