「アドルフに告ぐ」(2015/7/28)
スタジオライフ公演・紀伊國屋書店提携「アドルフに告ぐ」(日本編)
日時:2015年7月28日(火)18時30分
会場:紀伊国屋ホール
原作:手塚治虫
脚本・演出:倉田淳
< 主なキャスト >
アドルフ・カウフマン/ 山本芳樹
アドルフ・カミル/ 奥田努
峠草平/ 曽世海司
米山刑事/ 牧島進
ヴォルフガング・カウフマン/ 船戸慎士
由季江/ 宇佐見輝
エリザ・ゲルトハイマー/ 久保優二
本多大佐/ 牧島進一
本多芳男/ 仲原裕之
小城先生/ 鈴木智久
赤羽刑事/ 大村浩司
アセチレン・ランプ/ 倉本徹
ストーリー。
この物語には3人のアドルフが登場する。一人はナチス総統のアドルフ・ヒトラー(日本編では映像のみ)、もう一人はドイツ人と日本人の混血でドイツ国籍のアドルフ・カウフマン、その友人でユダヤ人のアドルフ・カミルである。この芝居の狂言回しとして登場するのが新聞記者の峠草平で、彼の回想として物語は進行してゆく。
時代は1930年代のドイツで、ヒトラーが権力を奪取し独裁政治を始め、ユダヤ人に対する弾圧を強めた
時期だ。
1936年、ベルリンオリンピックの取材でドイツへ渡った峠草平は留学中の弟を何者かに殺される。調べていくと弟がヒットラーに関する重大な秘密を知ったことにより口封じで殺され、さらにその秘密の文書が日本へ向けて送られたことを知る。
その秘密文書とは、ヒトラーの祖父が実はユダヤ人だったっという文書が見つかり、これが明らかになればナチスの支配が根底から崩れてしまう。
日本の神戸ではドイツの総領事館員のカウフマンも本国からの指令を受け、文書の行方を追っていた。熱心なナチス党員である彼は、一人息子のアドルフを国粋主義者として育てようとするが、アドルフは強く反発する。同じ名を持つ親友のアドルフ・カミルが、ナチスドイツの忌み嫌うユダヤ人だったからだ。二人は固い友情で結ばれていたが、やがてアドルフ・カウフマンはドイツに送られ、アドルフ・ヒットラー・シューレの生徒となってナチスを信奉するようになり、ユダヤ人を殺害してゆく人物に変貌する。その一方でユダヤ人娘のエリザに恋心を抱き、収容所送りから逃れるために日本へ逃がす手はずを整え、神戸のアドルフ・カミルに匿って貰うよう頼む。
一方、日本の神戸ではドイツの秘密文書を隠すために奮闘する人たちがいて、それにアドルフ・カミルも巻き込まれてしまう。
秘密文書を入手すすようドイツの上官から命令されたアドルフ・カウフマンは神戸に着き、カミルに会いに行くと、カミルはエリザと婚約していた。激怒したカウフマンはエリザを騙して自宅に招き犯してしまう。この事からカミルとカウフマンという二人のアドルフは決裂、互いに憎みあうようになる。
カウフマンは日本の特高と協力し合って関係者を次々と拷問にかけ、遂に秘密文書を手に入れるが、その時は既にドイツが降伏し、ヒトラーは死亡。努力はなんの役にも立たなかった。
峠草平は共産主義者のシンパと見做されて記者を首になり。特高から監視されて職を転々とした挙げ句、カウフマンの母・由季江(夫は死亡)が経営するレストランの雇われ、その縁で二人は結婚する。しかし神戸の大空襲で由季江は重傷を負い、死亡する。
時は流れて戦後にイスラエルに渡ったアドルフ・カミルはパレスチナ人たちを弾圧する側になる。
アドルフ・カウフマンの方はムスリムの女性と結婚し、今はパレスチナに住んでいる。カミルはパレスチナ掃討作戦の中でカウフマンの家族を射殺してしまう。怒りに燃えたカウフマンは「アドルフに告ぐ」と書いたビラをまき、遂に二人は決闘することになるが・・・。
大河小説のような原作を2時間10分に圧縮して舞台化したもので、脚本にするのはさぞかし大変だっただろう。戦前のドイツと日本の政治状況と多数の登場人物が複雑に絡み合っていて、それを短いカットと素早い場面転換で見せるので、観る側としては筋を追うのが精一杯といった所。私の場合は原作を読んでいないので余計にそうだったのかも知れないが。
個々の人物像が深く掘り下げられていないので、せっかくの熱演も今ひとつ観客の心に響かなかったのではなかろうか。
二人のアドルフの友情が暗黒の歴史の波に翻弄され、悲劇的結末を迎えるというメインテーマは良く理解できた。
現代劇には珍しい男優が女形を演じるという試みは成功していたように思う。
公演は8月2日まで。
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