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2015/05/22

「扇辰・白酒 二人会」(2015/5/21)

通ごのみ~「扇辰・白酒 二人会」
日時:2015年5月21日(木)18:45
会場:日本橋劇場
<  番組  >
前座・林家つる子『初天神』
入船亭扇辰『団子坂奇談』
桃月庵白酒『付き馬』
~仲入り~
桃月庵白酒『喧嘩長屋』
入船亭扇辰『井戸の茶碗』

昭和の名人といえば8代目桂文楽、5代目古今亭志ん生、6代目三遊亭圓生の3人が通り相場となっている。よく「不世出」といわれるが、この中で文楽や圓生に近い芸の持ち主が将来現れるかも知れないと思うが、志ん生だけは似た芸人は出現しまい。それは芸の高さの問題ではなく芸の質、あるいは人間そのものと言った方が適切かも。子どもの頃に12歳上の兄に「どうして志ん生って面白いだろうね?」と訊いたら、「そりゃ、志ん生がしゃべるからさ」という答が返ってきた。今CDを聴いてそう実感する。同じことを他の人がしゃべっても、ちっとも面白くないだろう。
志ん生没後40年以上経つが、この間、志ん生を襲名できそうな人というのは私も見る限りいなかった。最も近いと思われた志ん朝でさえ、父親の芸風とは明らかに違う。
そうなると志ん生を継げる人というのはいなくなってしまう。このまま大名跡を襲う人は誰もいなくなるのかと思っていたが、ここに一人いる。それは桃月庵白酒だ。もちろん、志ん生と芸風は一緒では無い。白酒のあの天性の明るさ、高座に上がるだけで周囲が明るくなる。噺家らしい風貌、ネタのレパートリーの広さといった点は他に替え難いものがある。古今亭のお家芸を大切にしている姿勢も評価できる。
6代目古今亭志ん生を継ぐのはこの人しかいないと、強く推す由縁だ。
長々と志ん生談義を書いてしまったが、実はこの日の白酒の2題、毎度お馴染みで過去に何度も評を書いているので割愛したい、という事情がある。

ついでといってはなんだが、しばらく空き名跡になっている春風亭柳枝は、ぜひ一之輔に継いで欲しい。両協会をまたぐ厄介な問題はあるのだが、ここは名跡の維持ということで一致協力が求められる。
近ごろ興行目当てに安易な襲名が行われる傾向も見られるが、やはり大名跡の継承はそれに相応しい人になって欲しいのだ。

前座・つる子『初天神』、好き嫌いは別にして、上手くなってきている。

扇辰の1席目『団子坂奇談』、初夏の清々しい季節だというのに、楽屋では加湿器(白酒のこと)があるので暑苦しいとマクラを振って本題へ。タイトルは知っていたが高座では初めて聴く。
侍の次男坊・生駒弥太郎が、団子坂に観桜に行き、たまたま入った蕎麦屋「おかめや」の一人娘・お絹に一目惚れする。恋煩いの弥太郎をみかねて、母親が縁談を先方に持ちかけるが、蕎麦屋は父親と娘二人で切り盛りしているので娘は嫁にやれないと断られる。そこは次男坊の気軽さ、では弥太郎が蕎麦屋になろうと親方に弟子入りし、店の近くに部屋を借り熱心に修業に励む。屋敷からは仕送りが来るので蕎麦作りに打ち込めめきめき腕も上がる。
ある梅雨どきの深夜、寝付けぬ弥太郎の耳に下駄の音が、見るとお絹が出かける様子。この夜中にどこへと弥太郎がお絹を後をつけると、やがて三崎坂から谷中の墓地に入っていった。弥太郎が物陰から見ているとお絹は墓の一つを暴き、中から取り出した赤子の腕をかじり始める。あまりに怖ろしい光景に弥太郎はその場を逃げようとするが小枝につまずき、お絹に気付かれてしまう。部屋に戻って布団をかぶって震えている弥太郎に、帰ってきたお絹から「他言は無用」と念を押される。
こうなったら弥太郎はもう店にいられない、翌朝、早々に蕎麦屋の親方に会い、暇を願いでる。弥太郎を婿にして跡継ぎと期待していた親方は承知しない。どうしても理由を言えと命じられ、弥太郎はしぶしぶ昨夜の様子を語り、お絹さんが赤ん坊の腕をかじったと伝える。
親方は、なんだそんな事かと笑い飛ばし、「お前さんだって親の脛をかじってるだろう」でサゲ。
扇辰がいかにも怪談話風に語るのでどうなるかと思っていたら、落とし噺だったという次第。
扇辰の明解な語り口が活きたネタで、それだけに肩透かしが効果的だった。

扇辰の2席目『井戸の茶碗』、扇辰のこのネタは初見。この噺に出て来る正直者だが、それぞれタイプが違う。屑屋の清兵衛は正直というより欲心が無いのだ。そこを見込まれ千代田卜斎と高木作左衛門との間を金を持って往復する羽目になる。千代田卜斎は今は浪人で貧乏はしているが元武士としての誇りを失っていない頑固な人物だ。一方高木作左衛門は正義感のある若侍で、理詰めで物事を考えるタイプだ。3人の「正直」の在りようは異なる。そうした人物の違いをいかに演じ分けるかが演者の腕の見せ所であるが、人物描写には定評のある扇辰らしい手堅い高座だった。

白酒のお馴染みの2席も楽しませてくれて、充実した会だったと思う。

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コメント

この会、以前は何度か行ってたのですが、、。さいきんホール落語の予約をすることが減りました。
行ってそこで次回の切符を買うというパターン、または小満んの会のようなの。

佐平次様
この会は比較的充実しているので行くようにしています。反対に寄席の回数が減り気味です。

行きたかったんですが、この時期はしばらく予定を入れにくい状況でして、断念しました。

襲名の案、なるほど・・・・・・。

志ん生は、以前は志ん輔に継いで欲しいと思っていましたが、本人にその気がなさそうですし、芸風も違い過ぎるかもしれません。
白酒の六代目志ん生、名案です。
今、もっとも志ん生らしさを感じさせるのが、白酒でしょう。
馬生と志ん朝の両一門が認める可能性、なきにしもあらずでは。
柳枝の名を一之輔が継ぐのも賛成なのですが、これは難しそうです。
八代目の弟子筋だと栄枝→百栄、圓窓→萬窓、なんて流れもあるかもしれませんが、八代目柳枝の親戚の方とのつながりとか、どうなっているんでしょうねぇ。
長々、失礼しました。

小言幸兵衛様
この会はネタ出しせずに当日に演者が決めると言う方式ですが、どうやらこの日については扇辰の『井戸茶』だけは決めていたようです。この演目用の服装を用意していましたので。もう一席は珍しいネタで、対する白酒はお馴染みの2席と、ネタの選び方も見所の一つです。
柳枝襲名の件は難しいでしょうが、大局的な見地から解決して欲しいと思います。

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