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2014/05/18

五代目小さん・孫弟子七人会(2014/5/17昼)

「五代目小さん・孫弟子七人会」昼の部
日時:2014年5月17日(土)12時
会場:イイノホール
<  番組  >
入船亭扇辰『千早振る』
柳家喬太郎『仏馬』
柳家甚五郎『崇徳院』
柳家三三『三味線栗毛』
~仲入り~
柳家左龍『三人旅~おしくら』
柳家喜多八『粗忽長屋』
立川生志『紺屋高尾』

風薫る「小さん」の文字の丸きこと 
公演のチラシに書かれた扇辰の俳句だ。正面から見ても横から見ても上から見ても、どこから見ても球体という丸い顔だった小さん、名前まで丸い。それは顔の形だけではなく心もそうだったようだ。だからあれだけの弟子が小さんの下に集まったんだろう。喧嘩別れした筈の談志でさえ最後まで小さんを慕っていたという事実がそれを証明している。
その5代目小さんの孫弟子7人による落語会、出演者7人とネタが14本出されていて、出番もネタの選択もフタを空けてみてのお楽しみというこの会だ。ただネタの中身だが、どう見ても小さんの十八番や持ちネタとは思えない物もいくつかあり、「五代目小さんを偲ぶ」という会の趣旨から照らしてどうなんだろうという疑問が湧く。
昼の部は上記のような演者とネタの組合せとなった。前座は金原亭駒松だったが開演時間前に上げていたので聞き逃した。

扇辰『千早振る』
マクラで滑稽噺が一番難しいと、『文七元結』なんて簡単なんだですと語っていたが、そういうものかも知れない。確かに人を笑わせるというのは大変な仕事だ。してみると落語家は最も高級な芸人ということになる。
このネタは扇辰の十八番と言っていいだろう。千早太夫が5年後に乞食に身を落とすときいて、「全盛の花魁がですよ乞食になるなんて、そりゃおかしいじゃありませんか」「なったっていいだろう、本人がなりたいって言うんだから。人間なりたいと思えば何にでもなれる。中でも乞食になるのは簡単だ。お前さんなんか明日からでもなれる」。こういう掛け合いが実に可笑しい。「地」の語りの部分と「セリフ」の部分の切り替えが絶妙だ。
このネタは現役ではこの人と瀧川鯉昇がツートップだと思う。

喬太郎『仏馬』
イントロで「扇辰・喬太郎の会へようこそ。本日のゲストは5人です」。
このネタは初めて。どうやら長く埋もれていた古典を喬太郎が掘り起こしたもののようだ。民話か仏話のようなストーリーで、粗筋は次の通り。
田舎の寺の坊主の弁長と小坊主の西念のふたりがお布施を集めている内に、ふるまい酒で酔ってしまった弁長に対し、西念は貰い物をすべて持たされてフーフー言ってる。土手にさしかかると、一頭の黒毛馬が木につながれて休んでいた。これ幸いと弁長は勝手に西念の荷物をその馬に背負わせると、西念を馬と共に寺へ帰し、自分は一眠りして酔いをさまそうというわけ。弁長は土手から滑り落ちないよう木に腰紐で自分の体を結わえると寝入ってしまう。そこに戻ってきたのが馬の持ち主の百姓。弁長を起こし自分の馬を知らないかと訊ねると、これはマズイと思った弁長は放蕩のため仏罰が当たり畜生道に落ちていたのだが、修業の甲斐あって釈迦に許され、つい先ほど人間に戻れたなどとウソをついてごまかす。
百姓は弁長を家に連れ帰り酒でもてなす。またしても酔っぱらった弁長は朝になってようやく寺に戻る。寺の住職は西念が連れ帰った馬を市で売って金に換えてくるよう申しつけ、弁長は馬を売ってくる。
一方、馬がいなくなってしまった百姓は市へ馬を買いに出かける。すると見覚えのある一頭の馬を見つけた。「こりゃあ弁長さんだろ? また仏罰に当たったか?」と馬の耳元にささやくと、馬は大きくかぶりを振るが、百姓は「とぼけたって無駄だ。その左耳の付け根の差し毛がなによりの証拠」。
長い間演じ手が無かったということはツマラナイ、受けないという事。あるいは輪廻転生というテーマが嫌われたか。
そこそこ面白く聴かせられたのは喬太郎の話芸の力だろう。

甚五郎『崇徳院』
真っ直ぐな高座は好感が持てる。余命あと幾日という若旦那が元気が良過ぎるように見えた。そのせいか熊との会話にメルハリが薄かったように思う。

三三『三味線栗毛』
ストーリーは昨日の鈴本の記事に書いた通りで、錦木は検校に取り立てられてメデタシメデタシの結末。
角三郎と錦木の身分を越えた友情を軸にしており、酒井雅楽頭と錦木との再会シーンは感動的だ。三三の語りが光る。
しかし前日に喬太郎で聴いていたので、やはり語りの綿密さには差を感じてしまう。これは仕方ない事だろうけど。

