日本演芸若手研精会#422弥生公演(2015/3/11)
日本演芸若手研精会「第422回弥生公演~稲葉守治七回忌追善公演~」
日時:2015年3月11日(水)18:30
会場:日本橋社会教育会館
< 番組 >
前座・柳亭市助『真田小僧』
入船亭小辰『一目上り』
柳亭市楽『表札』
桂宮治『禁酒番屋』
柳亭こみち『豊竹屋』
三笑亭夢吉『辰巳の辻占』
~仲入り~
春風亭昇々『最終試験』
春風亭正太郎『にかわ泥』
入船亭遊一『浜野矩随』
今月の「日本演芸若手研精会」は稲葉守治さんの七回忌追善公演だ。稲葉さんは30年以上にわたり二ツ目を育成するために尽力された方で、本格派の古典落語を演じる人を育てるという明確な意思を持っていた。この会はその精神を受け継いでいる。現在のレギュラー9人全員がそれに相応しいかどうかは異論があるかも知れないが、そこを目指して欲しいという期待を持たれているのは事実だろう。今回はそのうち8人が出演した。特別の会ということもあってか立見の出る盛況ぶりだった。
前座の市助『真田小僧』、若いのに落ち着いた高座で、このまま行けば今年中には二ツ目に昇進し、この会のメンバーになるのだろう。
小辰『一目上り』、前座の頃から見ているが、上手いし手堅い。本格派の古典というこの会の趣旨にピッタリの噺家だ。
市楽『表札』、このネタは古典ではないし5代目古今亭今輔作というから新作とも呼び難い。中古かな。
大学に留年し続けていると偽って親から仕送りを受けていた男、実際には所帯持ちで5人の子供もいる。父親が上京してくるというので慌てて隣の部屋に住み独り者の家を借り表札を入れ替える。訪ねてきた父親がそろそろ就職しろと言うと、既に会社の名刺まで持っている。結婚したらと言うと嫁さんが、孫の顔を見たいといえば赤ん坊が・・・。昭和前半の古き良き時代の物語。
市楽も前座の頃から見ているが、二ツ目になってからあまり進歩が見られない。足踏み状態に映る。滑舌の悪さという欠点も克服しないといけない。
宮治『禁酒番屋』、解説不要の噺家だ。品の無いのが欠点だが、とにかく面白い。このネタの通常の1.5倍速位のスピードで語っていたが、ツボは外さない。二人目の奉公人が油を持参する際に上からコルクを押し込むと、番屋の侍はワインオプナーを出してきて栓抜きをするというクスグリを入れて快演。
こみち『豊竹屋』、ウ~ン、こういうネタに挑戦する努力は買うが、あの語りは義太夫には聞こえない。女流として頑張ってる所は評価している。
夢吉『辰巳の辻占』、いよいよこの5月から新真打昇進と2代夢丸襲名の披露興行が始まる。師匠が高座で口上を述べられなくなったのはさぞかし残念だったろう。
本人曰く、女性が出て来る噺はやや苦手とのことで、この日のようなネタはあまり高座に掛けて来なかった。でもこれからは、こうした演目にも挑戦して行くと語っていた。
辰巳芸者に金をせびられた男、叔父さんの助言で芸者の本心を試すために心中話を持ちかける。男の申し出に芸者は渋々大川の橋の上に来るが・・・。よく似た噺に『星野屋』があるが、こちらの方が単純。
夢吉の高座は芸者の造形は今ひとつだったが、男が茶屋で「辻占菓子」を食べながら辻占をする場面からサゲまで快適なテンポで運ぶ。
昇々『最終試験』、就職試験の面接でガチガチに緊張した学生を試験官の話。会場では結構笑いを取っていたがアタシにはどこが面白いんだか分からなかった。ネタの選定も感心しなかった。
師匠の昇太の事が話題に出ていたが、彼は古典もちゃんと出来る。『花筏』や『権助魚』については昇太がベストと思ってるほどだ。落語家である以上、やはり古典が基本になるのだ。
正太郎『にかわ泥』、こネタは初見。上方落語では『仏師屋盗人』という題で演じられる。
仏師具屋へ入った泥棒が1両2分を受け取り誤って唐紙を空けてしまい、そこに立っていた羅漢像を怪物と間違えて首を切り落とす。これを修理中だった主人は怒り、泥棒にニカワで首を継ぐ仕事の手伝いをさせるという噺。盗人が10両盗むと首が落ちると、仏像の首が落ちるとを掛けたものだ。
正太郎のトボケタ味わいが生きていて良い出来だった。この人は確実に上手くなっている。
遊一『浜野矩随』、こちらも今春の新真打昇進披露を控えていて、高座も熱演であったが、この噺がどうしても好きになれないのだ。全体に陰鬱だし、能力もない努力もしない職人が、母の一念だけでいきなり立派な彫刻を完成させるというストーリーが余りに安易だからだ。最後まで白けた気持ちで聴いてしまった。
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