国立劇場『通し狂言・三千両初春駒曳』(2014/1/5)
寄席の初席の翌日は歌舞伎の新春公演で、1月5日、国立劇場での『通し狂言三千両初春駒曳(さんぜんりょうはるのこまひき)』へ。
国立の初春公演は音羽屋、つまり菊五郎劇団の芝居だ。
ここのところ歌舞伎界には不幸な出来事が続いている。勘三郎に続いて團十郎が亡くなり、昨年は三津五郎、仁左衛門、福助など病気休演が相次いだ。正に危機的状況ともいえる。
この中にあって音羽屋だけは菊五郎が元気に舞台を勤め、息子の菊之助は吉右衛門の娘と結婚、11月には長男が誕生するなど明るい話題に包まれている。余談だが昭和の歌舞伎界はいわゆる「菊吉時代」、6代目菊五郎と初代吉右衛門が並び立った時代だったわけで、この両家が縁戚関係で結ばれたというのは、今後の歌舞伎界の地図に少なからぬ影響が出るかも知れない。
歌舞伎通からはおよそ縁遠いアタシが言うのもなんですが、歌舞伎を見たことがないという方は一度は見ておく価値があると思います。「あれって難しそう」なんて思ってる方が多いようですが、極端にいえばストーリーなんかどうでもいいんです。だって海外公演でも評判をよんでるけど、日本人でさえ難解なのに外国人が理解できるとは思えない。
歌舞伎は総合芸術だから、役者の演技、唄と踊り、演奏、舞台装置などを見て単純に楽しめばいいのでは。
この芝居でも周囲のご婦人たちは、菊サマ(菊之助)の女形をただウットリと眺めていましたよ。
辰岡万作=作『けいせい青陽●(はるのとり)』より (●は集に鳥)
尾上菊五郎=監修
国立劇場文芸研究会=補綴
< 出演者 >
尾上菊五郎
中村時蔵
尾上松緑
尾上菊之助
坂東亀三郎
河原崎権十郎
市村萬次郎
市川團蔵
坂東彦三郎
澤村田之助
ほか
通し狂言としては150年ぶりの復活というこの芝居。
実は徳川幕府の3代将軍をめぐる跡目争いが主題となってるのだが、江戸時代にそんな芝居は上演できない。そこで背景を「太閤記」の時代に置き換え、本能寺の変で信長が死んだ後の織田家の跡目争いのストーリーに置き換えたものだ。ただ当時の江戸庶民たちは、劇中の人物それぞれが誰と誰かが分かっていたらしい。この辺りが今の私たちにとっては物語を理解する上でのハンディだ。
本能寺の変で小田(織田)信長と嫡子の信忠が討ち死に。跡目をめぐり、信忠の弟・三七郎信孝を推す柴田勝重(勝家)と、信忠の子・三法師丸を推す真柴久吉(羽柴秀吉)が対立する。政治に興味のない三七郎は跡目争いを避けるため自らをお家追放として廓通いを続けながら、紛失した小田家の重宝を探索する。三七郎を利用してお家乗っ取りを狙う勝重はもくろみが外れ、隣国・高麗と手を組んで巻き返しを図るが・・・。
もとよりオリジナルの台本がどういうものか全く知らないが、150年も上演されなかったという事は、要は面白味がなかったからだろう。
今回は大幅に手を入れて書き換えたようで、休憩含めて4時間の長丁場だったが飽きることなく楽しめた。
序幕で発端として高麗国の皇女が渡来して活躍するという設定を加えて物語のスケールをより大きくし、釣り天井が切って落とされるシーンはスペクタクル風な演出にしている。
この芝居の最大の見せ場である「馬切り」では派手な立ち回りで客席を沸かせていた。
跡目争いという本筋に加え男女の恋模様、生き別れの親子の再会や、勝重の妻子をめぐる悲劇などのサイドストーリーも絡めて、物語に奥行きを持たせていた。
主役の信孝を演じた菊五郎は正に春風駘蕩の趣き、その一方で「馬切り」では颯爽とした立ち回りを見せていた。このシーンでは「切られ役」の奮闘も見もの。
菊之助は音羽屋の伝統である立役と立女形の二役で魅せてくれた。女形として凛としていて、姿も美しいが声がいい。
勝重の妻役の時蔵が渋い演技を見せていた。この人は薄倖の女性を演じるのが上手い。
ワキでは悪役の小平太を演じた亀三郎が好演、特に口跡がいい。
初春にふさわしい華やかでお目出度い舞台だった。
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