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« 桂米朝の死去を悼む | トップページ | #17らくご古金亭(2015/3/21) »

2015/03/21

『死と乙女』(2015/3/20)

『死と乙女』
日時:2015年3月20日(金)14時
会場:シアタークリエ

作:アリエル・ドーフマン
翻訳:青井陽治
演出:谷賢一
<  キャスト  >
大空祐飛/ポーリナ・サラス
豊原功補/ジェラルドー・エスコバル(夫で弁護士)
風間杜夫/ロベルト・ミランダ(医師)

タイトルの『死と乙女』はシューベルト作曲「弦楽四重奏曲第4番」を指している。但し『死と乙女』という曲名はシューベルトがつけたものではない。4楽章全てが短調で書かれていて淋しさや陰気さを漂わせている曲だ。
物語は南米のある国-具体的にはチリを想定していると思われる-が軍事独裁政権の時代に、学生運動に参加していてポーリナ・サラスが治安部隊により誘拐・監禁され拷問を受けた。その際にある医師が『死と乙女』の曲をかけながら彼女を拷問し、仲間と共にレイプした。ポーリナはその時の記憶を抱えて苦しみ、怯える生活を送っている。
軍事政権が崩壊し民政を回復した現在、ポリーナの夫であるジェラルドーは前政権下で行われた殺人などの不法行為を調査、告発するための政府機関のメンバーに選ばれている。
夫妻はは海辺の別荘に滞在している。
ある日、そのジェラルドーが車がパンクし立ち往生していた時に親切な医師ロベルトが彼を拾って別荘まで送り届けてくれた。二人は意気投合して酒を酌み交わし、ロベルトはそのまま別荘に泊まることになる。しかしポリーナはロベルトの声を聞くうちに、彼こそが自分を拷問した医師である事を確信する。彼女は就寝中のロベルトを襲い、椅子に縛り上げて銃で脅し、告白を迫る。目隠しをされていたので目視はしていないが、あの声、あの匂い、あの肌触り、どれをとってもあの時の医師に間違いないとポリーナは確信を深める。
人違いだと主張するロベルト、こうしたやり方は不法だと抗議する夫ジェラルドー、に対し妻ポリーナは10数年自分を苦しめた過去に決着をつけるのだと主張する。
夫妻は話し合いの結果、ロベルトが真実を告白すれば彼を解放すると約束する。ジェラルドーがこの線で妥協するようロベルトを説得するが、彼は身に憶えのないことは告白できないと言う。困ったジェラルドーはポリーナから当時どのような扱いを受けたのか具体的に聞き出してロベルトに伝え、それに従ってロベルトは告白を行う。
車の修理に出かけるジェラルドー、後の残ったポリーナとロベルト。果たして真実は、ポリーナにとっての決着は・・・。

この芝居はいくつかのテーマが錯綜しているのだが、メインテーマは「復讐」だ。それも自分自身や愛する人が被害を受けた場合に、どのような態度を取れるか。
法律によって裁くというのが近代国家のルールだが、例えばチリの場合、軍政から民政に移行した後も軍部は政府に圧力をかけて過去の軍による人権侵害を処罰するような動きを牽制していた。だから新政府が軍の不法行為を調査するといっても自ずから限界があるのだ。
そのことをポリーナは知っている。彼女を拷問しレイプした連中が裁かれ処罰される可能性は極めて低い。それなら自分の手でやるしかない。そうで無ければいつまで経っても苦しみから解放されない、そう考えたのだ。
夫のジェラルドーは弁護士という立場と、これから政府が行う軍の不法行為を調査するメンバーの一人として、ポリーナの個人的復讐は認めがたい。
ロベルトが本当に加害者なのか、疑いは濃厚だが証拠はなく、もしかして人違いである可能性もある。
真実とは何か? という問いに対しても3人それぞれに答えは違ってくる。

作者がいうように、この物語は過去のチリの物語ではない。広く世界中に、広くあらゆる時代の人間性に発見できる問題だ。
こうした人権侵害は中東で、アジアで、あるいは米国のテロリスト容疑者の収容施設で、今も日常的に行われている。日本も戦前はそうだったし、これからも絶対に起きないとは断言できない。
「私だったらどうする?」「あなたならどうする?」が突き付けられる演劇である。

出演者ではやはり風間杜夫の演技が光る。善人なのか悪人なのか、どちらの顔も見せる。
主役の大空祐飛は熱演だったがどうもセリフ回しに「ヅカ」が出る。性を感じさせないが、この役柄はもっとネットリしているのではなかろうか。前回の舞台は余貴美子が主役を演じたようだが、そっちを観たかった。

公演は28日まで。

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コメント

「死と乙女」はとくに学生時代、寮のレコードを借りて良く聴きました。
この劇を見ちゃうと前と同じには聴くことができないかな。

佐平次様
『死と乙女』は私が最初に買ったCDでした。この芝居の医師はシューベルトが好きで、特にこの曲を聴いていると心が休まるという設定です。恐ろしい男です。

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