国立演芸場7月中席・楽日(2015/7/20)
梅雨が明けて猛暑が続く今日このごろ、皆さまにはお変わりなき事と存じます、ってまるで暑中見舞いだ。そういやぁ暑中見舞いって最近来なくなりましたね。こっちも出さないけど。
7月20日、国立の顔づけがちょいと地味目だが、しばらく見ていない人も多かったので出向く。客の入りはそこそこだった。
前座・入船亭辰まき『子ほめ』
< 番組 >
柳家わさび『動物園』
古今亭志ん陽『粗忽の釘』
ホームラン『漫才』
柳亭燕路『だくだく』
林家正雀『紙屑屋』*代演
―仲入り―
マギー隆司『奇術』
金原亭世之介『お菊の皿』
ペペ桜井『ギター漫談』*代演
むかし家今松『五貫裁き』
いつも通りに短い感想を。
辰まき『子ほめ』、語りがしっかりしている。師匠の仕込みがいいのかな。
話は変りますが、師匠というのはどういう基準で弟子を取るんだろう。企業なら実務能力や将来性を評価した上で採用を決めるんだが、落語家の場合はなんで判定するんだろう。というのは、師匠によっては少数精鋭で弟子が揃って出来が良いケースもあれば、その反対のケースもあるからだ。
以前、大阪で飲んでいたら隣の客から「知り合いに桂〇〇というのがおるんで、ひとつ贔屓にしてくれないか」と語りかけられた。文枝(その当時は三枝)の10数番目の弟子で、今は師匠の車の運転手をしていると言っていた。人気噺家ともなれば付け人やマネージャー、運転手など周りで世話をする人が必要だ。給料を払っていたら大変だけど、弟子ならタダだもんね。もしかして、そういう事情もあるのかなと。
東京の噺家でも二桁の弟子を取っている人、一人の人、大看板でも弟子を取らない人、なかには弟子が来ない人、色々だ。いったん入門さえしちゃえば、一定年数がくれば誰でも真打になれるんだから、バラツキがでるのも仕方ないか。
わさび『動物園』、しゃべり急ぐクセがある。そうすると言葉が乱れる。もしかしてアガリ症か?
志ん陽『粗忽の釘』、オカミさんに怒鳴られて困惑する亭主の表情がいい。隣家へ行ってノロケ話を始めて、夫婦で行水をしているうちに底が抜けてチンチン電車で下りていた。
ホームラン『漫才』、このコンビは一応たにしがボケ、勘太郎がツッコミとなっているが、そうでない時も結構ある。この日は前半が勘太郎のヒーロー物の薀蓄、対するたにしが藤木孝の思い出を語る。
藤木孝、おそらく60代後半以上の方なら憶えておいでだろう。1960年頃のトップアイドルで、セクシーなダンスが売りものだった。「ツイストNO.1」「アダムとイブ」「24000のキス」「ワンモアチャンス」などのヒットで知られたが、人気絶頂の1962年に突如、歌手を引退してしまった。以後は俳優として活躍していて、芝居を見ていたら彼がワキで出ていて驚いたことがある。
たにしの家では母親も藤木のファンで、彼のダンスに合わせて家族揃って踊ったという話題を振ったのだが、たにしの藤木のダンス物真似が上手かった。ついでにAdriano Celentanoの物真似も披露していたが、帰ってネットで確認したところこれも雰囲気が良く似ていた。
こういう芸が抽斗に入っている所に、このコンビの実力が表れている。
燕路『だくだく』、家具が全て絵だと気付いた泥棒が「つもり」になって風呂敷に荷物を詰め込んで担ぎ出すのを、住人の男が槍で突く「つもり」に至るリズムが良い。
正雀『紙屑屋』、マクラで浪花千栄子についてしゃべっていた。渋い脇役で活躍していたのと、オロナイン軟膏の看板で印象に残っているが、彼女の本名が「南口 キクノ(なんこう きくの)」だったからというのは初めて聞いた。この日はオタクネタが多いね。
このネタはストーリーそのものより、噺の合間に披露する小唄、都々逸、清元、義太夫が聴かせ所だ。だから音曲の素養が無くてはこのネタはできない。こういう噺をさせると正雀は上手い。
マギー隆司『奇術』、手品のネタは全部デパートで買うと言ってたが、この人が言うと本当に聞こえる。
世之介『お菊の皿』、この人はきっと多芸多趣味で器用なんだろう。それが何となく高座に出てくる。器用な落語家は大成しないというのがアタシの持論だが、当たるかな?
ペペ桜井『ギター漫談』、小菊姐さんの声が聴けなくて残念だったが、この人のトークも味があって良い。
今松『五貫裁き』、風貌がますます師匠に似てきた。マクラで今日は周辺が静かと言いながら、最高裁がちゃんとした憲法判断をしないからこういう混乱が起きているなどと硬派の意見、ごもっとも。今の裁判所がだらしないから大岡政談ものが好まれると、ここでネタに入る。吝嗇な質屋が一文の金を惜しんだばかりに百両損するという痛快な物語。裁きの場面で奉行の言葉が詰まったのが惜しまれるが、八五郎と長屋の家主、質屋の主と番頭、奉行と手下の役人らそれぞれの人物をくっきりと描き分けていた。
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わさびは虚弱キャラで売っていますが、
まじでアガリ症かもしれませんね。
学生のころ、先輩の一之輔(当時はこちらも学生)の漫談を聴いて、
面白さに衝撃を受けて落研に入ったんだそうです。
燕治のリズムというお話、よくわかります。
また、風貌がいかにも落語家という感じでして。
投稿: 福 | 2015/07/23 06:59
福様
燕路はいかにも噺家らしい噺家です。テンポがいいですね。
わさびは先ずは話芸を磨いて欲しいところです。
投稿: ほめ・く | 2015/07/23 09:35