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2014/10/03

【書評】「ローラ・フェイとの最後の会話」

トマス H.クック(著),村松潔(翻訳)『ローラ・フェイとの最後の会話(ハヤカワ・ミステリ文庫 2013/8/5刊)
Photoセントルイスの街の、とあるホテル内のレストランに二人の男女が向かい合って酒をくみかわし、食事をしながら語り合う。女は40代後半、男はその一回りほど年下。美女でも美男でもない二人の中年が昔話にふける数時間。
この作品はこの光景が全てという珍しいミステリーだ。
男の名はルーク、ある事件をきっかけに生まれ故郷を捨て大都会の一流大学に進むが、今は夢破れて二流の学者となっている。その事件というのは、20年前にルークの父親が殺されたというもので、犯人は父親が経営していた店の女店員の元夫、父親と女店員との仲を疑い犯行に及んだもの。その女店員こそレストランのテーブルに向かい合せで座っている女、名前はローラ・フェイ。
そんな因縁のあるローラ・フェイが、20年後になぜわざわざルークの元を訪ねてきたのか。
二人の会話から、昔の事件をめぐる事実、それぞれの思い違いや秘密が少しずつ明らかになり、事件の核心に迫ってゆく。
あっと驚くトリックもなければ、驚異のどんでん返しもない。
ミステリーという形式をとっているが、これは家族の、男女の愛憎物語りだ。
父と子、夫と妻、一緒に暮らしているからこそ生じるすれ違う思い。とりわけ父親と息子の葛藤を軸とした心理劇だ。

二人の会話の中に出てくる様々な映画やTVドラマ、その名場面や名セリフの数々も読者の楽しみだ。
例えば、ルークがローラ・フェイにどんな人生を送っていたのかをきくと、彼女はこう答える。「私は橋の下を沢山の水が流れていくのを見てきたわ」。原文は、
"A lot of water under the bridge."
で、「いろんなことがあったわ」という意味だが、これは映画『カサブランカ』で使われている名セリフだ。流れ去った水は二度と元へは戻れない。つまり、もう取り返しがつかないという意味でもあり、この一言で彼女の人生を窺わせる。

「記憶」シリーズで、日本のミステリーファンにもすっかりお馴染みになったトマス H.クックの最新作。この作者の巧みな文章にひきずられ、久々に一日で読み切ってしまった。
二人芝居で劇化したら面白い舞台になると思うが、どなたか手がけてくれませんか?

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コメント

「私を通り過ぎた政治家たち」だったかな佐々ジュンコウの本の表題、男もそういうのかなと思ってみました。

佐平次様
ある時、バーのママが「私の上を沢山の男が通り過ぎたのよ、フ、フ」と言われて、返事に困ったことがありましたっけ。
今は昔の物語り。

『死の記憶』『夏草の記憶』そして『緋色の記憶』に『心が砕ける音』あたりが、私の好きなクック作品です。

しかし、この本は随分と趣が変わっているようですね。
是非、読もうと思います。

小言幸兵衛様
以前の作品とは趣が変わっています。そのせいかこの作品で、文春から早川へ移籍したようです。
相変わらずクックは文章が巧みです。

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