« 「露の新治」「扇辰・喬太郎」落語会の番組紹介 | トップページ | #65扇辰・喬太郎の会(2014/9/21) »

2014/09/23

『まいどおおきに露の新治です』(2014/9/21)

第4回『まいどおおきに露の新治です』
日時:2014年9月21日(日)14時
会場:内幸町ホール
<  番組  >
前座・柳家さん坊『初天神』
露の新治『大丸屋騒動』*ネタ出し
~仲入り~
露の新治『くやみ』
柳家さん弥『道具屋』
露の新治『まめだ』

露の新治という名前を東京の落語ファンに知れわったのは、恐らく2012年の鈴本演芸場で中トリで登場した時からではなかろうか。協会員でもないし、さほど有名でもない人をいきなり中トリとして10日間高座に上げるのは相当な冒険だったと思われが、これが成功した。その陰にはさん喬の努力があったものと推測される。以後、露の新治は寄席や落語会、独演会を東京で開催し好評を博している。
上方の噺家が全て東京で受け容れられるわけではない。聴いていても、上手いけど東京には合わないなと感じる人もいる。
私見だが、露の新治の魅力は「ほどの良さ」だと思う。もちろんご本人としては様々な工夫を凝らして高座に上がっているんだろうが、聴き手からすると「ほどが良い」のだ。ソフトな語り口と併せて、彼が東京のファンに人気が高い理由はそこにあるのではというのが、アタシの見立てだ。

新治の1席目『大丸屋騒動』
あらすじは以前に書いた「三田落語会」の記事を参照願う。
前回には聞きもらしたか、気が付かなかったことで印象に残ったことがいくつかあったので、紹介する。
一つは、マクラで師匠の川柳について語っていた。内容は下記のご本人が書かれた文章通りだたので、引用させて頂く。
「師匠五郎兵衛の川柳句集に、「盛り塩が ひざをくずして夜がふける」の一句があります。
大阪の今里新地で育った私は、かろうじて「盛り塩がくずれる」のを見ています。
私が子供の頃、お茶屋、見番の前には必ず盛り塩がありました。
昔のお塩は精製せずニガリが入っていたので、空気中の水分を吸って次第に溶けてゆくのです(今のお塩では、いつまでたっても溶けません)。それで最初は尖っていた盛り塩の先が丸くなり、やがてどろっとくずれるのです。
夕方に盛った塩が夜更けになるとくずれています。
この形を「ひざをくずして」と表した師匠に感動します。
芸者さんが、ひざをくずして横座りになっている姿が浮かびます。色街の夜更けのなまめかしさ、艶やかさが見事に出ています。」

そんな艶めかしい世界が一転して妖刀村正のために修羅場と化すところは、歌舞伎の『伊勢音頭恋寝刃(油屋騒動)』や『籠釣瓶花街酔醒』を思わせる。いずれも実際の事件を題材にしているところも共通点だ。
もう一つは、番頭が若旦那の宗三郎に京都の町を指で示しながら名所を案内する場面で、三条大橋を中心に鴨川の東西と南北のガイドになっている、京都の地図を頭に描きながら聞き入ってしまった。

ミスを一つ。別居させられた宗三郎が兄から借りた村正をそのまま持ち出し、新たな家の床の間に飾っていたという説明を抜かしていたこと。後半の伏線になるところで大事なことなので割愛できない。
全体としては下座との息もピッタリ合い、祇園の風情も出ていて、良い出来だった。人間的に未熟な宗三郎が約束を破って好きな人に逢いにゆく、諭されると次第に狂っていく様子が丁寧に描かれ、芝居噺風の所作もキレイで見応えがあった。

新治の2席目『くやみ』
元は『胡椒の悔やみ』の一部を独立させたもので、桂枝雀が得意としていたが、解説によると笑福亭松之助から伝えられたとある。
葬礼の持つある種の滑稽さを描いたもので、最初に来た男はただ首を振りぶつぶつ言うだけで、さっぱり分からない。次の割木屋は悔やみはそっちのけで自分の店の商品の宣伝をするばかり。
次の女衆はんのは定型文の隙のない悔やみ。若くて美しい人らしく、受けつけの男たちが胸をときめかす。
最後に登場したのが、てったいの又さん。当初は亡くなった隠居の思い出話しで座をしんみりさせるが、次第に女房との馴れ初めから「のろけ」満開。この男、結婚20年以上経つのに、未だに女房を心から愛し、どれだけ夫婦仲が良いのかを披露する。
とりわけ行水を二人で入って、片側の背中に石鹸をつけて二人で背中合わせ。一人が立つともう片方が座る、これを繰り返しているうちに二人の背中が洗えるという仕組み。「しゅしゅしゅのしゅー」で、去年だけでたらいの底を5枚抜かしてしまった。
年齢的には又さんは40代半ばか。この年で夫婦で行水というのは珍しいでしょうね。まして「しゅしゅしゅのしゅー」は極めて稀だろうし、聴いてる方がオカシクなるのは止むをえまい。
新治の高座は枝雀ほど突き抜けたものではなかったが、場内は大受け。

