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2015/06/24

東海道四谷怪談(2015/6/23)

「東海道四谷怪談」
日時:2015年6月23日(火)13時
会場:新国立劇場 中劇場

作:鶴屋南北
演出:森新太郎
上演台本:フジノサツコ
【出演者】
内野聖陽、秋山菜津子、平岳大、山本亨、大鷹明良、木下浩之、有薗芳記、木村靖司、下総源太朗、
陳内将、谷山知宏、酒向芳、北川勝博、采澤靖起、今國雅彦、稲葉俊一、わっしょい後藤、森野憲一、
頼田昂治、花王おさむ、小野武彦
【ストーリー】
元塩冶藩士、四谷左門の娘・岩(秋山菜津子)は夫である民谷伊右衛門(内野聖陽)の不行状を理由に実家に連れ戻されていた。伊右衛門は左門に岩との復縁を迫るが、過去の悪事を指摘され、辻斬りの仕業に見せかけ左門を殺害。ちょうどそこへ岩と袖(陳内将)がやってきて、左門の死体を見つける。嘆く2人に伊右衛門は仇を討ってやると言いくるめる。
伊右衛門と岩は復縁し岩は出産するが産後の肥立ちが悪く、病がちになったため、伊右衛門は岩を厭うようになる。高師直の家臣伊藤喜兵衛(小野武彦)の孫・梅(有薗芳記)は伊右衛門に恋をし、喜兵衛も伊右衛門を婿に望む。高家への仕官を条件に承諾した伊右衛門は、按摩の宅悦(木下浩之)を脅して岩と不義密通をはたらかせ、それを口実に離縁しようと画策する。喜兵衛から贈られた薬のために容貌が崩れた岩を見て脅えた宅悦は伊右衛門の計画を岩に暴露する。岩は悶え苦しみ、置いてあった刀が首に刺さって死ぬ。伊右衛門は家宝の薬を盗んだとがで捕らえていた小仏小平(谷山知宏)を惨殺。伊右衛門の手下は岩と小平の死体を戸板にくくりつけ、川に流す。
伊右衛門と梅は祝言をあげるが、婚礼の晩に伊右衛門は岩の幽霊を見て錯乱し、梅と喜兵衛を殺害、逃亡する。
伊右衛門が気晴らしに釣りをしていると、岩と小平の死体を打ちつけた戸板が流れてきて、二人の幽霊から責められる。
伊右衛門はなお高家への仕官を画策するがその度に岩の亡霊に邪魔され、殺害を重ねてゆく。
岩の形見の簪を妹の袖が見つけ、通りかかった宅悦から岩が殺された経緯と真相を聞かされ、夫の佐藤与茂七(平岳大)に姉の仇討ちを頼む。
蛇山の庵室で伊右衛門は岩の幽霊と鼠に苦しめられて狂乱する。そこへ真相を知った与茂七が来て、舅と義姉の敵である伊右衛門を討つ。
(原作では岩の妹・袖と直助との悲劇が織り込まれているが、この舞台ではカットしている。そのため後半の筋書は書き換えられている。)

ネットでは既にいくつかの劇評が掲載されているが、概して評判は芳しくない。新聞などの劇評も大概は甘口に書かれる事が多いが、朝日紙上などではコテンパンだった。
しかし、私はこの作品を評価したい。
もちろんツッコミ所は満載だ。直助が登場しない。女優は秋山菜津子一人だけで他は全て男優だけだ。その女形が「形」を成していないので客席から度々失笑がもれる。最後の伊右衛門の立ち回りに時間をかけ過ぎている、・・・等々。
それでもなおこの作品を評価するのは、先ずは原作の良さだ。
よく知られるように、「東海道四谷怪談」は忠臣蔵の外伝という形で書かれたもので、初演は「仮名手本忠臣蔵」と同時に上演されている。
忠臣蔵に出てくる赤穂浪士たちは主君の仇を討つために一身を投げ出し、最後は本懐を遂げて切腹を命じられ死んで行く。でも、そうした浪士は少数で、他の多数の浪士たちは伝手をたどって再就職、つまい別の藩に仕官する道を選んだのだろう。家名を保ち妻子を養うためにはそれ以外の道は無かったのだ。
「東海道四谷怪談」では主人公の伊右衛門が舅の主君の仇である高家への仕官を図るが果たせず、破滅の道を歩んで行くというストーリーだ。この物語は「アンチ忠臣蔵」だ。その一方、最後は佐藤与茂七が舅と義姉の敵である伊右衛門を討つという、もう一つの仇討物語となっている。
この舞台ではその肝心の部分を分かりやすく描いていたと思う。

この舞台の特長は、溢れんばかりの伊右衛門の「生きる」事への執着と、それに対する岩の怨念の深さ、その両者のぶつかり合いに焦点を当てたことだ。袖と直助のサイドストーリーを敢えてカットしたのもそのためだろう。
芝居や映画では伊右衛門は色悪として描かれることが多いが、この作品の彼はとにかく生きたいのだ。岩の幽霊の悩まされながらも最後まで仕官の道を諦めずにひたすら生きようともがき続ける。これは現代人にも通じる姿だ。
一方の岩は、父親の仇討ちだけを願って伊右衛門に尽くすが裏切られ、騙されて毒薬を飲まされ顔の形まで崩され憤死してゆく。その怨念により伊右衛門を破滅させ、自らが願っていた親の仇討ちを成就させる。この芝居のお岩は決して運命に翻弄されるだけの弱い女性ではなく、死してなお本懐を遂げようとする強い女性として描かれている。
最終シーンの決闘の場も、最後まで生きることに拘る伊右衛門の姿を象徴的に描きながら、雪の中での仇討という「忠臣蔵」との対比を鮮やかに演出したものと解釈する。

床に白いシートを敷き、背景は白のパネルだけという簡素な舞台装置も効果的だった。
出演者では、先ずはお岩役の秋山菜津子の演技が素晴らしかった。岩の哀れさと強さが巧みに表現されていた。特に顔面が崩れた後で化粧台の前で鉄漿(おはぐろ)を塗るシーンは見ていてゾクゾクしてきた。
伊右衛門役の内野聖陽は熱演だった。いわゆる色悪ではない、なりふり構わず必死に生きようとする新しい伊右衛門像を作りあげた。
この作品は二人の芝居だ。

公演は28日まで。

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