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2014/08/03

「日本を取りもどす」のはオレたちの方だ

ジェイムズ・トンプソン著、高里ひろ訳『凍氷』(集英社文庫2014年2月初版)
Photoフィンランドの警察小説で第一作『極夜(カーモス)』で注目を集めた作者の「カリ・ヴァーラ警部」シリーズの第2作。
今回のヴァーラ警部は、妻のケイトが臨月を迎え、良い機会なのでと故郷のアメリカから妹と弟を呼び寄せるが、彼らとの文化的ギャップに悩まされる。
事件とは無関係だが、ヴァーラと結婚した妻の米国人ケイトがアメリカを離れフィンランドに移り住んだことに不満を募らせていた妹メアリが、ヴァーラを責める場面に興味を惹かれた。
二人のヤリトリは以下の通り。

メアリが言う。「アメリカでは、人は何にでもなれる。何でも手に入る。どうして社会主義国に住まなきゃいけないの?」
ヴァーラ「フィンランドは社会主義国じゃない、社会民主主義国だよ。ヨーロッパの多くの国と同じ」
メアリ「資本主義の国に住みたいと思わないの? お金持ちになれるのよ」
ヴァーラ「君は金持ちなのか?」
メアリ「ある程度はね。夫の医院が繁盛しているから」
ここでメアリへの忍耐に限界が近づいたヴァーラは、以下のような反論を行う。
「この件について、アメリカとヨーロッパの間には大きな溝が存在する。アメリカはたえず変動しつづけてきた。そして建国以来ほぼずっと戦争状態にある。俺たちヨーロッパの人間は何世紀もかけて、変化と転換は戦争や混乱や貧困をもたらすと学んだ。そしてそれを恐れる。だから俺たちは、億万長者になれる可能性より、中流の暮しを選ぶ―――誰でも病気になれば医者にかかることができて、飢えやホームレスになる心配もなく、教育も受けられる。そもそも、そんなに金は必要ない。だから答えはノーだ。俺は君たちの”チャンスの国”に住みたいとは思わない」

そう、オレも若い頃からあるべき国の姿としてヴァーラ警部のような考えだったし、今もそうだ。そして恐らくは、戦後の日本人の多くがそう願ってきたのではあるまいか。
そうした国の姿をぶち壊しつつあるのが安倍政権だ。かつての日本の良さは失われる一方だ。
「日本を取りもどす」は安倍政権のスローガンだったが、安倍首相から日本を取り戻したいのはオレたちの方だ。
本書のこの部分を読んで、改めてこの思いを深くしたので敢えて紹介した次第。

本書のテーマである事件捜査だが、ヘルシンキで起きた富豪の妻の惨殺事件を捜査するヴァーラ警部に上層部より捜査に対する圧力がかかる。加えて国家警察長官より、第二次世界大戦中のフィンランドでナチスのユダヤ人虐殺に加担した者がいるとの疑惑が知らされ、極秘調査と事実のもみ消しが指示されるが、調べていくうちにヴァーラ警部の祖父も関係していたことが分かり苦しむ。
次第に明らかになる殺人事件の背後関係と同時に、フィンランドの歴史の暗部にも踏み込んだ傑作ミステリーだ。

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コメント

今更のようにアメリカのファストフードのことを読んでいますがアメリカ人がますます嫌いを通り越して人種差別したくなりました。

佐平次様
下品な表現でいえば戦後の日本のアメリカに対する姿勢は「芸は売っても体は売らない」というスタンスでした。そこいくと今の安倍政権は「不見転(みずてん)」です。

「薄氷」で図書館予約したらなかったのです。
今朝もう一度拝見したら「凍氷」、ありました^^。

佐平次様
失礼しました、タイトルが間違ってました。まさに薄氷を踏む思いです。

このシリーズは知りませんでした。
さっそく読まなきゃ!
ヴァーラとは意見が合いそうです。

小言幸兵衛様
ミステリーの魅力は謎解きよりも主人公の人物像に共感出来るかどうかがポイントだと思います。そういう意味でこのシリーズに魅かれています。

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