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2015/03/17

「談志30歳」を聴く

キントトレコードから「談志30歳」というCDが発売された。
談志の年表によれば
1936年 東京の小石川生まれ
1952年 5代目小さんに入門 前座名「小よし」
1954年 二ツ目昇進「小ゑん」に改名
1963年 真打昇進「立川談志」を襲名
とある。
今回CDに収録された高座はいずれも1966年、つまり談志30歳の時のものだ。既に「小ゑん」時代からマスメディアで冠番組を持っていたほどの売れっ子で、30歳の頃にはTVの「笑点」の司会をつとめ、著書の「現代落語論」がベストセラーになっていた。今の噺家で30歳といえば前座から二ツ目に昇進する前後の年齢であり、当時とは入門者の学歴が違うことを考慮したとしても談志の能才ぶりが偲ばれる。
今回の音源は談志の残したテープから草柳俊一氏が発掘したもので、いずれも1966年の「東宝名人会」からの録音だ。
収録された7席の演目と口演時間(分:秒)は次の通り。
『源平盛衰記』24:19
『らくだ』28:49
『芝浜』24:39
『野ざらし』17:07
『目黒のさんま』17:32
『蒟蒻問答』24:51
『ずっこけ』18:10

『源平盛衰記』は談志の代表作といっても良いだろう、初代三平から教わったものだが原形をとどめぬほど内容は大きく変えている。元々地噺の代表的作品で、ストーリーより中に入れ込むクスグリや地口、時事放談などが聞かせどころの演目だが、短い時間の中で粗筋や主なエピソードが手際よく紹介されている。
同時に談志独自の見方も示されていて、平清盛が血も情けもある立派な武将だったとか、常盤御前は自らの意思で清盛に近づいたとかいった解釈を行っている。幼かった義経を奥州藤原が受け入れたのは、源氏と平家が戦い勝利した方を背後から討ち、やがて藤原が天下を取ることを狙った布石だと推測している。頼朝が北条時政の長女・政子を妻にしたのは、北条家の財政援助を期待したからだという。確かに挙兵のためには莫大な金が要り、流人の頼朝に身の上では資金が乏しかっただろう。
こうしたメインストーリーを語ると同時に、時事問題やダジャレを機関銃のようにポンポンと入れ込み、壇ノ浦の戦いの場面は講釈風の語りで当時人気の講釈師であった一龍斎貞丈や神田松鯉らの物真似を披露するなど才人ぶりを発揮している。同時代にこのネタを演じた初代三平や10代目文治の高座には見られない特長だ。
後年のこのネタの録音を聴いても、30歳の時の高座が既に完成形であった事が分かる。

『らくだ』は前半で切っているが、ラクダの兄いを「丁の目の半次」と呼び、より粗暴な男として性格づけている。屑屋が酔うにつけ、らくだからの屈辱的扱いを思い出して次第に腹を立てる場面を丁寧に描いている。酔った屑屋が半次に「こんな芋を肴に酒が呑めるか、魚屋に行ってブツを貰って来い」と命じ、半次が断られたらどうしようとグズグズ言ってると、「かんかんのうを躍らせると、そう言え」でサゲ。

『芝浜』は、3代目三木助の演出を基本にしながら、魚屋夫婦の会話により多くの時間を割いている。後年の高座に比べサラリと演じていて、私はこの方が好ましい。

『野ざらし』は、8代目柳枝から教わったもので柳枝の演出通りの語りだが、後半になると尊敬していた3代目柳好の物真似を入れて楽しい高座にしている。ただバレ噺風の表現が多いのは感心できないが。

『目黒のさんま』、「このネタは馬生に限る」と語っていたそうで、全体としては10代目馬生の演出に沿ったものだが、殿様のエピソードを語る部分に3代目金馬の影響を感じる。

『蒟蒻問答』は、マクラで職人同士が問答をする小咄を振っているので志ん生の型と思われる。このCDの中ではこのネタだけがあまり良い出来とは言えないが、それでも十分に水準には達している。

『ずっこけ』は、3代目金馬や8代目柳枝が得意としていて、音源は残っていないようだがラジオで志ん生のを聴いた覚えがある。談志は柳枝から教わったと言っているが、友人が泥酔した寅を連れ帰る時に本人を置いてきて着物だけ持ってくるという部分を変えていて、サゲも談志独自のものにしている。

30歳の談志に比肩しうるとしたら、先ず思い浮かぶのは24歳にして真打になっていた志ん朝だが、どうも30歳の頃の録音は市販されていないようだ。残念ながら比較できない。
もうひとり上方の桂枝雀については、30歳頃の「小米」時代の音源が市販されているが、未だ師匠・米朝の高座通りに演じており、後年の枝雀落語の域にはほど遠い。
「30歳の談志」を聴いて驚くのは、そこに師匠・5代目小さんの影が全く窺えないことだ。そこにこの人の特異な才能を感じてしまう。

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コメント

柳枝の『ずっこけ』は、他の噺と一緒にキングレコードから発売されています。
これが、また結構なんですよ。
談志は、私も若い頃の音源の方が好きです。
ちなみに、私が余興で演る『道灌』は、談志が手本です。

投稿: 小言幸兵衛 | 2015/03/17 12:21

小言幸兵衛様
談志はいわゆる前座噺の多くを柳枝から教わったようで、良き指導者にも恵まれていたという事になります。私も後年の理屈をこねくり回すような高座より、若い頃の方が良かったと思います。

投稿: ほめ・く | 2015/03/17 16:02

>壇ノ浦の戦いの場面は講釈風の語りで当時人気の講釈師であった一龍斎貞丈や神田松鯉らの物真似を披露するなど
そうでしたか、講釈を知らない私は勉強になりました。談志は話芸全般を愛したひとだったと思います。

また、師匠・小さんの影が窺えないというお話、そのとおりだと膝を打ちました。

投稿: 福 | 2015/03/18 07:20

福様
談志の若い頃は講談界も貞山、馬琴、貞丈、松鯉ら名人上手が綺羅星の如くいて活躍していました。談志は『野ざらし』の3代目柳好と同様に尊敬の念で物真似をしたのだと思います。これが良く似ているのでサマになっているんです。

投稿: ほめ・く | 2015/03/18 09:40

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