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2015/02/06

#28『四人廻しの会』(2015/2/5)

第28回『四人廻しの会』
日時:2015年2月5日(木)19時
会場:日暮里サニーホール コンサートサロン
【   番組   】
前座・入船亭ゆう京『二人旅』
柳家三三『十徳』
桃月庵白酒『干物箱』
~仲入り~
三遊亭萬窓『花見小僧』
入船亭扇好『心眼』
(前座以外はネタ出し)

落語会といっても様々な形式がある。1000人を超えるようなホールを使いピアなどプレイガイドでチケットを販売するような大規模な会から、観客が10名程度の小規模のものまである。新聞広告を打つ会もあれば、チラシも作らず宣伝もしない(東京かわら版にも掲載しない)会もある。
この『四人廻しの会』もネットで偶然に見て申し込んだもので、知らない人も多いのだろう。会場は折り畳み椅子が100脚ほどの規模で、常連さんが多いとお見受けした。
チケットの申し込みは指定の携帯番号にかけると留守電になっていて、伝言を入れておくと会の事務局から後日こちらに確認の電話があって申し込みが成立するという、まるで秘密クラブの様なシステムだ。
積雪という天気予報だったが雪はちらつく程度で終日雨模様だった。
日暮里といえばかつて志ん生の住まいがあり、ということは馬生と志ん朝兄弟の生誕の地でもあるわけだ。黒門町と柏木と並び聖地ですね。

前座のゆう京『二人旅』、しゃべりの内容からテンポ、間の取り方まで5代目小さんの高座通り。後から三三が年寄りみたいだとイジッテいたが、今の時期に基本を磨いておけば必ず将来には役に立つ。今年二ツ目に昇進するようだが、師匠に倣って楷書の芸に進んで欲しい。

三三『十徳』、このネタも近ごろはあまり高座に掛からなくなっていた。着物の名称ととサゲが分かり難くなったせいか。
隠居が着ている着物の名前が分からず恥をかいた男が隠居を訪ねると、名称は「十徳」だという。謂れはと訊くと、「立てば衣のごとく、座れば羽織のごとく、ごとくごとくで十徳だ」と説明される。そうか足し算すれば良いのかと男は仲間の元へ戻り「十徳」の謂れを語るが、これがトンチンカン。
「ええと、立てば衣のようだ、座れば羽織のようだ、ヨウだヨウだで、やだ。可笑しいな?」
「そうじゃねえ、立てば衣みてえ、座れば羽織みてえ、みてえみてえでむてえ。ってなんで数が減ってくんだよ。」
「違った、立てば衣に似たり、座れば羽織に似たり、ニタリニタリで、うーん、これはしたり」
ダジャレの連続の軽い噺だが、それだけ演者に力量が求められるといえる。三三の高座は男と隠居、男と仲間たちとの会話の「間」が絶妙で、面白く聴かせた。やはりこの人は上手い。

白酒『干物箱』、マクラで、喫茶店では本来は他人に知られたくない話が不用心に語られていると言っていたが、私もそういうのを耳にした事がある。まさに壁に耳ありで不特定多数の人が集まる場所では注意が肝心。
名人文楽の十八番だったが、いくつか演り方がある。白酒の高座で文楽との違いは外出した若旦那が医者に出会って彼の助言で善公が若旦那の声色が上手いと教えられる箇所と、吉原に向かう若旦那に善公が馴染みの女に宜しくと言づける場面が無いことと、二階に上がった善公が抽斗から花魁から若旦那に宛てた手紙を見つけ自分の悪口が書かれているので怒り出す場面が無いこと等だ。
白酒の高座は大旦那と善公の会話のすれ違いを中心にして面白く仕上げていた。善公が次第に追い詰められていく様子が上手く描かれていた。

萬窓『花見小僧』、お花見時期になると『長屋の花見』や『花見の仇討』は頻繁に高座に掛けられるが、近頃はこの『花見小僧』や『花見酒』を聴く機会が少ないのは残念だ。特に『花見小僧』は向島の花見の情景が描かれていて価値が高いと思う。
大旦那にお灸をすえると脅されて小僧が、花見で一緒に行った一人娘のおせつと手代の徳三郎が深い仲になっている様子を小出しで喋らされる場面が丁寧に描かれていた。小僧は最初は嫌々ながらだが、次第に乗って来て語り出す。他人のスキャンダルというものは楽しいのだ。一方の大旦那の方は不安が次第に怒りに変わって行く。こうした過程も萬窓は上手に描いていた。
この人は実力の割に人気が付いていっていない印象だ。芸風が地味だからかな。もっと評価されても良い。

扇好『心眼』、こちらも黒門町の十八番。作品の完成度が高いせいか、誰が演じても文楽の高座通りになっている。扇好の高座も文楽を忠実になぞっていて、セリフや動作の細かい部分に至るまで神経が行き届いていた。
高座の評とは外れるが、最後の有名なサゲで「目が見えねえてえなあ、妙なものだ。寝ているうちだけ、よォく見える」と梅喜が呟く。この「よォく見えた」ものは、自分が密かに抱いていた欲望の浅ましさなのだろう。数ある落語のネタの中でも、これほど人間心理に深く踏み込んだものは少ない。

外の寒さを吹き飛ばすような熱演が続き、まことに結構な会だった。
こういう噺を小さな会場で聴くと、贅沢感が味わえる。

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コメント

この会は気になっていたのですが、行けませんでした。
萬窓は、もっと評価されて良い人ですよね。
『花見小僧』は、小さん(もちろん先代)の音源が大好きで、よく聴きます。

三三の『十徳』も、なかなか渋いネタ選び。

ほめ・くさんの評を見て、ますます行きたくなりました。
そのうち、ぜひ!

小言幸兵衛様
私も直前の申し込みでしたが行って良かったです。4席とも熱演で、次回もと思いました。

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