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2014/08/19

鈴本演芸場8月中席・夜(2014/8/18)

「鈴本演芸場『吉例夏夜噺 さん喬・権太楼 特選集』8日目」
<  番組  >
柳家東三楼『たらちね』
三増紋之助『曲独楽』
橘家圓太郎『桃太郎』
入船亭扇遊『道灌』
古今亭菊之丞『法事の茶』
江戸家小猫『動物ものまね』
春風亭百栄『弟子の強飯』
露の新治『紙入れ』
-仲入り-
ホームラン『漫才』
柳家さん喬『千両蜜柑』
林家正楽『紙切り』
柳家権太楼『鰍沢』

鈴本の8月中席夜の部はもう十数年になるか、旅行中を除いて毎年の恒例にしている。当時からさん喬・権太楼の二枚看板の興行だった。違いは全席当日売りの自由席で、浅草演芸ホール昼の部で志ん朝を観てから上野に移動して17時に到着、それでも最前列で観られた。当時は浅草の方がずっと人気が高かった。
いま中席夜の部は10日間前売り完売で隔世の感がある。

この日は面白い趣向があった。寄席では似たような噺を「付く」といって避けるのだが、小猫『動物ものまね』を挟んで菊之丞『法事の茶』、百栄『弟子の強飯』と物真似が連続した。意図的に行ったんだろう。
『法事の茶』では幇間の一八が持参した特別な茶を焙じながら祈ると、自分の願った人が出て来るという噺で、菊之丞が名人文楽、彦六の正蔵、談志、さん喬それぞれの高座に上がってくる姿を物真似して見せた。最後に若旦那が芸者に逢いたくて焙じるとこれが中途半端で、亡くなった父親が現れる。「焙じ」と「法事」をかけた地口だ。この人は器用だ。
百栄『弟子の強飯』では圓生そっくりの高校生が登場する。適度に似てるところがご愛嬌。
寄席はエンターテインメントの世界であり、たまにこういう趣向もあっていい。

漫才のホームランが鈴本のお盆興行で10日間通して「顔づけ」されたのは初めてで嬉しいと語っていた。芸人としては名誉な事なんだろう。
中トリに上方の新治が起用されるようになって確か3年目になるかと思うが、当初は協会内でも軋轢があったのではと推測される。お盆興行の中トリは名誉なことで、落協の噺家なら誰もが演りたがるに違いない。人材も豊富だ。敢えて外部の人をなぜ?という声があっても可笑しくない。新治本人も相当なプレッシャーだったに相違ない。
1年目の高座ではそうした緊張感、気合いが客席にいても感じられた。
今年は観客からもすっかりお馴染みになったようで、出で、お目当てから待ってましたの声がかかる。
新治はマクラで、たった3語で全体の状況が分かってしまった経験を語り、男女が向かい合って座り女性がコーヒーカップをかき回しながら一言「産むで」。ここからネタに入る。
「人の女房と枯れ木の枝は 登りつめたら先がない」。新治『紙入れ』のテーマは「間男」だ。
上方版はナマで初めて聴いたが、東京に比べ濃厚だ。得意先の店の奥方から手紙を貰ってやってきた貸本屋の新吉だが、奥方の積極攻勢にタジタジとなる。旦那が泊りということで酒を勧められるが、奥方の酌をする手つき、新吉が一杯呑むごとに送る眼差し、全てが色っぽい。いよいよお床入りとなり新吉を先に休ませておいて、奥方は寝化粧。この時の奥方の期待感、満足感に満ちた表情が良い。
新治の高座はこうした一つ一つの動きが丁寧で、指先まで神経が行き届いている。
サゲは上方版ではなく東京版のアッサリ風を選んだが、これも正解だと思う。
大変結構な高座だった。
その他前半では、新真打の東三楼『たらちね』は師匠譲りのしっかりした語りで、圓太郎『桃太郎』は師匠・小朝の演出とは異なり正調だったが、小生意気な子どもの造形が良かった。扇遊『道灌』は相変わらず楷書の芸。

