「雲助蔵出し ぞろぞろ」(2014/7/5)
「雲助蔵出し ぞろぞろ」
日時:2014年7月5日(土)14時
会場:浅草見番
< 番組 >
前座・柳家緑太『垂乳根』
古今亭志ん吉『夏泥(置き泥)』
五街道雲助『強情灸』
五街道雲助『あくび指南』
~仲入り~
五街道雲助『中村仲蔵』*ネタ出し
ここんとこ相次ぐ「セクハラヤジ」がいずれも自民党議員から発せられていることに、石破幹事長が党内の気のゆるみウンヌンを原因としてあげているが、その通りだ。圧倒的多数をたのんでヤリタイ放題という体質が、党内全体に沁み渡っている。「驕る平家は久しからず」。
時おり小雨がぱらつくなか、外国語が飛び交う仲見世を通り抜け会場の浅草見番へ。この日初めて芸者が見番に入って行くのを見た。スラリとした面長の綺麗な人だった。1時少し回った時間に着いたのだが開場を待つ長い列が出来ていた。行列のできる落語会だね。
前座が替わったのは歓迎。
志ん吉『夏泥』、二つ目になって4年という事だが、会話の「間」が良くこのネタに関しては合格ライン。この噺に登場する泥棒は人が良過ぎるし、大工は人が悪過ぎる。お互い商売替えした方がいい。
雲助の仲前の2席、細かいのを二つ並べるとあったが、どうして力の入った高座だった。
1席目の『強情灸』、マクラで昔の朝湯では熱い風呂に我慢して入る姿を描くのは通常通りだが、もう一つ加えていた。
男湯で熱い湯に入れずマゴマゴしている男に中に入っていた爺さんが、「股の間にぶら下がっているものをしっかり握って入れ」と叱咤する。一方女湯で熱い湯に入れずにいる女に婆さんが、「股の間にぶら下げって、ないね・・・、つまんで入りな」。先代馬楽から雲助が楽屋で教わったもので、「こりゃ高座じゃできねぇ」と言われたのをこの日披露。これが演りたくで『強情灸』を選らんだそうだ。この会ならではのマクラ。
ネタは大師匠・志ん生流で、江戸っ子の意地の張り合いを江戸弁でまくしたてる所がカナメ。山場である兄いが二の腕に艾を乗せ、最初は涼しい顔で勇ましい言葉を並べているうちに、次第に灸の熱さが伝わり耐えられなくまでの過程は志ん生流にあっさりと。近ごろここに時間をかけて大袈裟な身振りで熱がる演出が多いが、雲助の演じ方が本寸法。
石川五右衛門の辞世の句、「石川や 浜の真砂は 尽きるとも 世に盗人の 種は尽きまじ」の下の句を「溶けて流れりゃみな同じ」と変えたのは、「松の木小唄」から採ったものとのこと。
雲助『あくび指南』、季節のネタでこちらも志ん生流が基本。違いは熊があくび指南所に出向いた時に最初に取次の女性が出てくる所と、あくびの師匠が京都で修行してきたという設定にしていた点。
あくび指南も最初に奥義である茶の湯の席でのあくびを演じて難しさを熊に示す所が志ん生とは異なる。
数多ある落語の中でも最もバカバカしいといわれるネタだが、これを真剣に演じる所がカナメ。
雲助は特にゆったりとした師匠と慌て者の弟子との対比に重点を置いた高座だった。
以上の2席だが、雲助の様にあまり余計な装飾をせず、サッパリと演じるのが正解なんだろう。
雲助の3席目『中村仲蔵』、このネタに関しては当代きっての演じ手である雲助の高座なので、ここでアタシがあれこれ言う必要もないだろう。定九郎一役を振られた仲蔵の苦悩、妙見様の満願の日の粋ななりをした侍(浪人という設定も多いが、雲助は小旗本としていた)との出会いから役作りを思い立つ場面。雲助の演出はここで侍が「お前は栄屋だな」と仲蔵を見抜き「しっかりやれ」と激励の言葉を残し去って行くという、二人の心の交流を描いていた。
仲蔵は準備万端整えて初日を迎え新趣向の演出で定九郎を演じるが、あまりの見事さに観客は唸るばかり。それを悪落ちと勘違いした仲蔵の落胆から、座長や師匠から褒められる終盤まで緊張感溢れる高座だった。
とりわけ雲助は仲蔵と女房おきしとの夫婦愛に重点を置いていた。
正に「夢でも良いから持ちたいものは 金のなる木と良い女房」で、女房の支えと励ましが無ければ仲蔵の成功は有り得なかった。
サゲは雲助独自の工夫のようだ。
でも最後に雲助が高座から下りる時に足を滑らせ「悪落ち」したのはご愛嬌。
余談になるがアタシがこの噺を聴いて感じるのは、歌舞伎を含め大衆芸能の世界は所詮興行の世界であり、最も大事なのは集客だという点だ。仲蔵の改変は明らかに「ケレン」だが、客が喜んでくれればそれが正解なのだ。文化だ芸術だと納まり返っていたら歌舞伎などとっくに廃れていただろう。落語も同じことで、最後は客が喜んでくれるかどうかだ。
この日も観客の多くは満足して帰途に着いたと思われる。
« 2014年上半期佳作選 | トップページ | 【街角で出会った美女】コソボ編 »
「寄席・落語」カテゴリの記事
- 「落語みすゞ亭」の開催(2024.08.23)
- 柳亭こみち「女性落語家増加作戦」(2024.08.18)
- 『百年目』の補足、番頭の金遣いについて(2024.08.05)
- 落語『百年目』、残された疑問(2024.08.04)
- 柳家さん喬が落語協会会長に(2024.08.02)
満足して次会場に向かいました。
つまむ噺、書きましたね^^。
投稿: 佐平次 | 2014/07/06 10:09
佐平次様
これが書きたくて朝からキーボードを叩いておりました。大好きなんですねぇ。
会もとても結構でした。
投稿: ほめ・く | 2014/07/06 11:26
私は一時少し前に並びましたから、接近遭遇でしたね。
居残り会で、佐平次さんと「ほめ・くさんがいらっしゃったら、あの小咄を書かないはずがない!」と話しておりました^^
期待通りであります。
12月は都合が悪く行けないのが残念です。
投稿: 小言幸兵衛 | 2014/07/07 21:28
小言幸兵衛様
皆さまのご期待を一身に背負って、ついつい書きたくない事も書かねばならぬ、この苦悩。って言う程じゃありません、単に好きだからですが。
近所のオジサンの猥談を聞いているような気分でした。
投稿: ほめ・く | 2014/07/07 22:19