四の日昼席(2015/07/04)
日時:2015年7月4日(土)13時
会場:スタジオフォー
久々の地域寄席だ。初めての会場なので少しイントロダクションを。
場所は巣鴨で、とげぬき地蔵から徒歩で10分ほど。都営三田線の西巣鴨駅か、都電荒川線の新庚申塚駅からは数分の場所。定期的にジャズライブなどが行われていて、
毎週水曜日の13時から「すがも巣ごもり寄席」が開かれている。毎回二ツ目が4名出演するようだ。
他に毎月4の日に「四の日昼席」が13時より開催される。メンバーは固定で次の通り。
初音家左橋 / 隅田川馬石 / 古今亭文菊 / 桂やまと / 古今亭駒次
(いま気が付いたのだが、メンバーは全員古今亭(金原亭)一門)
入場料が1500円で、キャッチコピーは日本一コスパの良い落語会とうたっている。
会場は50名ほどの広さだが、驚くのは不定期だがここで立川志の輔の独演会が開かれることだ。
7月4日の「四の日昼席」の番組は以下の通りで、常連客が多いようで和やかな雰囲気だった。
< 番組 >
初音家左橋『お菊の皿』
*春風亭一左『唖の釣り』
古今亭文菊『鰻の幇間』
~仲入り~
隅田川馬石『風呂敷』
古今亭駒次『旅姿浮世駅弁』
(*桂やまとの代演)
左橋『お菊の皿』、意外だが(多分)初見。陽気な高座スタイルで、お菊さんのテーマソングを「ユーレイ、ユーレイ、ユーレイホ」と唄い、これでお菊さんが「ヨーデル」なんてぇクスグリを挟んで楽しく聴かせていた。落語の他にTVドラマや芝居も演るようで、高座の所作にもそれらしい動きが感じられた。
一左『唖の釣り』、身体障碍者をからかう様な内容のため、高座にかかる機会が少ない。一左の演じ方は聾唖者というよりはジェスチャアーの動きに近く、不快感がなかった。表情が硬いのが気になり、もっと高座では柔和な表情を作るようにした方が良い。
文菊『鰻の幇間』 、若手の中で艶っぽさを最も感じるのが文菊で、この日のネタも幇間(たいこもち)の一八の描き方に活かされていた。一八が男と出会う場面で通常は一八の方が男を見つけるのだが、文菊のは男が一八に先に声を掛けて戸惑わせるという演じ方だ。この先のストーリーを考えればこの演出の方が自然だし、この男が当初から幇間をひっかけようとしていた意図が明白になる。鰻屋の2階に上がった一八が部屋の汚さを表す時の眼の動きが良い。料理を運んできた女性の奉公人に一八が「綺麗だね」と声を掛けるのも、後半との対比で効果的だ。一八が出された酒やお新香、鰻をいかにも不味そうに食べる仕草も良く出来ていた。男がはばかりに下りて一人になった一八が妄想を膨らませる場面、一転して男の逃げられたと知った時の場面との落差が鮮やか。
一八が女性の奉公人に部屋や料理の愚痴をいう時に「こっちを向きなさいよ」と合いの手を入れるのはリアリティがある。きっと相手はソッポを向いていたのだろう。「言いたいことは未だある」とか「これが最後だけど」というセリフも一八の怒りを感じさせる。
襟に縫い付けてあった10円札を取り出して一八が拡げると丸まってしまう描写を繰り返し、取られる10円への未練を強調した演出も効果的だ。
面白うて、やがて切ない文菊の一席、実に結構でした。
馬石『風呂敷』、古今亭のお家芸とも言うべきネタ、アッサリと感じたのは、相談に来た女房に兄いが「女三階に家無し」「おでんに靴を履かず」といった訓示を垂れる志ん生のギャグを省いたためか。今ひとつ気分の乗らない高座だったようだ。まあ、こういう日もあるでしょう。
駒次『旅姿浮世駅弁』、ローカル線の旅に出た新婚夫婦が、駅弁の権利の乗っ取り話に巻き込まれるが、視察に来ていた鉄道会社の社長一行(水戸黄門のパクリ)に救われるというストーリー。後ろの席の男性が、このネタを聴くのは3度目だけど毎回変えていると語っていた。新作はそれだけ苦労があるのだろう。以前にこの人の高座を聴いた時も鉄道ものの新作だった。「鉄道」というテーマに絞って面白い作品を生み出すのは制約があるんでしょうね。その辺りが課題か。
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文菊、聴きたかったなあ。
目に見えるようです。
投稿: 佐平次 | 2015/07/05 09:49
佐平次様
後の馬石の楽屋入りが遅れているので、私は長めにと言いながら文菊はこのネタを掛けたんですが、これが上出来でした。この一席だけで巣鴨まで行った甲斐がありました。
投稿: ほめ・く | 2015/07/05 11:51
文楽ならぬ文菊の「鰻の幇間」。
「せんのとこだよ」なんていうつれない言い回しはどうでしたでしょうか?
この噺の後半の落差、豹変ぶりは落語の醍醐味の一つです。
あんまりにも身勝手なのが可笑しい。
投稿: 福 | 2015/07/06 06:45
福様
典型の文楽型は幇間が男をどこかで見たことがあるが思い出せないという設定に対して、文菊は男に心当たりがない。けれど男の方から「よう師匠、どうだい景気は」なんて声を掛けてきたからには相手に合わせざるを得ないわけです。「お宅はでちらでしたっけ?」と訊けば「せんのとこだよ」と誤魔化されてしまう。完全に相手は役者が一枚上手です。
だから余計に一八が可哀想に見えました。
投稿: ほめ・く | 2015/07/06 07:32