さん喬『千両蜜柑』 、この人の古典はオリジナルを少しひねる。このネタでも若旦那が和歌山の店に出かけてそこで美味い蜜柑を食べて、その味が忘れられないという設定にしていた。しかしこのネタにとって、若旦那がなぜ蜜柑を死ぬ思いで欲しがるのかという理由は必要ないと思われる。どう説明しようと若旦那の要求は理不尽なものなのだ。
それ以後の蜜柑問屋の万惣の主人と番頭との会話や、蜜柑を得た時の若旦那が喜びを爆発させる描写は良かった。
膝で正楽が「権太楼」「アナ雪」「カブトムシ」を切って。
権太楼『鰍沢』、このネタは日蓮宗のご利益を讃えたものとも受け取れ、権太楼はマクラで自分は無信心だと断っていた。こういう所はいかにもこの人らしい。
雪道に迷った旅人を描く場面では客席で寒さを感じた。やっと見つけた一軒のあばら家、九死に一生を得た旅人の喜びが伝わる。この家に住む女が以前吉原で旅人の相方に出た吉原は熊蔵丸屋の月の戸花魁と分かると、旅人の喜びとお熊の警戒心が交差する。ここの描写が良かった。
この後、旅人がお礼にと胴巻きから2両取り出しお熊に差し出すのだが、チラリと様子を見たお熊の眼が一瞬光るというシーンは確認できなかった。
お熊が旅人の金を奪うべく毒入りの玉子酒を飲ませるのだが、下戸の旅人は一口上澄みだけ飲んで寝てしまう。玉子酒って決して美味いもんじゃない、酒好きのアタシでも不味いと思うのだから、下戸は飲めないだろう。ここはお熊の計算外だった。
お熊の留守に戻ってきた亭主の伝三郎が事情を知らず残りの玉子酒を飲んで、悶死してしまう。
ここまで二人で逃げて来て、最後まで添い遂げようとしていたお熊の無念さが伝わるが、これも自業自得。
岩淵に落ちる鰍沢の流れに落ちた旅人をお熊が鉄砲で狙う場面は迫力十分。
細部についていえば、江戸吉原の花魁だったお熊の言葉使いとしてどうなんだろうと言う箇所も散見されたが、ネタを権太楼の世界へしっかりと組み入れた高座、見応えがあった。

サラからトリまで一分の緩みもないラインナップは、今の落語協会の充実ぶりを示している。

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コメント

菊之丞の物真似には感嘆したことがあります。
そのときは彦六と圓生でしたが、同じ噺の同じ行の違いを演じました。
圓生はあの独特の語り口、彦六は民話のようなゆっくりした語り口がそっくりで、
げらげらという感じで笑ってしまいました。

福様
この日は圓生の物真似は後から出る百栄がやるので避けたのでしょう。談志が真似が上手い奴は芸も上手くなると言ってましたが、そうかも知れません。小朝も真似が上手いですし。

ことしはゆえあって見送っている鈴本、逃がした魚は大きいなあ。

佐平次様
鈴本中席10日間のうち、この8日目を狙って行って正解でした。
新治の高座は今週末の三田、9月に入っての独演会と、続けて見られるので楽しみです。

私もこちらの会は恒例にしていますが、紙切りなどを楽しむ子供達や地方の方が楽しまれている様子はいつもの寄席の雰囲気とは違いますね。
個人的に新治さんにはもっと寄席に出て頂きたいです。(土曜日の喬太郎さんとの会もとても楽しみです。)

林檎様
初席とお盆興行は寄席もどことなく華やいだ気分になりますね。この日は18日でお盆も過ぎていたせいか、常連が多かったように見えました。
新治のご贔屓が増えているようで、これからも東京での公演の機会が多くなるのでしょう。

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