「真打制度」って必要ですか
2014(平成26)年07月17日付で落語協会は平成27年春の新真打昇進決定を行った。既に何人かの落語ファンの方が紹介しているが、内容は次の通りだ。
【2015年春(三月下席より)
三遊亭司(歌司門下)、柳家喬之進(さん喬門下)、三升家う勝(小勝門下)、柳家麟太郎(小里ん門下)、入船亭遊一(扇遊門下)、金原亭馬治(馬生門下)、金原亭馬吉(馬生門下)、柳家さん弥(さん喬門下)、柳家右太楼(権太楼門下)、三遊亭ぬう生(圓丈門下)
以上、10名が真打に昇進することが決定しました。】
落語協会の真打昇進者だが、柳家小三冶前会長時代には以下のようになっていた。
2011年 0名
2012年春 1名
2012年秋 2名
2013年秋 5名
2014年春 5名
そして柳亭市馬新会長のもとで初めての真打昇進者がこうなった。
2015年春 10名
真打昇進披露興行は各定席の公演に従うので10日間単位だ。平等に出演するためには、昇進者の数というのは10の割り算で整数になる数字でなければならぬ。上に数字を見るとちゃんとそうなっていますね。
ではなぜ今回、一気に10名という大人数の昇進が決まったのか。想像するに前会長が就任して初めの2年までは抜擢人事が行われため二ツ目の香盤上位者が滞留してしまい、内部では相当に不満が高じていたのではなかろうか。真打になるかどうかは落語家にとって死活問題だ。本人も元より師匠の面目にもかかわる。だから真打昇進が協会の分裂や脱退の火種になってきたのだ。
2013年秋から修正して年功序列に戻し、5名ずつ昇進させてきたのはそのためだろう。2014年秋の昇進を見送った代わりに2015年春に10名昇進させたというのが話のスジだと思う。
協会内部事情からすれば当たり前に見えるかも知れないが、「いっぺんに10人もかよ」という印象を受けた方も少なくなかろう。
「真打」の意味を調べると、「落語家や講釈師の身分の中では最も高く、最高の力量を持つ者だけがなれるとされる」とある。
現状は落協、芸協ともに年功序列を基本にしており、「最高の力量」という定義から遠く離れたものになっている。
では「真打の権利」はどうかと言うと、次の様だ。
①寄席でトリが取れる
②弟子が取れる
③仲間から「師匠」と呼ばれる
④協会の理事になれる
⑤(想像だが)割が増える
いずれも本人や落語家の仲間うちにとっては大事な事かも知れないが、私たち観客にとってはどうでも良い事ばかりだ。
ご存知のように上方落語界には真打制度はない。戦前には存在していたが、戦後に何度か復活の話は出ていたようだが見送られた。上方落語ならではの自由な気風を損ねるというのが理由だったようだ。
かつて上方落語協会の会長だった6代目松鶴は「真打にふさわしいかどうかはお客様が決めること」と語っていたそうだが、私もその意見に賛成だ。
前座という見習い期間が終りプロの芸人になったら、後はヨーイ・ドンの本人の実力次第で良いのではないか。
実体のない「名ばかり真打」をいくら量産しても、観客からすればなんの意味もない。
今回の大量昇進がこの事を考える契機になるとすれば、それはそれで意味のあることだ。
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観客からすれば、というお話、おっしやる通りです。
むしろ落語家さんたちの生活権の確保という側面が強いんじゃないでしょうか。
最初に大量真打ができたときにも、そういう理由が語られたような記憶があります。
投稿: 福 | 2014/07/23 08:07
福様
寄席でトリを取ったのは真打披露の時だけという落語家もいるようで、生涯の晴れ舞台と意味では必要なのでしょう。
真打になっても殆んど寄席から声がかからない人もいるので、真打=生活権確保 という事にはならないかも知れませんが。
投稿: ほめ・く | 2014/07/23 10:34