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2013/12/30

今年観た演劇(芝居)のベスト

今年は20本の演劇(芝居)を観たことになるが、振りかえると第二次世界大戦の前後を舞台とした作品が多かった。
この中から最も優れた作品を選ぶとしたら、天王洲・銀河劇場で上演された『テイキングサイド~ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日~』だ。

作:ロナルド・ハーウッド
演出:行定勲
訳:渾大防一枝
<出演者>
筧利夫
福田沙紀
小島聖
小林隆
鈴木亮平
平幹二朗

この作品は20世紀を代表する最高の指揮者の一人であるフルトヴェングラーが主人公。
彼が指揮活動の頂点を極めた時代がナチスの全盛期だったことでナチスへの協力を疑われ、連合国による非ナチ委員会の審理に引き出されるという不幸にも見舞われる。1947年までの戦後の2年間は音楽活動まで禁止されてしまう。
この点ではナチ党員であったライバルのカラヤンには、なんのお咎めも無かったことと対照的だ。
緊張に満ちたセリフのひとつひとつ、指揮者を演じた平幹二朗と彼を糾弾する米軍将校を演じた筧利夫との息詰まる攻防は見応えがあった。

この芝居は、芸術と政治は完全に分離できるのか、専制政治下で良心を貫くことができるのか、戦争において絶対的正義は存在するのか、勝者が敗者を裁けるのか、といった重いテーマを観客にを問いかけている。
劇中のセリフ。
「俺たちはここで堕落した奴らを扱っているんだぞ。忘れちゃいかんのはそれだけだ。俺はこの目で見て来たんだ。」
「どうしたら真実が見つけられるんですか? そんなものありません。誰の真実なのですか? 勝った者の? 敗けた者の?」
「反ユダヤ的発言をしたことがない非ユダヤ人がいたら見せてください。そうしたら至上の楽園にお連れしますよ。」
「わたしの唯一の関心事は、音楽の最高水準を維持することだった。それがわたしの使命だと思っている。」
こうした問題提起は、映画『ニュールンベルグ裁判』や、井上ひさしの戯曲『東京裁判三部作』にも通底する。

ヒトラーやナチスというと悪魔や狂気のごときイメージがあるが、決して地下から湧いたものでもないし、宇宙から飛んできたものでもない。当時のドイツにおいて、ワイマール憲法という優れた法制下で、民主的選挙によって選ばれたものだ。
ナチスが政権を握れたのは第一次大戦後のドイツの不況とインフレの中で、ヒトラーは大型公共工事を中心とした経済振興策により失業者を大幅に減らすことに成功したからだ。「ヒトラミクス」だったわけだ。
排外主義と民族差別によりナショナリズムを醸成し、自分たちに都合の良い法律を通す中で憲法を骨抜きにしていった。そして気が付いたら独裁国家になっていた。
映画などではしばしばヒトラーやナチス高官が狂人や異常な人物として描かれているが、それは違うと思う。
来春、三谷幸喜の『国民の映画』が上演されるが、この芝居はナチスのナンバー・2であったゲッペルスが主人公で、狂気どころか常識的な人物として描かれている。こちらが真実に近いと思う。
独裁やファシズムというのは、いつの時代でも、どこの国でも起こりうる。もちろん日本でも。

『テイキングサイド~ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日~』は、そうした様々な問題を考えさせられる優れた演劇だった。

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