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2015/04/08

こまつ座「小林一茶」(2015/4/7)

こまつ座 第108回公演「小林一茶」
日時;2015年4月7日(火)18時30分
会場:紀伊國屋ホール

脚本:井上ひさし
演出:鵜山仁
<  キャスト()内は劇中劇の役  >
和田正人/見廻同心見習(小林一茶)
石井一孝/飯泥棒(竹里、ほか)
久保酎吉/自身番家主(油屋大川立砂)
荘田由紀/水茶屋の女(大川立砂の姪およね、ほか)
石田圭祐/自身番番人(夏目成美こと蔵前札差井筒屋、ほか)
小椋毅/からくり屋(岡っ引き、ほか)
川辺邦弘/膠屋(下っ引き、他)
一色洋平/風鈴そば屋(幇間、ほか)
小嶋尚樹/坊主(雲水)
松角洋平/船頭(左官)
大原康裕/貸本屋(行商人)
植田真介/旅籠菊屋番頭(句会の客)

俳人・小林一茶の名前や主な俳句は誰もが知る所だが、彼がどういう人物であったか、どんな人生を送ったのかを知る人は少ない。一茶は膨大な量の句日記(房事まで記す詳細な記録)と句文集を残していた。作者の井上ひさしはそれらを何度も読み返し、日割表を作成した。すると文化7年11月1日-11日にかけての記述に、当時一茶のパトロンであり江戸三大俳人でもあった夏目成美こと蔵前札差井筒屋八郎右衛門の寮で480両が盗まれるという大事件が発生したこと、この件でこの寮に寄宿し部屋を自由に出入りしていた一茶が犯人と疑われ禁足されて取り調べを受けたことが書かれていた。井上ひさしはこの事件に着目し、これが一茶の生涯に大きな影響を与えたものと確信し脚本を書いたとしている。
この事件を経てこそはじめて一茶は一茶になったのだと作者は確信する。―井上ひさし
従ってこの戯曲に登場する人物は全て実在し、扱った事件は史実だ。

しかし、これをそのまま芝居にしないのも井上戯曲である。
舞台は江戸の三大俳諧師の一人と称される夏目成美こと蔵前札差井筒屋八郎右衛門の寮から480両の大金が盗まれた事から始まる。 容疑者は食い詰め者の俳諧師、小林一茶だ。
蔵前札差会所見廻同心見習いの五十嵐俊介は、お吟味芝居を仕立て真相を探ることにした。自身が一茶を演じ、自身番や周囲の人たちを役者に仕立てながら、彼をよく知る元鳥越町の住人たちの証言をつなぎ合わせていく。
一茶は信州柏原の農家に生まれ、幼くして母を亡くし、継母に虐められ15歳の春に江戸へ奉公に出された。たまたま知り合った俳諧師を目指す竹里から油屋の店を紹介され、主人の姪・およねと恋仲になる。いずれ二人は夫婦となり店を持つことを約束されていたのだが、訪ねてきた竹里が葛飾派の二六庵を継ぐと聞いて血が騒ぎ、俳諧師の道を絶ちきれず一茶はおよねを棄て店を飛び出す。残されたおよねは竹里と一夜を交わす。
やがて一茶は俳諧師として頭角をあらわし、江戸の有力な遊俳(俳諧を趣味とする人、金持ちが多い)をパトロンとし、時には大阪や九州へと旅をしながら各地の遊俳たちと歌仙を巻いていくようになる。次第に一茶は業俳(俳句で生計を立てる人、プロ)を目指すようになる。しかし実態は、江戸の遊俳の食客といっても主の身の回りの世話や掃除など、書生と下男を兼ねたような扱いだった。
そして人生の大事な節目節目にライバルの竹里が一茶の前に現れ、往く手を妨げる。その一方で竹里は一茶の才能や人間性に魅かれてゆくが・・・。

結局、この盗難事件が契機となり一茶は江戸で業俳として成功する夢を捨て故郷の信州柏原に帰り、独特の句風を確立してゆく。

文章にするとややこしいのだが、井上芝居は例によって極まて分かりやすく、そして楽しい。溢れるばかりのエネルギー、言葉遊び、歌と踊りの音楽劇の要素も加わり上演3時間は飽きさせない。
江戸時代の俳諧師や俳句を趣味とする人たちの暮らしぶりが生き生きと描かれ、たった7日間の出来事を追うストーリーの中で私たちは小林一茶の生涯を連想することができる。

主役の和田正人の演技は、私たちが持っていた一茶像を一挙に壊してしまう程のインパクトがあった。彼の姿を見ていると、様々な芸術や芸能分野を目指す現代の若者の姿が二重写しになる。
ライバルの竹里役の石井一孝も好演だった。一茶をライバル視しながら才能の壁にぶち当たりもがく男を見事に表現していた。敵視しながらシンパシーを感じて行く過程も納得のいく演技だった。陰の主役である。
紅一点の荘田由紀の演技も見逃せない。本人によれば色気が無いのが欠点とのことだが、どうしてどうして演じた4人の女は十分色ぽく、そして愛らしい。特におよね役で複雑に揺れる女心が巧みに表現されていた。
他の出演者も揃って好演で、さすがこまつ座と思わせるものがあった。ただこの劇団の芝居には珍しくいくつかセリフのミスがあったのが残念。

公演は4月29日まで。

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