男同士の友情を描く「ねじれた文字、ねじれた路」
トム・フランクリン(著)伏見威蕃(訳) 「ねじれた文字、ねじれた路」 (ハヤカワ・ミステリ文庫2013/11/8初版)
物語の舞台となるのはミシシッピ州東南部のシャボットという、人口500人ぐらいのATMもないような田舎町だ。その町で一人の少女の失踪事件がおきる。町中の人間が「あいつがやったに違いない」と思う人物が”スケアリー(おっかない)ラリー”という男。
この事件の捜査を担当するのはサイラス・ジョーンズ治安官(警察官)で、元はこの町の出身でラリーとは同級生であり、ある時期までは親友だった。
話は25年前のこの町にさかのぼる。ラリー・オットの家は広大な土地を所有していて、父親は自動車整備の店を経営したいそう繁盛していた裕福な白人の家庭だった。ラリーは父親の車で毎日学校まで送って貰っていたが、ある日その途中の道端に寒い中をコートも着ずに立っている黒人の母と息子がいた。父親が車を止めて聞いたところ息子はラリーと同級生だという。その日から毎日同じ場所でその少年サイラス・ジョーンズを車に乗せて一緒に学校まで送る日が続く。やがて母親が今日は自分がラリーを学校に送ると言い出し、いつも通りサイラス母子が立っている所で車を止め、二人にコートを渡す。その時にラリーの母親がサイラスの母親に向かってこう言う。「これまでだって平気だったろう、他人のものを使っても」。
ラリーがサイラスの家を探すと、オット家が所有する土地の隅に電気もないあばら家があり、そこに母子二人が住んでいた。
読書好きで内向的な性格のラリー、野球少年のサイラス、性格も生活環境も全く異なる二人は遊びを通して大の親友になる。
しかし、ある事からサリーに同級生の女生徒を誘拐し殺害したとの疑いが持たれ、サリー自身はもちろん父母や自宅、経営している自動車整備店までも周囲の人間から襲撃や嫌がらせを受け続けるようになる。偏見と暴力。サリーの人生は一変する。
その事が契機となってサイラスとも疎遠になり、サイラスが大学へ進学してシカゴに去ると二人は音信不通になっていた。
そして25年後の再会は、一方が少女失踪事件の容疑者、もう一方がその事件を担当する治安官という皮肉なめぐり合わせになる。
その再会に先に待つものは果たして・・・。
本書では少年時代のサリーとサイラス二人の交友について延々と叙述されていて、それを通して当時のアメリカ南部の小さな田舎町の様子が映し出される。ミステリーである事を忘れ、普通の小説を読んでいる気分になるが、これらが後半の伏線となっていく仕掛けだ。
男同士の友情というのは秘密の共有にあることが多い。家族にさえ話せないことでも友達には話せるという関係だ。その一方が秘密を持ち相手に打ち明けられなくなった時に友情は壊れる。そして長い歳月を経て再び秘密を話せるようになると友情は復活する。
このミステリーのテーマは男同士の友情であり、読後は静かな感動。
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