「雲助五拾三次-雪-」(2015/1/23)
「雲助五拾三次-雪-」(2015/1/23)
らくご街道「雲助五拾三次-雪-」
日時:2015年1月23日(金)19時
会場:日本橋劇場
< 番組 >
五街道雲助『雑排(地口合せ)』/『夢金』/仲入り/
『鰍沢』
1月の雲助五拾三次のテーマは「雪」、日中は暖かかったが夕方から冷え込み季節感はピッタリだ。おまけに舞台に雪を降らせるという趣向もあり、座席でコートを羽織ってしまった。
この会は下記の要件を全て満たしており、理想的な「独演会」といえる。
1、出演者は本人だけ(前座もゲストも不要)
2、三席演じる(長講の場合は二席でも可)
3、公演時間が2時間以内(午後9時には終りたい)
4、会にテーマがある
出来れば全ての独演会はこう在りたいものだ。
雲助の1席目『雑排(地口合せ)』
番組表を見て来なかったので未確認だが、『雑排』か『地口合せ』だったか。
雲助の高座では以下の事柄がとりあげられていた。
先ず「俳句」、初雪という題で、
「初雪やこれが塩なら金もうけ」
「初雪や大坊主小坊主おぶさって転んで頭の足跡お供えかな」
以下、「地口(語呂合わせ)」では、
「蛇から血が出て、へびちで(ABCD)」”
「りん廻し」では、
「りんりんりんと咲いたる桃さくら嵐につられ花は散りりん」
「七度返し」では、
「山王の桜に去るが三下がり合の手と手と手手と手と手と」
などが次々披露される。このうち「地口」だけは『雑排』にはなく『地口合せ』の方にあるようだ。
このネタもほぼフルバージョンで聴いたのは初めてだし、雲助が演ると一段と面白くなる。やはり語りの確かさとセリフの「間」の取り方が巧みなのだ。
雲助の2席目『夢金』
「雪」に因んだ噺といえば先ずこれと、後から演じる『鰍沢』が代表的。雲助は他には思いつかないと言っていたが、『雪とん』『雪の瀬川』『橋場の雪』などのネタもあると思うのだが。
この噺、客はどうせ夢だと知っているだけに、演者はリアルな描写が求められる。熊が雪の中で体を凍えさせながら船を漕ぐ場面、客の侍から「一服やれ」と言われて熊が笠を取り、蓑を脱いで雪を払ってから屋根船の中に入る場面(雲助は羽織を脱いでの所作)などが丁寧に描かれる。侍に娘を殺すのを手伝えといわれて震える熊だが、相手が泳げないと知ると途端に強気になって居直る。この立場の逆転が、熊の一声で侍が先に中洲へ飛び入るという結果を招くのだ。
娘を店に連れ戻した礼金が200両、喜びさけぶ熊に船宿の主が声をかけてサゲ。
本来のサゲは、熊が思わず金を握りしめた瞬間「痛い!」、夢から覚めると熊はおのれのキンを握っていたというもの。「金」と「キン」を掛けたサゲだが品が無いので雲助は変えたのだろう。
雲助の3席目『鰍沢』
このネタは圓生が極め付け、というより圓生以外の高座では満足出来るものが無いと言った方が正確だ。
眼目はお熊と旅人との間の微妙な変化が表現されているかどうかだと思う。
当初、旅人は凍死する可能性もあったがお熊が家に招き入れ囲炉裏の火で温めてくれたお蔭で命拾いをする。いわば命の恩人としてかしこまっているのだが、お熊がかつて吉原の花魁でしかも自分の敵娼(あいかた)に出ていたことが分かると、旅人の心理に変化が生まれる。二人きりで相手は美女、それも一度は肌を合わせたことのある女なのだ。身の上話から玉子酒まで勧められては、旅人の邪念が少しは首をもたげて来ようというもの。この変化を圓生は巧みに表現していて、これは他の演者では見られない特徴だ。旅人が心を許したからこそ、胴巻きから2両だけ取り出すという不用心な事をしてしまい、お熊から狙われる羽目になるのだ。だからこの場面でのお熊と旅人との相対的な変化は欠かせない所だ。
さて雲助はどうだったか、旅人がお熊にいつまでも美しさが変らないと褒めた後で「ご亭主が羨ましい」という言葉を付け加えていた。これはかなり際どい表現で(ウソだと思ったらよその奥さんに言って見て下さい)、ここで旅人の「男」が顔を出した。
サゲは例の「お題目のお蔭で」ではなく、芝居噺のセリフで見得を切って終演。
納得の1席。
今回もいつもながらの充実の高座を見せてくれた。
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