吉右衛門の勧進帳に唸る「三月大歌舞伎」(2014/3/13夜)
3月の歌舞伎座は吉右衛門、幸四郎に菊五郎、藤十郎、玉三郎が加わるというオールスターキャスト。こいつぁ行かざあ先祖の助六に顔がたたねぇ、なんてね。
実は、恥ずかしながら玉三郎が好きなんです。意外にミーハー。だからこの人の芝居には何度か来ている。女形としちゃあ顔が小さいのと背が高いのが欠点だけど、これほど美しい女形はいないだろう。
もう一つのお目当ては吉右衛門の『勧進帳』。
風雨は強かったがめっきりと暖かくなった3月13日の歌舞伎座・夜の部へ。
「鳳凰祭三月大歌舞伎」
一、加賀鳶(かがとび)
本郷木戸前勢揃いより赤門捕物まで
天神町梅吉/竹垣道玄:幸四郎
女按摩お兼:秀太郎
春木町巳之助:橋之助
魁勇次:勘九郎
虎屋竹五郎:松江
盤石石松:歌昇
数珠玉房吉:廣太郎
御守殿門次:種之助
昼ッ子尾之吉:児太郎
お朝:宗之助
伊勢屋与兵衛:錦吾
金助町兼五郎:桂三
妻恋音吉:由次郎
天狗杉松:高麗蔵
御神輿弥太郎:友右衛門
雷五郎次:左團次
日蔭町松蔵:梅玉
二、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
武蔵坊弁慶:吉右衛門
富樫左衛門:菊五郎
亀井六郎:歌 六
片岡八郎:又五郎
駿河次郎:扇 雀
太刀持音若:玉太郎
常陸坊海尊:東蔵
源義経:藤十郎
三、日本振袖始(にほんふりそではじめ)
大蛇退治
岩長姫実は八岐大蛇:玉三郎
稲田姫:米吉
素盞嗚尊:勘九郎
『加賀鳶』
江戸は本郷、加賀鳶と定火消しとの喧嘩が始まろうとしている時に、鳶の親分の梅吉と兄貴分の松蔵の説得で喧嘩は納まる。
菊坂の盲長屋に住む竹垣道玄は百姓太次右衛門を殺害し金を奪う。家では女房おせつを虐待する一方、女按摩お兼とは深い仲に。道玄は姪のお朝が奉公先の主人から親切にされるのをみて、その質店伊勢屋の主を強請ることを思いつき店先で主人に難癖をつけ脅す。100両寄こせという所を番頭のとりなしで50両で収めるが、そこへ鳶頭の松蔵が現れ道玄の悪事を暴いて追い返す。
道玄の太次右衛門を殺害した証拠もみつかり御用となる。
当時の江戸庶民の姿が生き生きと描かれている。
幸四郎の小悪党ぶりがハマっていて、特に店先での強請の場面が良く出来ていた。鳶頭の梅玉は颯爽としており、道玄たちを追い払うときに手土産代わりに10両の紙入れを投げ与える動作が粋。
『勧進帳』
解説は不要だろう。歌舞伎の代表作ばかりでなく、古典芸能から新劇に至る数多の演劇の中で、これほど素晴らしい芝居は他にない。この日、外国人の客が目についたが、日本の文化を理解するにはピッタリだ。
もし歌舞伎を一度もみたことがない方がおられたら、一幕見でも良いからご覧頂きたい。
山伏は通行罷りならぬとする富樫に対し弁慶らが調伏の呪文を唱え疑いを晴らそうとする「のっと(祝詞)」
富樫は勧進帳を読んでみるよう命じると弁慶はたまたま持っていた巻物を勧進帳に装い朗々と読み上げる「勧進帳読上げ」
富樫が山伏の心得や秘密の呪文について問い質すと弁慶が淀みなく答える「山伏問答」
富樫が失礼を詫びて酒を勧め酔った弁慶が舞を披露する「延年の舞」
そして最後に踊りながら義経らを逃がし弁慶は富樫に目礼し後を急ぎ追いかける「飛び六方」
手に汗にぎる名場面の連続で、終演のさいに周囲からも溜め息がもれる。それほど緊張感に溢れる舞台だ。
弁慶の吉右衛門は風格・貫録といい、酔って舞う時の愛嬌といい、義経に無礼を詫び涙を流す一途さといい、全て申し分ない。團十郎亡きあと、弁慶はこの人が第一人者といって良いだろう。
弁慶の嘘を見破りながらその心情を思い騙された振りをする富樫の菊五郎も好演。
義経の藤十郎を含め、「勧進帳」としては現在最高キャストと言える。
『日本振袖始』
有名な素盞嗚尊(すさそうのみこと)の八岐大蛇(やまたのおろち)退治を義太夫の舞踊劇にしたもの。
美しい玉三郎の踊りをみて周囲のご婦人たちはただウットリ。
もし玉三郎の踊りだけを楽しみにという向きには、昼の部の『二人藤娘』の方が良かったかも。
この日は練達の観客が盛んに「大向う」から掛け声を発して舞台の雰囲気を盛り上げていた。
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昼の部は、新古演劇十種は菊五郎の家の芸で、玩辞楼十二曲は初代中村鴈治郎の当り役。
夜の部は、歌舞伎十八番。
決めかねて、何度か観た「勧進帳」は諦め、「二人藤娘」も観たかったので昼の部にしたのです。:.゜(*' Д' *)゜.:。
でも、播磨屋が弁慶で義経が藤十郎、富樫が菊五郎。
この三つ巴もやっぱり見たかったです。。(>_<。)。。
投稿: 林檎 | 2014/03/15 07:00
林檎様
今月は昼夜ともに行く価値があったんですが、なにせ入場料が高いので夜の部だけにしました。
「二人藤娘」は良かったでしょう?
「勧進帳」は誠に結構でした。
投稿: HOME-(ほめ・く) | 2014/03/15 09:41
「二人藤娘」は見目麗しく、藤の精の美しい佇まいは、この世のものとは思えませんでした。想い出すたびに、夢をみているような心持ちになります。
゜+。:.゜(*' Д' *)゜.:。+゜
吉右衛門丈の玉の井もとても素晴らしかったです。
投稿: 林檎 | 2014/03/16 15:51
林檎様
そうでしょうね、想像がつきます。
でもせっかく玉三郎が出るんなら、舞踊だけでは勿体ないという気持ちもありますが。
投稿: HOME-(ほめ・く) | 2014/03/16 17:04