喬太郎の秀作『拾い犬』でハネた「さん喬一門会」(2014/11/30昼)
「師匠と弟子四人寄れば一門の智恵~柳家さん喬一門師弟五人会」昼の部
日時:2014年11月30日(日)13時
会場:よみうり大手町ホール
< 番組 >
前座・林家つる子『手紙無筆』
柳家喬之助『短命』
柳家さん喬『夢の酒』
柳亭左龍『妾馬』
~仲入り~
柳家喬太郎『幇間腹』
柳家さん喬『時そば』
柳家喬太郎『拾い犬』
よみうり大手町ホールで行われた柳家さん喬と弟子の真打4人による一門会は昼夜公演だったが、その昼の部へ。一門は来年になると更に二人真打昇進となる。
さん喬から、喬太郎が初の弟子を取ったとの報告、高座名は「たろきち(字は不明)」とか。遂にかという感があり、どんな弟子か見てみたいね。
仲入り後は、喬太郎-さん喬-喬太郎でハネだったが、出番の順がいかにもこの一門らしい(夜の部は違っていたのだろう)。
喬之助が前座に女性が入ると楽屋が華やかになると言ってたが、それで落語会の前座に女流が多いのか。確かにオジサンばかりの中に若い女性がいると和むのかも知れないが、そんな事情で下手な落語を聞かせられる客の方はいいツラの皮だ。
喬之助『短命』、古典落語のネタにも流行り廃りがあるようで、この『短命(長命)』という噺は以前はあまり高座に掛からなかったが、近ごろはやたら多い。艶笑噺なので容易に客に受けるからだろうが、乱発する傾向は感心できない。特に若手が爽やかに演じるのを聴くと、ちょっと違うんじゃないのと思ってしまう。
さん喬『夢の酒』、マクラで弟子を評して、喬太郎は前ばかり見えて周囲が見えず、左龍は周囲は見えるが前が見えず、喬之助は両方が見えないと言っていた。
以前、立川談春が朝日紙上で、落語家の上手い下手はその人の能力で決まるが、落語家としての魅力は本人の努力で向上することが出来るといった趣旨の発言をしていた。確かに語りの「間」の取り方などは天性で、若手でも上手い人もいれば、ベテランになってもサッパリ上達しない人もいる。
さん喬の高座は、若旦那の夢の話をきいた女房が過呼吸になるほど逆上する過程を中心に描いた。この噺の教訓は、男が淫らな夢を見たときは、正直に妻に話てはいけないということ。
次にくだんの女性の所へ大旦那が夢で訪れる場面では、先代文楽は大旦那自身が酒の燗を催促するのだが、さん喬の方は女性が女中に燗の催促をさせていた。サゲの関係からいうと文楽流が自然のように思う。
左龍『妾馬』、一歩一歩階段をのぼるように着実に力をつけている左龍。様々な演じ方があるネタだが、全体として志ん生の演出に近いと思われた。いかにも江戸っ子らしく威勢のいい、口は悪いが実は母親思い妹思いの優しさを持つ男としての八五郎の造形が良かった。殿様もそうした八五郎の器量を見込んで士分に取り立てたのだろう。上出来の高座。
喬太郎『幇間腹』、遊郭が無くなり花柳界が寂れつつある今日、古典落語の舞台も演者自身が経験していないわけで苦労も多いんだろう。もっとも客も知らないんだから、その点は楽か。
この人の十八番の一つ、いつもより針をうたれる猫の描写が丁寧だったのは、2席目の伏線か。
さん喬『時そば』、ソバ代を客がそば屋に、ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉと数えて渡す速度がユックリで、あれではそば屋が1文掠られるのが気付いてしまうのではと思った。ソバやツユのすすり方はお見事。
喬太郎『拾い犬』、新作で、それも11月にネタおろししたばかりのようだ。筋は、貧しい長屋の二人の少年が白犬を拾ってきて飼いたいと言うが、人間さえ食うに困ってる状況から無理だと親から言われてしまう。それならと大家に頼み込むが、大家もこんな長屋よりもっと豊かな家で飼って貰った方が犬にとっても幸せだと少年たちを説得し、大店の家に引き取ってもらう。その店のお嬢さんが白犬を可愛がり遊んでいる姿を眼にした少年の一人が毎日のように店の前に立つのを見て不憫に思い、主人が少年を小僧として雇う。
少年は懸命に働き、やがて手代になり、お嬢さんに思いを寄せるようになる。そんなある日、主人から呼ばれて一つは白犬が姿を見せなくなったこと、これは老いを自覚した犬が死に場所を求めて姿を消したんだろう。もう一つはお嬢さんに縁談が持ち上がっている事を告げられる。若者はお嬢さんへの思いは断ち切れないものの、釣り合わぬは不縁の元と諦めかける。
そんな折り、かつて白犬を拾った時の少年時代に親友だった男がすっかりワルになって若者に逢いに来る。彼は二人でお嬢さんをかどわかし、遊郭に売って金を山分けしようと誘いに来たのだ。若者が断ると男はドスを取り出して刺そうとするが、後から袖を引くものがある。振り向くとあの白犬が袖に食いついていた。それを見た男は諦めて去って行く。
この一部始終を見ていたお嬢さんは、縁談を断り若者と一緒の人生を歩む決意を固める。
今なお去っていったかつての親友の行く末を案じる若者に、お嬢さんは「去る(猿)者は追わずよ」と諭し、どうりで白犬とは犬猿の仲で、サゲ。
所々にクスグリを入れたり犬の物真似が入ったりしていたが、全体としては古典落語の人情噺風に仕上げた秀作。本人も手応えがあったからこそ、一門会の最後に持ってきたのだろう。
登場人物それぞれの描写に優れ、何よりセリフの「間」の取り方が絶妙。
喬太郎の新作落語では会心の高座と言っていい。
一門会の昼の部は喬太郎と左龍がさらった。
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その前座、なんとかならないものですかねえ。
投稿: 佐平次 | 2014/12/01 11:06
佐平次様
いつもは後ろで束ねていますが、髪を解いてロングにしていると素敵なんだそうですよ。
そんな、客にとってはどうでもいいことさ。しまいにゃ怒るで!!
投稿: ほめ・く | 2014/12/01 15:22
喬太郎の弟子、どんな人物か楽しみです。
師匠の楽しいところを受けついでもらいたいですね。
投稿: 福 | 2014/12/02 07:05
福様
後輩の三三や白酒が次々と弟子を取るなかで、いつ弟子を取るのか話題になっていた喬太郎ですから、今から楽しみです。
投稿: ほめ・く | 2014/12/02 10:53
今さらですけどね
前座なんてそこまで期待しちゃあいないんだから師匠方に気持ちよく高座に上がっていただけるのなら女性でもいいんじゃないかねえ
男だって下手な前座はいるし女だってうまい前座がいるかもしれないし(知らんけど)
女性蔑視とかいわれちゃうよ
投稿: | 2019/02/28 20:17
↑の方(名前が無いので失礼します)
初めて他家を訪れる時は、先ず挨拶して下さいね。
投稿: ほめ・く | 2019/03/04 13:53