書評『その女アレックス』
『その女アレックス』ピエール・ルメートル(著) 橘明美 (翻訳)、文春文庫 2014/9/2初版
とにかく面白い。今年読んだミステリーではこれがベスト・ワンで、ここ数年で読んだミステリーの中でも五指に入る作品である。
舞台はパリ。事件は若く美人の女性が中年男から誘拐され監禁されるところから始まる。男は女を木の檻に入れ、「お前を死ぬのが見たい」と言って幽閉してしまう。女の名はアレックス、衰弱して死の直前までいくが脱出に成功する。しかしこれは序章にすぎなかった。
その一方、男が鈍器で殴られ意識を失ったところで口の中に濃硫酸を流しこまれて殺害されるという、無差別と思える連続殺人事件が発生する。どうやら犯人は若くて魅力的なアレックスのようだ。
果たしてこの二つの事件にはつながりがあるのだろうか。
捜査を担当するのがパリ市警のカミーユ・ヴェールヴェン警部、身長が145㎝というからミステリー史上最短身の警察官といえる。母親は既に故人となっている有名な画家で、愛妻は誘拐されてその母親のアトリエで殺される。心に大きな傷を負ったカミーユは入院していて、復帰後の仕事として上記の大事件を担当する。
上司はカミーユと正反対の大男にして、同じ女性と結婚と離婚を繰り返すという趣味の持ち主であるジャン・ル・グエン部長。カミーユの部下は二人で、一人は金持ちのルイ・マリアーニ、もう一人は貧乏で倹約家であるアルマン。
物語は誘拐の被害者にして殺人鬼のアレックスの視点と、それを追う捜査官たちの視点が交互に描かれる。やがて二つの視点が交差しアレックスの秘密が解き明かされるとき、物語は大きく転換してゆく。
警察官同士の会話の中にはいかにもフランス人らしいエスプリが利いており、最後には感動的な場面が待ち受けていて、思わず涙してしまった。
作者には何度も裏切られながら、一気に読破した。第一級のミステリー小説だ。
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