新治の3席目『まめだ』
「まめだ」とは関西における妖怪・豆狸の呼び名で、子ダヌキの意味もある。
三田純市作の新作落語で、1966年に桂米朝のために書き下ろしたとある。
歌舞伎役者の市川右三郎は膏薬屋「本家びっくり膏」の息子で、大部屋の役者ながらトンボ返りの猛練習の甲斐あって、いい役がつくようになっていた。
右三郎は、ある雨の夜に傘をさして帰宅する途中、傘が急に重くなった。傘をつぼめてみるが、何もない。「こら『まめだ』のせいやな。ようし、ひとつ懲らしめたれ」と傘を差したままでトンボを切ってみせると、何かが地面にたたきつけられて悲鳴が聞こえ、黒い犬のようなものが逃げて行った。
それからしばらくして、右三郎は自宅の店で母から、どうも勘定が合わないと告げられる。毎日、金庫の金が1銭足りず、その代り銀杏の葉が1枚入ってるという。同時期に陰気な丁稚が膏薬を買いに来ていて、どうやらその後に銀杏の葉がみつかるようだ。
処がある日を境にその丁稚が来なくなり、勘定も合うようになる。
ある朝、右三郎が芝居小屋に出かけようとすると人だかりがしている。近寄ってみると、体一杯に貝殻つけた「まめだ」が死んでいた。それで思い当たったのが、あのトンボを切った雨の夜に「まめだ」が強く体を痛めたために、丁稚の姿に化けて銀杏の葉を金に変えて膏薬を買いに来ていたことを悟る。
膏薬は紙か布に薄くのばして体に貼らないと効かないのだが、「まめだ」は知らずに容器の貝殻を付けたまま体に貼っていたので効果が無かったのだ。
右三郎と母親はいたく同情し、簡単な葬儀を取り計らう。住職が読経を始めると、突如、秋風が吹いて銀杏の落ち葉が「まめだ」の死骸の上に集まり、山ができた。
「あ、お母はん見てみ。タヌキの仲間から仰山(ぎょうさん)、香典が届いたがな」
秋の季節感あふれるネタで、新治はこういう民話風の噺も上手い。
人情噺、滑稽噺、民話風の新作という趣きの異なった3作品を演じ切った新治、観客の反応も良好だったようだ。仲入りでは次回公演のチケットを買う人の長い列が出来ていた。

ゲストのさん弥『道具屋』に一言、来春真打に昇進とのことだが、この日の高座を見る限りでは到底そのレベルにあらず。

|

« 「露の新治」「扇辰・喬太郎」落語会の番組紹介 | トップページ | #65扇辰・喬太郎の会(2014/9/21) »

寄席・落語」カテゴリの記事

コメント

村正の持ち出しの仕込みは私も気になりました。
もっともお時に会うのに村正を持ち出すのも不自然ではあるのですが、それは邪剣の魔力なのかな。

投稿: 佐平次 | 2014/09/24 09:53

佐平次様
前回の高座では村正を分家に持ち出したとしていましたので、単純な言い忘れだと思います。
町人が愛人に逢いに行くのに帯刀するのは確かに不自然ですね。でもこれを否定すると物語が成り立たないので、目を瞑るしかありません。

投稿: ほめ・く | 2014/09/24 10:59

民話風の落語は話し言葉の魅力を感じます。十月の歌舞伎座の演目に『伊勢音頭恋寝刃』がありました。小唄(京の四季など)も聴きたくなり…楽しみ方が広がります。

投稿: 林檎 | 2014/09/24 18:11

林檎様
『大丸屋騒動』では、ハメモノとして唄われる『京の四季』が実に効果的です。祇園から鴨川、東山にかけての情景が眼に浮かびます。
一番お終いの文句に「そして櫓の差し向かい」とありますが、かつて道路を挟んで北座と南座が向かい合わせにあり(今は南座だけが残る)、その櫓の差し向かいと男女の差し向かいを掛けたものだそうです。桂米朝の『三十石』の中で解説がありました。 

投稿: ほめ・く | 2014/09/24 19:14

『三十石』の中でそういう件がある事を初めて知りました。
(文珍さんで聴いた時は無かったような気がします。)
“はめもの入り”の噺は下座さんと息が合ったら演者も気持ち良いでしょうね。
“上方の噺家さんで”聴きたい噺もあるので、東西交流が増えると嬉しいです。

投稿: 林檎 | 2014/09/25 18:00

林檎様
『三十石』のフルバージョンでは前半に二人が京の四条から入って三条に抜ける道中の描写があり、ここが京の名所案内になっています。私も米朝でしか知りません。
上方落語の楽しみの一つはハメモノですね。新治の会でも良い声が聴けました。

投稿: ほめ・く | 2014/09/25 18:34

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/82117/60360917

この記事へのトラックバック一覧です: 『まいどおおきに露の新治です』(2014/9/21):

« 「露の新治」「扇辰・喬太郎」落語会の番組紹介 | トップページ | #65扇辰・喬太郎の会(2014/9/21) »