「柳家小三冶独演会」(2014/12/16)
「柳家小三冶独演会」
日時:2014年12月16日(火)18時30分
会場:銀座ブロッサム
< 番組 >
柳家三三『転宅』
柳家小三冶『時そば』
~仲入り~
柳家小三冶『蒟蒻問答』
記事を書くのが遅れてしまった12月16日の「柳家小三冶独演会」、東京音協主催公演としては今回が最後となるようだ。
先ず三三が自分でメクリをめくって登場してきて場内が沸く。この独演会では小三冶の弟子の真打が前座替わりをつとめ、あと本人が2席というのが通例のようだ。
三三の『転宅』だが、何度聴いたか憶えていないほどの回数になる。よほどこのネタが好きなのか得意なのか知らないが、いささか食傷気味ではある。似たような噺に「なめる」があり、落語としてはこちらの方が良く出来ていると思うのだが演じ手が少ないのは残念。
鈴本演芸場の初席第3部のトリが今年から小三冶から三三にバトンタッチされたが、来春は初席第1部のトリに菊之丞が起用され、二之席の昼の部のトリが一之輔になるなど、このところ代替わりが続く。世代交代の時期に差しかかっているのだろう。
小三冶の1席目『時そば』
マクラで物売りを話題にしていて、戦後、小学生か中学生ぐらいの少年が納豆売りをしていたと言っていたが、アタシにはその記憶がない。憶えているのは高校生か大学生のアルバイトが早朝から納豆売りをしていたことだ。小三冶はか細い声で売り歩いていると、ついついそういう子から買いたくなると語っていた。大概はワラずっぽうに入っていたが、なかには経木にくるんだ物もあり、頼むと端っこに辛子を付けてくれた。
「二八そば」は16文が相場だったようで、今の物価に直すと6-7百円相当にあたるらしい。「夜鷹そば」とも呼ばれていたが、両方とも深夜に稼ぐというのが共通点だ。夜鷹の相場は24文だったとある所から「ふたつやって、みっつ食い」なんてぇ川柳が生まれたのだろう。小学生の最大公約数の問題みたいだね。
このネタは6代目春風亭柳橋が得意としていて、客席から「時そば!」と声がかかるほどだった。6代目柳橋は評論家たちの評価が低いが、このネタや『粗忽の釘』『花見酒』は他の追随を許さなかった。
ソバを食べる仕草をリアルに演じるようにしたのは5代目柳家小さんで、今ではほとんどの人が小さんの形で演じている。小三冶も当然のことながら小さんの形で、ソバの食い方が上手い。翌晩のそば屋の屋号が、的に屋が2本当たっていて「やや」だった。
なお「九つ」は午前0時、「四つ」は午後10時なので、翌晩の男は焦って2時間早めになっていたという事になる。
小三冶の2席目『蒟蒻問答』
第一声が「選挙に行きましたよ」で、そこから選挙の話題へ。奥さんが足の具合で投票所まで行けなかったそうで、小三冶は投票所の係員に、そういう事情の人はどうすれば良いのか訊いたそうだ。処が20分ほど待たされて返ってきた言葉が「今から選挙管理委員会に問い合わせます」というものだった。そこで初めて投票所にいる係員は選挙管理委員のアルバイトみたいな人たちなんだと分かった。問い合わせの結果は、投票の受け付け用紙に同封されている書類に書いてありますという回答。それなら最初からそう言えばいいのに、20分も待たせてと。この辺り、いかにも小三冶らしい。
「最高裁判官国民審査」というのも変だと。やめさせたいという人だけ×をつけるというのは不合理だ。それにどんな人なんだか判断できないじゃないか。普段からニュースなどでこの人はこういう人物でこんな事をしていますって紹介してくれていないと判断ができないと。
この指摘も正にその通りで、落語家多しといえどもこうしたテーマを正面から採りあげるのは小三冶だけだろう。
「笑点」の話題から大喜利について、談志が「謎がけ」で、客席から「葬儀屋」という問題が出たら「ホトトギス」と解いた、そのココロは「鳴く鳴く(泣く泣く)梅に(埋めに)行く」と答えたという。あれは実に見事だったねぇ。私はある意味談志を尊敬している、ある意味ですけどねと。
昭和の名人たちは「大喜利の上手い人は落語は下手」と言ってたそうで、これが言いたかったのかな。
大喜利の問答つながりからネタに入る。
マクラに時間を割いたせいか、演目でのミスが目立つ。もちろん、このネタの主要な所はきちんと押えていて楽しめたが。「ミスもまた良し」と鷹揚に構えられるかどうかによって、現在の小三冶の高座に対する評価が変ってくるだろう。
全盛期の小三冶を知る者にとっては少々つらいかも。
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世代交代ですか。
菊之丞の「幇間腹」を鈴本で聴きました。
噺と個性が一体化した素晴らしい高座でした。
投稿: 福 | 2014/12/22 06:56
福様
菊之丞は幇間など色町の芸人を描ける数少ない若手です。ご本人もだいぶ修行してきたのではないでしょうか。
投稿: ほめ・く | 2014/12/22 09:12