#18「文我・梅團冶二人会」(2015/3/3)
第18回「桂文我・桂梅團冶 二人会」
日時:2015年3月3日(火)18時30分
会場:国立演芸場
< 番組 >
開口一番・桂小梅『犬の目』
桂梅團冶『黄金の大黒』
桂文我『鹿政談』
~仲入り~
文我・梅團冶『爆笑対談』
桂文我『試し酒』
桂梅團冶『鴻池の犬』
ひな祭りのこの日、国立での「文我・梅團冶二人会」へ。毎年1回という開催で18回目を迎えるというこの会、続いたのは文我の慈悲と梅團冶の忍耐だそうだ。入門は文我が1年早いがほぼ同期、今年で35年という経歴だ。
同じ桂の亭号だが文我が米朝一門であるに対し梅團冶の師匠は3代春団治だ。芸風も文我がスマートな印象に対し梅團冶は泥臭い。
趣味も文我が古書店を漁り映画のポスターなどを集めているのに対して梅團冶は自他ともに認める撮鉄でこの日も早朝からカシオペアを撮りに行って来たとか。
小梅『犬の目』、梅團冶の息子、顔がよく似てる。入門4年目だそうだが子どもの頃から落語を演っているとあって高座馴れしてしている。
梅團冶『黄金の大黒』、顔と声が典型的な上方落語家だ。大家から呼び出された店子たち。どうせ小言だろうと心当たりを探すと、もしかして大家の猫を食った件か? イヤ違うようだ。それなら犬を食った件か? それも違う。それなら小鳥を食った件か? ここの住人は動物なら何でも食うようだ。
結局、大家の倅と長屋の子どもたちが遊んでいるうちに、土の中から黄金の大黒が出て来たのでその祝いに店子たちが招かれたと分かる。宴席へご招待となれば羽織が要るのだが、長屋に1枚しかない。それを皆がとっかえひっかえしながら一人一人挨拶に行くと、見かねた大家は気にせずに部屋へ上がれと言う。後は無礼講。大家が倅がイタズラしたら遠慮なく注意してくれと言うと、一人が、この前あんまりヒドイ事をしたので殴ってやりましたよと答える。「拳固でか?」「なぁに金槌で」。
東京に比べてオリジナルの上方が笑いの要素が多い。
大家と店子の珍妙なヤリトリから愛すべき長屋の連中を描いた、梅團冶の好演。サゲも簡潔に工夫されていた。
文我『鹿政談』、江戸、京、大阪の名物の紹介から奈良の名物「大仏に、鹿の巻筆、霰(あられ)酒、春日灯篭、町の早起き」に入り、大仏の「目から鼻に抜ける」のエピソードをマクラに振って、ほぼ大師匠の米朝の演出に沿ったもの。
白洲での奉行と鹿の守役との息づまる攻防を中心に、文我の歯切れの良い語りが活きていた高座だった。
ただこのネタでは数年前に聴いて笑福亭三喬の高座の方がスケールが大きく優れていたように思う。
文我・梅團冶『爆笑対談』、文我が神保町の古書店で買った映画のポスターが紹介されたが、それがなんと若尾文子主演の大映映画『悶え』。文我によればファンだった9代目文治(留さん文治、ケチの文治)の落語の中でこの映画について語っていたものがあり、以前から探していて漸く見つけたとのこと。
そう言えば9代目文治はよく映画について語っていた。『砂の女』を観てきて、あの岸田今日子ってスケベたらしくて、ああいう映画はアタシは大好き、なんてしゃべっていたっけ。どうやら文治は嫌らしい映画が好みだったようだ。
文我『試し酒』、時事問題をマクラに。国会が近いので言わせて貰うと、最近の大臣たちの補助金交付先からの寄付、そういうことを止めようと政党助成金制度が出来たんじゃなかったのかと鋭いツッコミ。安倍首相がヤジを飛ばした問題から、下村文科相の疑惑まで採りあげ、あれが道徳を説く総元締めかと批判。同感です。子ども達には道徳教育をと言いながら、自らは法律に違反さえしなければ問題は無いと言い逃れしてるんだから呆れるほかない。
初代快楽亭ブラックの作をされるこのネタ、近年では5代目小さんが絶品だった。とにかく権助の飲みっぷりが豪快で、その息遣いまで細かに描写されていた。
文我の演出は上方型なのだろうか、全体にテンポが早く、小さんの高座に比べて物足りなさを感じてしまう。しかし盃を重ねるごとに酔態を変えていく過程はよく描かれていて楽しませてくれた。
梅團冶『鴻池の犬』、せっかくの上方落語の会なので、こうした東京では高座に掛からないネタを聴きたい。
船場のある商家の前に3匹の子犬の兄弟が捨てられていて、それを見つけた丁稚は、その犬を飼いたいと旦那さんに頼む。 子犬たちは丁稚らにかわいがられ、すっかりこの家の一員に。そんな矢先、兄弟のうちの一匹、クロをもらいたいという人物が現れる。「手前は今橋に住む鴻池善右衛門の手代で、坊ちゃんの飼っていた犬が死んでしまったため、死んだ犬にそっくりのクロをもらいたい」と言う。相手が豪商・鴻池の手代だと知った旦那は快諾し、クロは鴻池家にもらわれていく。
大きなたくましい犬に成長したクロは喧嘩も強く、やがて大阪一の犬の大将になる。そんなある日、見かけない犬が船場にやってくる。見るからに病気ということが分かるほど衰えたその犬こそ、クロの弟だった。その犬に事情を聞くと、かわいがられて育ったものの、途中で悪さをすることを覚え、そのうち病気にかかったため捨てられてしまったと身の上を話す。クロはご主人から「コイコイコイ」と呼ばれると走っていき、もらったごちそうを弟に食べさせる。散々ご馳走を食べた弟の犬に、次は吸い物を貰ってくると言うクロ。再びご主人から「コイコイコイ」という声がかかり、近寄ったクロはひと声「おワン」。
話の前半は商家の人間同士の会話だが、後半は一転して犬がしゃべり出すという構成。しかも犬の会話は任侠の世界だ。
梅團冶の高座は前半では沢山の土産を持ってクロを貰いにきた鴻池の手代に対し、「犬一匹にこれほどの手みやげを渡されては逆に迷惑」と肚を見せる船場の主人場面が良く出来ていた。
後半の犬たちの会話、特に大親分に出世したクロの貫録と、病に罹った弟への愛情表現が見事で、この人の実力を見せつけていた。
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コメント
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えげつないような上方の笑いもいいですね。
投稿: 佐平次 | 2015/03/05 11:08
佐平次様
東京に比べ少々えげつない所は上方落語の特長といえます。文我の鋭い政治批判も東京の噺家では見られません。
投稿: ほめ・く | 2015/03/05 15:25