「裁判員制度」を否定する最高裁
大阪で1歳の娘を虐待死させたとして、1審の裁判員裁判で検察の求刑を大幅に上回る懲役15年の判決を言い渡された両親の裁判で、7月24日最高裁判所は「裁判員裁判といえども、ほかの裁判との公平性が保たれなければならない」と指摘して、刑を軽くする判決を言い渡した。
この事件は、4年前に岸本憲被告と妻の美杏被告が、大阪・寝屋川市にあった自宅で当時1歳の3女を虐待し、頭をたたくなどして死なせた傷害致死の罪に問われたもの。
検察の懲役10年の求刑に対し、1審の裁判員裁判は大幅に上回る懲役15年を言い渡し、2審も取り消さなかったため被告側が上告していた。
24日の判決で、最高裁判所第1小法廷の白木勇裁判長は「裁判員裁判といえども、ほかの裁判との公平性が保たれなければならず、これまでの刑の重さの大まかな傾向を踏まえたうえで、評議を進めることが求められる。従来の傾向を変えるような場合には具体的に説得力をもって理由が示される必要がある」という初めての判断を示した。
そのうえで、「1審判決は従来の傾向から踏み出しているのに根拠が十分示されておらず、甚だしく不当な重さだ」と指摘して、懲役15年を取り消し、父親に懲役10年、母親に懲役8年を言い渡した。
裁判員裁判の判決が2審で取り消されたケースはこれまでもあったが、最高裁が直接見直したのは今回が初めて。
5年前に市民の視点を反映させる裁判員裁判が導入されて以降、厳罰を求める判決が出される傾向にあり、裁判員裁判であっても刑の公平性は守られるべきだという今回の判決は今後の裁判に影響を与えるのは必至だ。
ここで問題とすべきは、白木勇裁判長の補足意見で、要旨次のようの述べている。
「裁判員裁判を担当する裁判官は、量刑判断に必要な事柄を裁判員に丁寧に説明し、理解を得ながら評議を進めることが求められる。」
ここでいう「丁寧に説明」「理解を得ながら」という表現は国会答弁などで毎度お馴染みで、「押し付け」「指導」「説得」と同意語だ。
これからの裁判員裁判では、量刑に関しては担当裁判官より「積極的指導」が行われることになろう。
裁判員制度の目的のひとつは裁判に市民感覚を反映させることにあり、従来のプロの裁判官の判断とは差が出ることは当然なのだ。それを過去のプロが出した判断に従えというなら、裁判員裁判など不要である。仕事や私生活を犠牲にしてまで裁判に参加した裁判員たちには虚しさだけが残されるだろう。
白木勇裁判官の意見は、事実上裁判員制度を否定したものと捉えられても仕方ない。
むしろ問われるべきは、そうした最高裁の体質だ。
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