#64「扇辰・喬太郎の会」(2014/4/13)
第64回「扇辰・喬太郎の会」
日時:2014年4月13日18時30分
会場:国立演芸場
< 番組 >
前座・入船亭ゆう京『弥次郎』
柳家喬太郎『猫久』
入船亭扇辰『お初徳兵衛』*
~仲入り~
入船亭扇辰『百川』
柳家喬太郎『船徳』*
(*印はネタ下ろし)
この会はチケットが取りづらい。つまり人気が高いということだが、その秘密は扇辰と喬太郎それぞれが必ずネタ下ろしを一席演じるところにある。何にせよ「お初」というのは良いもんだ。毎回、二人がどんな仕上がりを見せるのか楽しみなのだ。
特に今回は縁のあるネタを並べた、初代志ん生作の人情噺『お初徳兵衛浮名桟橋』発端を、明治の初代三遊亭円遊が滑稽噺に仕立てたのが『船徳』だ。そのオリジナルの「馴れ初め」の場を5代目志ん生が『お初徳兵衛』というタイトルで演じた。
『船徳』は毎度お馴染みだが、『お初徳兵衛』の方は志ん生から10代目馬生、さらには弟子の雲助へを伝えられているが、寄席の高座にはめったに掛からない。
さて、「初物」の2席はいかに。
扇辰『お初徳兵衛』
ストーリーは。
徳兵衛の遊びが過ぎて勘当になり「大松屋」という船宿の二階に居候うする。実家が夫婦養子を取り、もはや帰る所が無くなった徳は船頭になることを決意し親方に伝える。初めは渋った親方だが徳の決意が固いことを知り、子分の船頭たちに指導を頼む。
竿は三年魯は三月、徳は初めは猪牙舟から、次第に屋形船といった大型舟まで操れるようになる。腕が良い上に元は遊び人だったから口の達者で今ではほうぼうから指名がかかる人気船頭になっている。
そんなある日、四万六千日の参詣にと二人の大店の旦那が芸書・お初を連れて船宿を訪れ、大桟橋までやってくれと徳に頼む。ところが途中で二人の旦那の気が変り、吉原で昼遊びしようと相談がまとまる。当時は外の芸者を吉原に連れこむことはご法度だ。仕方なくお初一人だけ柳橋まで送るよう徳に依頼する。途中に大雨にあい、止むを得ず松の木の下に船を舫い雨が上がるのを待つのだが、やがて雷雨となってくる。船の舳先にいた徳に、それでは濡れてしまうからと部屋に入るよう勧めるお初。実は二人、幼い頃に同じ長屋に住んでいて、その頃からお初は徳兵衛に憧れていた。お初が芸者になったのも徳に会いたかったからだと打ち明けられると、徳も以前からお初の美しさに惹かれていたと告白する。
こうなりゃ猫の前に鰹節をぶら下げたようなもん(これはアタシの注釈)、二人はその場で結ばれる。
なお原作では、この後いろいろな邪魔が入るが、最終的には二人は目出度く夫婦になるのだそうだ。
いかにも扇辰らしい丁寧な描写で、徳兵衛が単なる船頭ではなくかつて遊び人だった面影も残していた。船の中でのお初の一途な思いも伝わり、ネタおろしとは思えない程の仕上がりを見せた。
ただ、船で二人が語り合う場面が少しくどく感じた。もうちょっと刈り込んだ方が良いと思ったけど。
全体としては、もう扇辰の持ちネタとして立派に通用する出来だった。
喬太郎『船徳』
全体の筋立てはほぼ8代目文楽の高座に沿ったものだった。大きな違いは徳さんの性格づけで、文楽が描く徳はいかにも遊び人くずれだったが、喬太郎は今風。ニートがやることがなくて船頭になったような印象だ。この辺りは喬太郎としては独自性を出したかったんだろう。この人らしいクスグリも散りばめて爆笑タイプの噺に仕立てていた。前席の扇辰の高座が人情噺だったので、より対比を強める意図があったのかも知れない。客席の受けも良かったのだが、アタシとしては注文がある。
一つは、船宿の女将の造形だ。この女将は待合いや料理屋と異なり、荒くれの船頭をアゴで使うので「伝法」な所がなくちゃいけない。文楽の録音を聴けばよく分かると思う。
もう一つは舟の漕ぎ方だ。船宿から出るまでは竿を使い、大川に出た所で舟をいったん回して魯に替えるのが本寸法。この手の噺の場合は、こうした場面を丁寧に描くことが肝心だと思う。漕ぎ方ももっと綺麗に見せて欲しい。
そのほか細かなことでは、徳が舟を出す前に鉢巻きをするシーンも欠かせないように思う。
細部が仕上がれば、喬太郎の持ちネタとして十分に通用していくだろう。
その他のネタに関してはお馴染みなので省略。
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チケット、取れませんでした。
。(>_<。)。
黄表紙の裏を剥がすと見返しに
雲盛る恋は顔に袖濡れてに嬉しき夕立や
如何なる髪の結びよう帯地の繻子つゆ解けて
二人は袖に稲妻の光にパッと赤らむ顔
かないにやられ兼好の筆も及ばぬ恋の情とし
『お初徳兵衛浮名桟橋』おこりの一席でした
雲助師が最後に語る台詞も好きで、文章を読んで扇辰さんと喬太郎さんの噺を聴きたくなりました。
投稿: 林檎 | 2014/04/15 19:00
林檎様
このチケットを取るためだけに音協の会員になりました。ぴあ等では先ず無理です。
雲助の科白は師匠の馬生譲りで私も好きです。扇辰は宮戸川のような終り方にしていたのですが、ここは雲助ですかね。
投稿: ほめ・く | 2014/04/15 21:15
私が行けない日曜の落語会で、もっとも歯軋りするのが、この会です^^
扇辰の演じる油屋など、きっと良かったんでしょうねぇ。
数年前のらくだ亭での雲助の名演を思い出します。
投稿: 小言幸兵衛 | 2014/04/15 21:22
小言幸兵衛様
三度の飯を四度食べてもこの会だけは見逃せない。
扇辰の、特にお初の情緒纏綿たる心情が良く表現されていました。油屋がこれから後半になると悪役に転じる兆候も布石していて、結構な出来でした。
投稿: ほめ・く | 2014/04/15 22:05
何度か良席が取れた事があったのですが、今回は無理でした…。(>_<。)。
会員の検討をしてみます。
雲助師と扇辰さんの終り方は違うのですね。
科白を覚えてしまったくらい好きなので、雲助師以外でも聴いてみたいです。
喬太郎さんの『船徳』はやっぱり爆笑になるのですね。
投稿: 林檎 | 2014/04/16 18:00
林檎様
雲助の終わりの部分ですが出典は不明です。ただ昭和30年代、つまり今から半世紀ほど前の8代目春風亭柳枝『宮戸川』の録音にこの言葉が使われていますので、かなり以前からあったものと思われます。
こういう終わり方も江戸落語らしく粋ですね。
投稿: ほめ・く | 2014/04/16 22:23
教えてくださりありがとうございます。
聴いてみます!
何度もコメントすみません。
投稿: 林檎 | 2014/04/17 18:50