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2014/07/11

角田美代子というモンスターを生んだ闇

一橋文哉(著)「モンスター 尼崎連続殺人事件の真実」(講談社刊 初版2014年4月)
Photoこの本に描かれた尼崎事件とは、1998年から2011年にかけて兵庫県尼崎市を中心に、高知県、香川県、滋賀県、京都府の5府県で、複数世帯の家族が長期間虐待のうえ8名の殺害が確認され、他に少なくとも3名、実際には10名近い人たちが死亡あるいは失踪者となっている連続殺人事件である。
報道では「尼崎連続変死事件」「尼崎連続殺人事件」とも呼ばれている。
著者の一橋文哉は全国紙・雑誌記者を経てフリージャーナリストとなり、「ドキュメント『かいじん21面相』の正体」(雑誌ジャーナリズム賞受賞)でデビュー。以後、グリコ・森永事件、三億円強奪事件、宮崎勤事件、オウム真理教事件など殺人・未解決事件や、闇社会がからんだ経済犯罪をテーマにした優れたノンフィクション作品を次々と発表している。
私も主要な著作は全て読んでいて、著者の技量を高く評価している。

日本の犯罪史上稀にみる凶悪事件の主犯・角田美代子の手口は「家族解体ビジネス」ともいうべきもので、ごくありふれた家族のちょっとした弱みにつけ込み巧みに仕組んで、家族同士を反目させた上でその家族の所有している財産を全て奪い取るというものだ。
この「家族解体ビジネス」は前例があり、実は私の近い親類にもこの被害にあい、家族はバラバラにされ、土地と家屋を全て奪われたという実例がる。周囲が気が付いた時は手も足も出ない状況だった。この件はいずれ当ブログで記事にする予定だ。
しかし角田美代子の犯行はこうした手口にとどまらず、家族同士間で虐待、監禁させ、自分に従う者は養子縁組などで美代子ファミリーに取り込み、反抗する人間は家族の手で殺害させるという極めて残虐な点に特徴がある。こうして取り込まれた人間は美代子の「疑似家族」の一員となって次の犯行に加担して行く。もちろん彼らも美代子に反抗したり逃亡したりすれば、凄まじいリンチや殺害が待っているから言う通りになるしかない。
美代子本人が手を下さず被害者の家族を実行犯とすること、美代子が家族の一部と複雑な養子縁組をする事により家族内の揉め事に見せかけ、警察の民事不介入を利用して捜査の手を逃れていたのも特徴の一つだ。
正に角田美代子こそ、その非人間性においてモンスターと呼ぶより他はない。

しかしこの事件の最大の問題は、主犯の角田美代子が2012年12月に、取り調べ中の兵庫県警本部の留置所内で「変死」(公式的には「自殺」と処理されているが、死までの経緯や「自殺方法」には謎が多く、敢えてここでは「変死」とする)してしまい、彼女が事件の核心についてほとんど語らなかった事と、1通の供述書も取れないまま終結してしまったため、事件の真相は永久に闇に葬られることになった。

美代子ファミリーの起こした事件の中には明らかな刑事事件もあり、兵庫県警を中心にいくつもの情報提供があったし、中には被害者が直接警察に駆け込む事さえあったにも拘らず、警察は最後まで動かなかった。これも謎として残されている。もし早い段階で警察が適切な捜査を行っていれば、一連の事件の被害は最初の段階で食い止めることが出来た筈で残念でならない。
そのせいか彼らの悪事が発覚したのは、被害者の一人が監禁場所の兵庫から逃げ出し、大阪府警に駆け込んだのがきっかけだった。
そして肝心の主犯を不手際で留置所内で「自殺」させてしまったのも兵庫県警だ。
著者が事件と兵庫県警を結ぶ接点がどこかにあるのではと疑ったのも当然といえる。

本書では山口組系暴力団幹部のMという男の存在に着目し、そのMこそ角田美代子の犯罪の指南者だったことを突き止める。美代子は多くのメモを残しているが、その中でMから教示された詳細な手口が書かれており、その指示に従って犯行を行っていたことを明らかにしている。
Mからの情報の中には警察の動きや、警察関係者でしか知り得ない情報も含まれており、美代子がより一層Mを信頼する理由ともなった。むろん美代子がMに対し指導料を支払っていたことは想像に難くない。
Mの急死後、美代子はそれまでの犯罪では考えられないようなヘマを犯し、結局それがきっかけとなって事件の全容が明るみに出ることになるのだが、いかにMの存在が大きかったかの証でもある。

著者の調査は更に一歩進み、なぜMが警察関係の情報に詳しかったのかという点について、Mと接点があったと見られる兵庫県警幹部だった県警OBの存在を把握し、面会に行っている。著者が「Mという人物を知っていますよね」と訊ねると、県警OBは「そんな男は知らない。失礼だぞ、君。私はヤクザと付き合いなど無い。」と明確に否定されてしまった。著者がMは男だともヤクザだとも言ってないのにも拘らず。
美代子は拘留中もノートに日記風のメモを残していたが、その最後のページにはこう書かれていた。
「私は警察に殺される」。
角田美代子というモンスターを生んだのは、もちろん生い立ちや生活環境に負う所が大きいが、それだけではない。日本社会が抱える闇の部分が彼女の成長を促進したともいえよう。その闇の中で本人も死んで行ったとするなら、なんと言う皮肉であろうか。

美代子らの犯罪にあった被害者らの家族というのは、揃ってごくありふれた家族であり、家族同士の仲も良かった。だから我々だっていつなんどき彼らの「家族解体ビジネス」の被害者になるか分からない。そういう怖ろしさが本書を読むうちに伝わってくる。
彼らにつけ込まれるような弱み(特に金銭がらみ)を持たない事が肝要だが、そうも行かない事もある。
注意せねばならないには私の親類のケースもそうだったが、美代子も最初はとても親切な人間として登場し、先ず一家の主を信用させ次第に家族の中へ入り込んで来るという手口だ。
そして些細なことで因縁をつけてきて、やがて要求をエスカレートしてくる。
美代子が眼をつけた中にも幸い被害を免れた人や被害が最小限で済んだ人もいるが、共通しているのは最初の段階で要求を毅然とはね付けていることだ。特に戸主の姿勢が大事だという点が教訓のようだ。

余談だが、笑顔を振りまきながら「私たちは日本国民の生命と財産を守るために全力をあげます」なんて言ってる人物には注意が必要かも知れない。
「ファシズムは笑顔でやってくる」と言うではないか。

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コメント

気がついたときは手の打ちようがない、怖いですね。

投稿: 佐平次 | 2014/07/12 10:41

佐平次様
怖いですよ、美代子もシンゾーも。

投稿: ほめ・く | 2014/07/12 17:48

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