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2015/06/28

新治主義と白酒ナリズム「三田落語会・夜」(2015/6/27)

第38回三田落語会・夜席「露の新治・桃月庵白酒」
日時:2015年6月27日(土)18時
会場:仏教伝道センタービル8F
<  番組  >
前座・入船亭ゆう京『堀の内』
露の新治『紙入れ』
桃月庵白酒『お化け長屋』
~仲入り~
桃月庵白酒『茗荷宿』
露の新治『船弁慶』

ゆう京『堀の内』、ミスはあったがテンポが良くいい出来だった。独自のクスグリも入れて前座のこのネタとしては高水準。

新治『紙入れ』、育毛剤に今まで40万円ほどつぎこんんでいるが効果がないという話をマクラに。筆で塗っていたら、髪より先に筆の毛が抜けてしまったで、会場の爆笑を誘う。相変わらずツカミが巧み。
間男の新吉は貸本屋だ。私が小学生の頃までは東京にも貸本屋があった、2種類あり、一つは店舗を構えていて客が本を借りに来るタイプ、もう一つは注文を取って期日に貸本を届けてくれるタイプだ。新吉は後者のタイプで、得意先である主人の元へ通っていた。しかしヒョンな所から奥方と深い仲になり、今日も今日とて亭主が仕事で泊りになるからと奥方からの誘いの手紙が来る。こうなると女性の方は大胆かつ積極的になる。二人で盃を酌み交わし、後は御約束のお床入り。
東京の落語家の演出と違って、新治の高座では奥方の誘いが濃密だ。新吉に拗ねて甘えて、彼が酒を呑む時に顔をじっと見つめるのだが、その表情の物欲しそうなこと。着物と帯を次々と脱ぎ捨て肌襦袢1枚になって今度は寝化粧、その際の期待感に満ちた表情のアップ。
ストーリーは毎度お馴染みなのだが、こうした細部の描写が丁寧だ。
翌朝に新吉が主を訪ねてくる時も、主の煙草の吸い方が堂に入っている。鷹揚だが間抜けな亭主と目端が利く女房との対比も鮮やかに、上出来の高座だった。

白酒『お化け長屋』、現在行われている神楽坂祭りを話題にマクラにふる。白酒が地元だとは知らなかった。神楽坂も人通りは増えたが、その分落ち着きのない街になってしまった。
長屋に一軒空き家があり、周囲の住人は物置代わりに使って便利にしていたが、大家に見つかり叱られる。長屋が全て埋まってしまうと大家が強気になるし、何とか空き家をそのままにしておきたい。そこで長屋の長老・古狸の杢兵衛が長屋の差配ということにして、空き店を借りに来る人間を怪談話で脅して追い返そうと企む。最初に来た男は気が弱く上手く追い返したが、次に来た威勢のいい男は気が短く、かつ杢兵衛の語る怪談話の矛盾を突いてくるという性分だから、手に負えない。あの家に住んでいたのは27,8の後家さんと言えば、27なのか28なのかはっきりしろいと言われる。後家って亭主は死に別れか、なんで死んだんだと訊かれ、杢兵衛は老衰だと答えてしまう。泥棒が寝入っている後家さんの寝乱れ姿を見てついムラムラとして懐に手を入れ・・・と言えば、俺だったらそういう風にはしないなどといちいち混ぜ返される。男のツッコミに杢兵衛が次第に追い詰められる所を見せ場にして、いつもの白酒ナリズムの高座で客席を沸かしていた。

