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2014/10/01

【文庫解説】歴史は二度くりかえす

月刊誌「図書」8月号から、斎藤美奈子の「文庫解説を読む」の連載が始まった。私は、彼女は文芸評論家だが知的な匂いのしないところが好きで(知的で無いという意味ではない)、ファンの一人だ。
今回のテーマは、文庫本の巻末に必ず置かれる「解説」についての論評だ。
冒頭で、文庫に「解説」が要るのだろうかとか、下手な解説はかえって「書物が書物として持っているべき自律性を失ってしまう」といった問題提起のあと、それでも古典や翻訳ものについては解説は必要だとしている。
古典的書物に求められる解説の要素として3点あげている。
①テキストの書誌、著者の経歴、本が書かれた時代背景などの「基礎情報」
②本の特徴、要点、魅力など読書の指針となる「アシスト情報」
③以上を踏まえたうえで、その本をいま読む意義を述べた「効能情報」
ウン、確かにおおかたの文庫の解説はこういう風に書かれていますね。

斎藤女史が始めに持ってきたのは、「カール・マルクス『ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日』」という本で、いまさらマルクスかいとも思えるのだが。といっても、この著書の中の次の文章だけは心当たりがあるでしょう。
「ヘーゲルはどこかで述べている、すべての世界史的な大事件や大人物はいわば二度あらわれるものだ。一度目は悲劇として、二度目は茶番として、と」
人口に膾炙されている「歴史は二度くりかえす、一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」という箴言は、元はヘーゲルだったのか、ヘェー。やっぱり哲学書は読んでおかにゃ。

で、この本は何について書かれたのかというと、要約すればこうなるらしい。
「ルイ・ボナパルト(有名なナポレオンの甥です)のクーデター、フランス第二共和国滅亡史というべきもので、1848年2月革命によって成立した第二共和国が、1851年12月2日のボナパルトのクーデターによって壊滅するまでの歴史を述べたもの」
この著書のポイントは、ルイ・ボナパルトのクーデターと、それに続く独裁権力が可能になったのが、普通選挙によるものだったいう点にある。150年以上前に書かれたこの本の内容が、いまだに色褪せないのはそのためだ。
平凡社版の巻末の柄谷行人の解説には、こう書かれている。
「ヒトラー政権はワイマール体制の内部から、その理想的な代表制のなかから出現した。(中略)日本の天皇制ファシズムも1925年に法制化された普通選挙の後にはじめてあらわれたのである。」
つまり歴史は二度も三度も繰り返すということだ。
もうひとつ付け加えると、ナポレオンの甥という以外に何のアピールポイントもなかったボナパルトだが、彼は
「メディアによって形成されるイメージが現実を形成することを意識的に実践した最初の政治家だといってもよい」
とある。解説は1996年に書かれている。
「ナポレオンの甥」の部分を「岸信介の孫」に置き換えれば、ナンダ、今の日本そのままじゃん。
こういう解説に出会うと、ちょっとこの本も読んでみたくなるね。

斎藤美奈子がもう一つとりあげているのは、「エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ『自発的隷従論』」。初めて聞く名前だ。
本文にはこう書かれている。
「ここで私は、これほど多くの人、村、町、そして国が、しばしばだだ一人の圧制者に耐え忍ぶなどということがありうるのはどのようなわけか、ということを理解したいだけである。(中略)その者が人々を害することができるのは、みながそれを好んで耐え忍んでいるからに他ならない」
「人はまず最初に、力によって強制されたり、うち負かされたりして隷従する。だが、のちに現れる人びとは、悔いもなく隷従するし、先人たちが強制されてなしたことを、進んで行うようになる」
ね、なんだかこれも今の日本のことを言われているようでしょ。
これを受けた西谷修の解説は、こうだ。
「これが稀な『親米国家』形成とその持続の秘密ではないのか」

やや強引な「解説」ではあるが、落語じゃないが「古典を現代に」導くものとしては有効な気がしてくる。
斎藤美奈子の【文庫解説】シリーズは、これからも時機をみて紹介したいと思う。

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コメント

私も彼女のファンです、というほどたくさん読んでいるわけじゃないけど。

佐平次様
文庫解説としながら、鋭い社会批評になっている辺りが、斎藤美奈子の面目躍如でしょうか。

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