よみうりホールで開かれた「立川談志三回忌 立川流 談志まつり 立川流落語会“江戸の風”編 」という長いタイトルの会の、11月23日夜の部へ。
談志の3回忌というが、実際には志の輔と談春が目当ての客が多かったようだ。
< 番組 >
立川談之助 / 立川志遊 / 立川談慶 / 立川談修「オープニングトーク」
立川談春「桑名船(五目講釈)」
立川談幸「七段目」
立川龍志「義眼」
~仲入り~
立川ぜん馬「蜘蛛駕籠」
土橋亭里う馬「雑排」
立川志の輔「徂徠豆腐」
立川流一門による「ご挨拶」
先ずは「オープニング」で4人の弟子が談志の思い出を語る。もうエピソードを出尽くしたようだし新味なし。
後は私が書いた本に詳しく、なんて売り込んでいたが、この一門はやたら本を出す人が多いね。そんな暇あったら芸を磨いたらどうか。それとも談志のエピソードさえ書いとけば一定の売り上げがあるのだろうか。
談春「桑名船」、「兵庫船」というタイトルで演じられることもあるが、地名が異なるだけで中身は一緒、別名「五目講釈」
入り混じった講釈を聴かせる所が演者の腕の見せどころ。こういうネタだと談春の良さは出ず、並の真打といった出来。
談幸「七段目」、このネタは内容よりも歌舞伎役者の「形」や「声色」が見せ場になるが、特別の工夫はなかったようだ。
龍志「義眼」、高座にかかる機会が少ないネタなので、筋を紹介すると。
ある男が目を悪くし医者にかかると片方に義眼が入れられた。医者から夜は外して水に漬け枕元に置くようにと言われる。
目の具合が良くなり男前も上がったからと男は吉原に出かけるがすごくモテる。隣の部屋に入った男は相手が姿を見せず怒りがたまってくる。隣は一戦終えた様子なので覗いてみたら、男が寝ていて枕元には湯呑の水が。酔いざめの水とばかり一気に飲み干すと、何か固いものが喉に。男の義眼を飲み込んでしまったのだ。
翌日から便秘はするわ熱は出るわの苦しみ、医者を呼ぶと「あー、奥さん、お宅のご主人のお通じがないのは、肛門の奥の方に、何か妨げてるものがありますな」。
医者が治療のため眼鏡を肛門に差し込み中を覗くと、奥に義眼が。
「いやあ驚いた。お宅のご主人の尻の穴をのぞいたら、向こうからも誰かにらんでた」。
隣部屋の男がモテるのにこっちは女郎が来ず焦れる場面は「五人廻し」を思わせる。龍志の高座はドイツ製アヌスメガネで尻を覗く医者のトボケタ味わいがあった。
ぜん馬「蜘蛛駕籠」、二人の駕籠屋、茶店の主人、侍、酔っ払いの男、陽気に踊りまくる男、そして最後は”遊び”に出かけようとする二人連れ、ぜん馬はそれぞれの人物を鮮やかに演じ分けていて、最近聴いた「蜘蛛駕籠」の中ではベストと言って良い。
さすが立川流で実力ナンバーワンの呼び声の高いだけのことはある。
里う馬「雑排」、もしかすると初見かも知れない。談志の惣領弟子であり立川流の代表(談志一門の代表者)。
軽く流していたが、普段聴く「雑排」とは少し異なるが、これはこれで面白い。
志の輔「徂徠豆腐」、これも筋を紹介すると。
豆腐屋が豆腐を売りに出て裏長屋を流していると、男が豆腐一丁を注文し、それをガツガツと食べる。細かい金がないから明日まとめて払うというので翌日、また翌日を豆腐を食べて訊けば一銭も金が無いという。
男は学者の勉強をして、世の中を良くしたいと言う。それなら出世払いで良いからと、握り飯を届けるというと、男はそれじゃ恵んで貰うことになるので商売物でというリクエスト。
店に戻って女房に話すと呆れられるが、とにかく翌日から差入れが始まった。焚いたおからがメインで時々は女房がこさえた握り飯も。
ある時、七兵衛さん風邪をこじらして寝込んで商いに出られなくなた。マクラも上がって、長屋を訪ねたが、もぬけの殻で、行き先も分からなり連絡が途絶えてしまう。
しばらくして豆腐屋の隣りから火が出て、あっという間に辺り一帯に燃え広がり、豆腐屋の店も全焼してしまう。
豆腐屋夫婦は着のみ着のままで焼け出され、今では貧乏長屋の片隅で生活は困窮。
そこへ大工が訪ねてきて、ある人から預かったということで10両の金を置いて行く。夫婦はその金で食いつなぐ。
それから数か月して再び大工が現れ、豆腐屋夫婦を元の芝増上寺門前の焼け跡へ。焼けたはずの店が建ってる。そこに現れたのはあの貧乏だった男。荻生徂徠という学者だった。
荻生徂徠は豆腐屋に過日の差し入れに礼を述べ、「大老の柳沢美濃守さまのお引き立てをいただきまして、仕官が叶いました。また、なんらご挨拶もせず長屋を出ましたこと、お詫びを申し上げます。」と詫びた。それから「火事にあって焼け出されたことを知り、すぐにお見舞いをと思いましたが、多忙で、お顔出しのいとまもありませんでした。ようよう動けるようになりまして、やっと、お詫び方々お目にかかることができました」と語る。
新築なった店で初めて豆腐を作り、その豆腐を徂徠の屋敷に届けると、喜んで食べてくれた。
この噺、オリジナルは赤穂浪士の討ち入りと同時進行の形でストーリーが進んで行く。志の輔の演出はそうした理屈っぽい部分はザックリ切り捨て、豆腐屋と徂徠の友情だけに焦点を合わせていた。講談調の教訓じみた所を無くし、人情味あふれる滑稽噺として再編させたものと思われる。
例えば焼け出された豆腐屋夫婦のもとへ10両の金が届くと、女房はこの金は貸付られたもので、後で高利貸しが取り立てに来るんじゃないかと心配する。もし払えなければ女房を貰って行くと屋敷に連れていかれ、器量を見込まれた主のお手が付き、そこの奥方に納まる。そうしたら庭番としてあんたを雇ってあげるからと慰める。豆腐屋は女房の妄想に呆れるのだが、こうしたクスグリを挟みながら楽しい1席に仕上げていた。
志の輔の古典を再編する能力と語りの確かさを示した高座は聴きごたえ十分。
こういう高座を見るとこの人の人気ぶりも納得する。
最後は一門の真打が総出演で挨拶と手締めでお開き。
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