「海の夫人」(2015/5/19)
『海の夫人』
日時:2015年5月19日(火)14時
会場:新国立劇場 小劇場 THE PIT
作:ヘンリック・イプセン
翻訳:アンネ・ランデ・ペータス 長島確
演出:宮田慶子
< キャスト >
村田雄浩:医師 ドクトル・ヴァンゲル
麻実れい:その後妻 エリーダ・ヴァンゲル
太田緑ロランス:前妻の長女 ボレッテ
山﨑薫:その妹 ヒルデ
大石継太:長女らの元教師 アーンホルム
橋本淳:彫刻家志望の男 リングストラン
横堀悦夫:画家で音楽家 バレステッド
眞島秀和:見知らぬ男
イプセンの1888年作の戯曲。
舞台はノルウェーの小さな町。エリーダは医師ヴァンゲルの後妻となり、前妻の娘ボレッタとヒルテと共に安定した生活を送っていたが、生まれたばかりの男の子を亡くして以来、精神的に不安定で空虚な生活を過ごしている。エリーダは毎日海で泳いでばかりいるので近所の人から「海の夫人」とよばれていた。
妻を心配したヴァルダンは娘たちのかつての教師であり、妻とも知り合いであるアーンホルムを自宅に招く。ヴァルダン家にはその他に彫刻家を目指しているというリングストランや、画家その他なんでも屋であるバレステッドが出入りし、娘らと交流している。
ある日、エリーダの元へ見知らぬ男が訪ねてくる。昔の約束通り連れに来たと言いだす男にエリーダは確かに見覚えがあった。自由への憧れが強かったエリーダにとり昔の恋人の登場は、彼女の心をかき乱す。夫に向かって「私はあなたに買われたの」と言い出すエリーダに戸惑い、必死に引き留めるヴァンゲル。そして再び現れた男は、エリーダに一緒に来るよう命じるが・・・。
この作品が書かれた1888年にノルウェーで結婚した女性名義の財産(預金)が初めて認められたとある。それまでは妻は自分名義の預金を持てなかったのだ。つまり夫の後見のもとにあったわけだ。
そうした時代背景を考えていくと、この物語は家庭に縛られていた女性の自立の話であり、現代に連なる家庭崩壊の話でもある。
束縛されていたからこそ、女性たちに自由への憧れもまた強かったのだろう。しかし自由や自立といっても経済的裏付けがなければ絵にかいた餅にすぎない。自由への希求と経済的制約の中で女性たちは悩み苦しんでいたことだろう。エリーダやボレッテの選択もそうした制約を乗り越えることが出来なかったようだ。
かつての翻訳劇に比べてセリフが日本語としてよくこなれていた。時代の違いはあるものの、今の私たちが観ても違和感はない。
神秘性のある主人公のエリーダを麻実れいが好演、村田雄浩ほかの出演者も揃って良い演技を見せていた。
公演は31日まで。
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