桃月庵白酒『茗荷宿』、江戸時代の飛脚の話をマクラに、十八番のネタへ。泊り客の早飛脚が、茗荷のフルコースを次第にウンザリしながら食べる仕草がよい。

新治『船弁慶』、新治が言っていたが上方でも滅多に高座にかけないという大ネタだ。能の『船(舟)弁慶』を題材にしている。能の舞台は一度観たことがあるが、能にしては動きが激しく、しかも分かり易い。庶民もこの舞台だけは親しみが持てたのではなかろうか。
武蔵坊弁慶とは直接関わりはなく、他人のお供ばかりする人間、つまり他人の奢りでご馳走になるような人間を、花柳界の隠語で「弁慶」と称したようで、これが後半のパロディとサゲに通じている。
この噺は大きく分けると前半の長屋の場面と、後半の船上での宴席の場面に分かれる。
粗筋は。
喜六の住む長屋へ友だちの清八が訪ねてきて、一人3円の割り前で舟遊びをしようと誘いに売る。馴染みの芸子も呼ぶという。喜六は、いつもは他人の奢りで飲み食いしているので芸子たちから「弁慶はん」と呼ばれているから嫌だと渋る。清八は、それならもし宴席で喜六のことを「弁慶」と呼ぶ人間がいたら、割り前は自分が払うからと説得し、喜六も同意する。そこへ喜六の女房・お松が帰宅する。このお松はやたら気が強く、しかも怖ろしい女だ。そこで清八は友達同士の喧嘩の仲裁のためと偽って喜六を連れ出す。
船に着くと既に宴会が始まっていて、喜六は誰かが「弁慶」と呼べば割り前を払わずに済みので待っていたが、清八が手を廻していて誰も「弁慶」とは呼ばない。諦めた喜六は盛んに飲み食いし、酔っぱらってしまう。酔った勢いで赤褌一丁になって踊り出すと、清八は白褌でこれに応える(ここは赤白、つまり源平の見立て)。
一方、仲間と夕涼みに難波橋にやって来たお松は、船上で踊り狂う亭主を見つけ、渡し船に乗って亭主らの乗った船に上がってくる。
お松は「あんた。こんなとこで何してなはンねん」と叫ぶなり喜六の顔をひっかく。喜六は驚くが、「何さらすんじゃ」と言い返すなり、お松を川の中へ突き落としてしまう。川は腰までの浅さであったため、お松はすぐに立ち上がり、流れてきた竹竿を手にし、「そもそもこれは、桓武天皇九代の後胤、平知盛、幽霊なり」と能の『船弁慶』おける知盛の霊を演じはじめる。
今度は喜六が、「その時喜六は少しも騒がず、数珠をさらさらと、押し揉んで」と言いつつシゴキを輪にして大きな数珠に見立てて、「東方降三世夜叉明王、南方軍荼利夜叉明王」と弁慶を演じて応じる。
これを難波橋の上から見ていた連中が、「あれ何だすねん」「えらい喧嘩でんな」「いや夫婦喧嘩と見せかけて、『船弁慶』の俄(にわか)やってまんねやがな。こら、ほめたらなあきまへんで」「川の中の知盛はんもええけども、船の上の弁慶はんも秀逸秀逸。よう!よう! 船の上の弁慶はん! 弁慶はん!」。
それを聞いた喜六は、「何い、『弁慶』やと。今日は、3円の割り前じゃい!」でサゲ。

このネタは、最初の喜六と清八の遊びの誘いをめぐる会話の場面、妻・お松の登場と喜六がどれほどお松が怖ろしい女かを語る場面(「焼き豆腐」のエピソードは秀逸)、華やかな大川での船遊びの場面と喜六夫婦の喧嘩の場面からなる大作。登場人物の漫才のようなユーモラスなやりとりあり、はめものを用いた動きのある演技あり、能のパロディありで、演者には相当な体力と技量が必要だ。
新治は途中少し疲れを感じたものの、切れ目なく快適なテンポでこの大ネタを演じ切った。
せっかく東京で上方落語を聴くのだから、やはりこうした上方でしか聴けないような演目が望ましい。新治の出る会ではいつも1席はハメモノを使った賑やかなネタを選び、私たち東京の落語ファンを楽しませてくれる。
こうした新治主義が、東京でも多くのファンを獲得している要因だと思う。

期待通りの二人会、真に結構でした。

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コメント

白酒が奇想天外な笑いに対して新治は真っ向勝負。
面白かったですが、席がイマイチで前の男の頭が邪魔、せっかくの新治の仕草や表情が良く見られなかったのが悔しいです。
やはり前の会に並んで取らないとダメかな。

佐平次様
やかり御出ででしたか。この会場は床がフラットなので、後ろの席だと見えにくいというのが欠点です。前の人の頭をどかす訳にもいきませんし。
新治は東京のファンにすっかり定着しました。

こんにちは。白酒の「お化け長屋」以外は全て初めて聴くネタで、大満足でした。「船弁慶」は20年以上前に故勘三郎が歌舞伎座でやっていたのを思い出しました。あらすじは全く記憶に残っていませんが、渋くて重い雰囲気の芝居だったことが思い出されます。

ぱたぱた様
4席とも結構でした。特に新治の『紙入れ』は最高でした。新治が受けすぎて白酒がやや食われたかなという印象です。
『船弁慶』は歌舞伎は未見ですが、能は面白かったです。

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