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2014/08/05

五街道雲助『栗橋宿』『関口屋』(2014/8/4)

「らくご街道 雲助五拾三次―強請―『怪談牡丹燈籠より栗橋宿〜関口屋』」
日時:2014年8月4日(月)19時
会場:日本橋劇場
<  番組  >
五街道雲助『栗橋宿』
~仲入り~
五街道雲助『関口屋』

落語家の「旬」、あるいは「最盛期」と置き換えてもよいが、経験則からいうと60代と考えられる。もちろん人によっては70代で「旬」を迎える人もいれば、50代で、なかには若い頃が「旬」で後は惰性という噺家もいるが。
その理屈からいえば雲助は今が「旬」という事になり、いま聴くべき噺家の一人である。
今夏の怪談シリーズ、今回は雲助の『怪談牡丹燈籠より栗橋宿〜関口屋』だ。先日志の輔でダイジェスト版を聴いたばかりだが、この日はそのなかの二つの演目を2時間かけて演じる。
口演に先立ち今までの粗筋がアナウンスで紹介されたが、全体のストーリーと人物の相関図は”志の輔『牡丹灯籠(通し)』”の記事を参照願う。

高座の両側に燭台が立てられ、蝋燭の灯りだけで雲助の語りが始まる。

雲助『栗橋宿』
伴蔵とお峰夫婦は伴蔵の生まれ故郷である栗橋へ移り住み、幽霊からもらった百両を元手に栗橋で荒物屋の関口屋をはじめる。安くて品物が良いという評判で店は大繁盛、あっという間に間口4間、奉公人も数人抱えるという大店を構える事になる。お峰は昔の暮しを忘れぬよう昼は店の仕事、夜は手内職の生活を続けるが、ヒマと金ができた伴蔵は茶屋酒をおぼえる。次は浮気、酌婦のお国という女と懇ろになる。
そのことが女房お峰にバレ夫婦げんかになった。居直る伴蔵に対し、お峰は大きな声で新三郎の一件を持ち出し、百両を出せば別れてやると騒ぎ立てた。伴蔵は困って平身低頭、二人で別の土地に移りやり直そうと提案してお峰を納得させる。その夜は川柳の「女房のツノをヘノコで叩き割り」といった按配。アタシにはどういう意味だか分かりませんが。
翌日、夫婦揃って隣町幸手で遊んだ帰り、利根川土手に向かい、伴蔵の悪巧みで女房お峰は殺されてしまう。
強盗の仕業と言い逃れした伴蔵は無事に葬儀も済ませるが、その夜、女中の一人がうわ言を言い始める。その内容がまるでお峰が乗り移ったごとく。

雲助『関口屋』
女中の容体を心配して医者を呼ぶと、それが山本志丈。お露の実家である飯島家に出入りし、お露と新三郎を逢わせた幇間(おたいこ)医者だ。この男も江戸にいられぬ事情が出来て、たまたま栗橋宿に逗留していたというわけ。
山本志丈が女中を見舞うと、女中はうわ言で、新三郎殺しの一件から、海音如来の金ムクの仏像を盗み、幽霊から100両貰って店を出し、今度は邪魔になったお峰を惨殺した経緯を全て喋り出す。
慌てた伴蔵は女中を宿へ下げるが、奉公人たちが次々と同じ症状を示し、結局全員を解雇してしまう。
こうなれば伴蔵としては山本志丈に全てを話すしかない。
ここでちょっと気になったのは、伴蔵が新三郎を蹴殺してお露の墓をあばいて遺骨を取り出し、新三郎の遺体の周りにばら撒いたという説明。その後、伴蔵は幽霊話を周囲に吹聴し、ここ栗橋に来たと言うのだ。これが事実なら『お札はがし』自体がフィクションと言うことになるわけで、伴蔵の真意がよく理解できない。
伴蔵と山本志丈は連れだって茶屋に上がり酌婦のお国を呼び出すが、山本志丈とお国は顔見知り。お国は慌てて家へ帰ってしまう。山本志丈は伴蔵にお国の悪事を全てバラシ、注意を喚起する。
翌日、お国の情夫宮邊源次郎が金をゆすりに来るが、逆に伴蔵に追い返される。
伴蔵は栗橋を引き払い、山本志丈と江戸に帰る。

牡丹燈籠のなかの栗橋宿〜関口屋は芝居の世話物狂言にしても良いくらい、ドラマチックだ。
この中に出てくる人物の殆んどは悪人だが、なかでも伴蔵は正札附きの悪党だ。そして最も魅力的な人物(作中の登場人物としてという意味で)として描かれている。
伴蔵はこの後に山本志丈も殺してしまうのだが、この男の犯行は全てその場限りの行き当たりばったり。なんの計画性も見通しもない。
この物語が書かれた幕末から明治維新にかけて、明日はどうなるか分からぬ不安を持ちながら必死で生きていた庶民の姿が投影されているような気がする。同時に現代の連続殺人にもつながる人物ではなかろうか。
もう一方の悪人・お国の犯行は対照的に計画的だ。先ず飯島平左衞門家の女中奉公して奥方が死去すると平左衞門の妾になおり、先妻の娘・お露を家から追い出す。隣家の旗本の次男坊・宮邊源次郎と不義密通し、二人で共謀して平左衞門を殺害し、飯島家を乗っ取ろうとするが失敗すると、財産を全て持ち去り故郷の新潟へ逃亡を図る。途中の栗橋宿で路銀が尽きると伴蔵をたぶらかして生活費を得た上に、いずれ新潟へ旅立つ時は伴蔵を強請って大金を得るという計画だった。この辺りは同じ悪党でも男と女の違いなのか。

2席とも雲助の語りが冴えわたっていた。
『栗橋宿』ではいくつか言い間違いや言い淀みも見られたが、伴蔵とお峰の夫婦喧嘩の場面に迫力があった。最終的にお峰を言いくるめる伴蔵の嫌らしさも表現されていて、お峰の哀れさ無念さが伝わってきた。

後半の『関口屋』では山本志丈の人物像が優れていた。いかにもお調子者という表面づらと相手の弱みにつけ込んで強請るという陰湿さが同居している人物を、雲助は巧みに表現していた。
山本志丈と再会したお国の動揺ぶりも良く、宮邊源次郎の強請を撥ねつける伴蔵の啖呵は迫力満点。
今年のベスト候補に推したい高座だった。

最後に燭台の蝋燭の芯を打ち高座を終わらせる演出も真に結構。

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