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2014/10/06

【書評】「ニクソンとキッシンジャー」

大嶽秀夫(著)「ニクソンとキッシンジャー - 現実主義外交とは何か」(中公新書 2013/12/19刊)
Photo今日は国立劇場で歌舞伎をみる予定だったが、台風で電車が運休して行けずじまい。アーア。
ここで紹介する本は、お薦め本ではない。
以前から日本人の中にケネディを神格化する向きがあるのと、その一方映画やドラマの影響からかニクソンを悪玉扱いしているのを疑問に思っていた。
確かにニクソンといえば「ウォーターゲート事件」を誰もが思い起こす。ちょうど田中角栄といえば「ロッキード事件」を連想するように。
しかし政治家としての評価は、その人物がとった政策の是非にあると思う。
ケネディ政権が始めたヴェトナム戦争を終結させたのはニクソン政権だ。
この他にリチャード・ニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャー特別補佐官・国務長官の二人が行った主な外交政策としては、
・米ソのデタント:戦略兵器やミサイル制限条約の締結などによる米ソ両国の緊張緩和
・米中和解
がある。
後者についてはちょっとした思い出があり、40年ほど前にまだ子どもが幼かった頃、夏休みに軽井沢へ1泊したことがある。翌朝、周辺の別荘地帯を散策していたら、すごい数の警官があちこちに配置されていて驚いた。そのうちヘリコプターが1機飛んできて近くに着陸した。後で分かったことだが、日本の頭越しに中国を電撃訪問したキッシンジャーが帰りに日本に立ち寄り、直ぐそばの万平ホテルで会談をしていたのだ。あのヘリは時間的にみて、キッシンジャーが乗ってきたと見られる。
閑話休題

ニクソンといえば、骨の髄から反共主義者だ。盟友キッシンジャーでさえニクソンを「赤狩り屋」と呼んでいたのだから間違いはない(ケネディも上院議員時代は赤狩りに手を貸していたが)。
性格的には猜疑心、嫉妬心が強く、おまけに陰謀好きという人物だ。
しかしニクソンは大統領に就任すると自らの思想・信条は封印し、いまアメリカにとって何をなすべきかという基準だけで政策を進める「現実主義者」に変貌する。そうしたニクソンの意向を受けて、ある場合にはニクソンの思惑をも飛び越え、これらの政策を実現させたのがキッシャンジャーだった。
この二人は決して仲の良い友達ではない。
キッシャンジャーはニクソンについて、控え目にいっても人間的に問題があり「人間的な心の動きでは狭量な欠点だらけ」と評している。
ニクソンはキッシンジャーのことを過度にプライドが強い自惚れ屋で、自分の誤りを認めない「子どもみたいなやつ」で、精神分析へ行くことをすすめていた。
我が国の首相のように「お友だち」だけで周囲を固めるより、こういう方がかえって上手く行くのかも知れない。

ニクソンが米ソデタントに向かったのは、一つには際限のない軍備拡張はやがて核戦争による「人類滅亡」を導くという危険性をきわめて身近に感じていたこと。これはニクソンが朝鮮戦争当時の副大統領だったという経験から生じたものだ。
二つ目は、ソ連を単なる悪の帝国と見るのではなく勢力拡張を目指す国としてとらえ、そこから相互抑制、勢力均衡という発想にいたった。
もちろん、ヴェトナム戦争の終結のためにもソ連との関係修復は急務であった。
相手のソ連だが、経済的に行きづまっていて権威が低下し、その一方で中国との関係が軍事衝突を起こすまで悪化していた。そういう相手の事情も把握した上での交渉だったから、上手く運んだといえる。

米中和解については、カルフォルニア出身のニクソンにとっては大西洋より太平洋に強い関心があり、中国のような大国を国際的に孤立させておくことが出来ないと考えた。こうした考えは当時のアメリカでは極めて少数意見であり、右翼のニクソンだからこそ大きな反対にもあわず実現できた。
相手の中国は当時、文革の真っ最中で、対米強硬論が主流であった。しかし周恩来らの実務者は、それとは全く違った考えであった。
彼らは中国の安全にとり最大の脅威はソ連にあると考えていた。ソ連が中国に核攻撃を加えるという現実的な恐れさえ抱いていた(現にソ連はそう公言していた)。第二の脅威は日本の軍国主義化だ。そうした事情から米国と手を結ぶのが得策と考えたわけだ。
訪中したキッシンジャーは周恩来らに、米軍が日本に駐留しているから日本の軍事化を防いでいるのだと言明し、中国首脳も米軍が日本の暴発を防ぐ「ビンのフタ」になることを期待した。
その後に訪中したニクソンも日本の軍事大国化の危険性を指摘し、米中和解の意義を強調している。
この辺りについては、私たち日本人からすると見当違いの感がある。
しかしケネディ=フルシチョフの平和共存時代のソ連が、ソ連にとって第一の脅威はドイツ(当時は西ドイツ)の軍事大国化であり、第二の脅威として日本の軍国主義復活をあげていたことと類似する。
日本が周辺国からどのように見られているかということは、常に頭に入れておく必要があるだろう。

ヴェトナム戦争の終結については、もし興味があればこの本を読んで頂くことにして、ニクソンとしては勝つ見込みのない戦争から手を引くこと、膨らんだ軍事費を削減するためにも米軍をヴェトナムから撤退させる必要があったこと、アメリカ国内のヴェトナム反戦運動を抑えたかったことなどの理由があげられる。
そのために、徴兵制を停止し志願兵制に切り替えたのもニクソン政権だ。
これとても、右翼のニクソンだからこそ実現できたことだった。

ニクソンを賛美する気にはならないし、キッシンジャーと二人三脚で行っていた政策を支持するものでもない。人間的には嫌悪感さえ感じる。
ただ特に外交政策においては、彼が自らのイデオロギーを封印して現実主義的な政策を積み上げた業績だけは認めるし、現在の日本にとっても参考になり得ると思われる。

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