左龍『三人旅~おしくら』
小さんの得意ネタといえば「旅」「狸」「泥棒」「酒」辺りがキーワードと言える。なかでも二人旅、三人旅に関する演目は多かった。「おしくら」というのは宿場の飯盛り女の隠語のようで、朝夕は宿の女中として働き、夜ともなれば男性客の要望に応じるという女性たちを指す。
男三人が宿に泊まり、女中に「おしくら」をリクエストするが生憎この宿場には二人しかいない。それじゃ喧嘩になるということで、何とかもう一人をを頼むと、女中は年増を一人手当する。ただその年増は昨年米寿を迎えたという老女。これを聞いた男は上手い事言って、仲間の一人にその年増を押し付ける。翌日顔を合わせた三人だが・・・。
左龍の演じる宿の女中の造形が良い。セリフも勿論、この人の顔が生きる。女中が喋るだけで客席から笑いが起きた。男三人の演じ分けもきちんと出来ており、この日の二重丸の高座だった。
地味ながら着実に力を着けてきた左龍、その実力の一片を見せつけた一席。

喜多八『粗忽長屋』
この日は出演者がマクラで小さんの思い出について一言語るという企画だったようだが、孫弟子ともなれば2,3度会った程度で、それほど深い思いがあるというわけじゃない。その中で喜多八が披露したエピソードだけは生々しい。
まだ前座のころ、あるバーのママに可愛がられ、夜席がはねると毎夜その目白近くのバーでタダで呑んでいた。ある夜、そこの剣道仲間を連れた小さんが現れ、喜多八を見つけて呼びつけ厳しく叱った。前座の身分のうちは飲酒はご法度、これを師匠の小三冶に告げられたら破門は必至。処が叱っていた小さんは脇のホステスの肩を抱いたままで指先が胸の辺りまで・・・。この恰好を小さん自身が気付いたのか、小言はやみ「一杯だけ呑んで早く帰れ」の一言で無罪放免となったとのこと。
映画の一シーンを見てるようでありますなぁ。
ネタは喜多八らしい滲み出るような可笑しさに溢れていた。
小さんの滑稽噺を最も引き継いでいけるのは、この人かも知れない。

生志『紺屋高尾』
談志が独立以後に入門した弟子たちは例外なく談志の影響を強く感じるのだが、この人だけは薄めだと印象を前から持っていた。立川流から一人だけという事もあったんだろう。ようやく最近になって談志の洗脳が解けてきたと言っていた。
紺屋の職人・久蔵が流山の若旦那と身分を偽って高尾に会いに行くのだが、腕の先は染物の色が染みついている。それを隠すために常に袖に手を入れていた久蔵。でも高尾が気付いてしまうが黙っていた。久蔵が身分を打ち明けウソを詫びる時に高尾は初めてその事を打ち明ける。この伏線がクライマックスシーンの効果を高めていた。
いつも大名や大金持ちの相手ばかりでウンザリしていた高尾が、年季を明けたのを機会に自分の生き方を考えて職人の妻になるのを選んだんだろう。そういう心理も読み取れるような一席だった。

5代目小さんの追善興行に相応しい力作揃いだったと思う。

ここの所、立て続けに落語会へ通ってきましたが、今月はあと20日にもう一度ありますが、その後はしばらく間が空き、ブログも休載の予定です。

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コメント

生志さんが、十一時から入って噺を聴いて疲れたと仰っていましたが、確かに前座を入れての八席(新作や色物なし)は寄席とは違った疲労感が少しありました。
生志さんの『紺屋高尾』は久蔵の嘘に高尾が気付いていて黙っていたのが良かったです。
久蔵の嘘に気付かない高尾は不自然だと思っていたので…。

残念だったのは演目と演者を結ぶと書いてあったせいか(以前コメントに書かれていた)ペンのカチッカチッという音が気になりました。(>_<。)。

投稿: 林檎 | 2014/05/18 20:40

林檎様
あれを昼夜聴いた方は尊敬しますね。
生志の『紺屋高尾』は良かった。紺屋職人の腕の染料は気付かない方が不自然で、あの演出は説得力がありました。
ペンのカチカチ、どうにかなりませんかね。私はペン先を出しっ放しにしています。別に不自由は無い筈だと思うんですが。

投稿: ほめ・く | 2014/05/18 22:18

喬太郎さんの「仏馬」は何度か聴いた事があり、適当な弁長さんと信心深い純朴な田舎のお百姓さんとのやりとりが長閑で好きですが、恥ずかしながら下げの意味が(調べても)わかりません、、、。

投稿: フラニー | 2014/05/19 05:53

フラニー様
私も調べたんですが「お相撲煎餅」でお手上げです(このシャレも通じなくなりましたね)。どうやら、そのまま受け止めるしかなさそうです。

投稿: ほめ・く | 2014/05/19 08:20

好い会でしたね。
仏馬は小三治で聴いたような気がします。

投稿: 佐平次 | 2014/05/19 09:57

喬之進でした。
トルコのホジャさん物語が原典のようです。

投稿: 佐平次 | 2014/05/19 10:05

佐平次様
喬之進のはサゲを変えているようですね。ホジャなんの物語はあちこちで使われているです。そういえばホジャの像も馬に乗ってましたっけ。

投稿: ほめ・く | 2014/05/19 19:31

立川流も孫弟子として出たんですね。
唐突ですが、市馬次期会長には立川流・円楽党との歴史的和解をとりもってほしいと思います。
古い歌謡曲ファンという繋がりで談志とは昵懇でした。
抵抗もあって難しいでしょうが、期待しています。

投稿: 福 | 2014/05/20 06:40

福様
この会に立川流から一人、それも生志というのは適切なキャスティングでした。
生志が語っていましたが、談志は生前、寄席を否定する考え方を弟子たちに語っていたようです。生志はそうした洗脳から解けつつあると言ってました。
もう脱退当事者が亡くなってしまったんですから、そろそろ雪解けに向かって欲しいものだと思っています。

投稿: ほめ・く | 2014/05/20 09:16

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