これにて休会とは実に残念! #19「らくご」古金亭(2015/9/12)
第19回「らくご古金亭」
日時:2015年9月12日(土)17:30
会場:湯島天神参集殿1階ホール
< 番組 >
前座・金原亭駒松『手紙無筆』
金原亭馬治『へっつい幽霊』
隅田川馬石『粗忽の使者』
春風亭一朝『小言幸兵衛』
金原亭馬生『笠碁』
~仲入り~
古今亭菊志ん『三味線栗毛』
柳家小里ん『五人廻し』
五街道雲助『庚申侍』
この会が今回をもって休会となるとの発表があった。5代目志ん生と10代目馬生が掛けたネタだけを、雲助と当代馬生が中心となって演じると言う貴重な落語会だった。お客のほとんどが常連で、しかも良い客だったためか、いつも雰囲気の良い会でもあった。この日の演目にあるように、公演時間が3時間半という長丁場を出演者それぞれがトリネタを演るという点でも他に無い会であった。
次回のスケジュールや出演者、ネタまで公表されていたので、恐らくは主催者に特別の事情があったものと推察される。休会は残念だが、主催者の方には心より謝意を伝えたい。
馬治『へっつい幽霊』
志ん生親子の口演は記憶になく、このネタは3代目三木助の十八番で、その後も三木助を超える高座に出会った事がない。
馬冶の高座は三木助の演出に比べ登場人物も少なく短縮されていたが、幽霊に愛嬌があり男の言葉に反応する時の仕種が可愛らしい。
馬石『粗忽の使者』
これも古今亭というよりは、5代目小さんの極めつけだ。
特にクスグリを入れるでもなく小さんを忠実に踏襲していたのだが、とにかく可笑しかった。この人独特の語りの「間」が良いんだろう。
馬石は人情噺から滑稽噺まで幅広くこなしていて、弟子の中では最も師匠の芸風に近い。
ここ数年での進歩が著しく、これから益々楽しみな存在である。
一朝『小言幸兵衛』
古今亭のお家芸なら『搗屋幸兵衛』になるだろうが、志ん朝はその両方を得意としていた。
口うるさい上に妄想癖があり、家を借りに来た男に最後は心中話しにまで膨らませ芝居の場面で切るという(本当はこの後にもう一人空き家を借りに来る男がいて、サゲが付く)、圓生の演出を踏襲していた。
一朝らしい丁寧な高座でありながら十分に楽しませていたのは、芸の力。
馬生『笠碁』
極め付けだった師匠譲りのユッタリとした語り、碁敵同士の心理を描く。近ごろこのネタでやたら笑いを取ろうとする人もいるが、やはりこの噺はこうした緩やかなテンポで語るのが本寸法だと思う。
.
菊志ん『三味線栗毛』
3代目小圓朝や志ん生、4代目円馬が得意としていたが、あまり面白い噺ではないという事で暫く途絶えていた。最近になって再び演じられるようになったのは、喬太郎がオリジナルを少しアレンジした『錦木検校』を高座にかけてからだと思う。菊志んの高座は錦木が肩療治をしながら小咄をするクスグリを入れた以外はほぼオリジナルに沿った演出だったが、良い出来だった。
先日このネタは三三のものを聴いたが、菊志んの方が上だ。この人は上手いのだ。ただマクラで時おり顔を出す「青さ」で損をしている様に思う。
小里ん『五人廻し』
いつまで待っても来ない花魁に焦れる5人の男、恐らくは職人だろう威勢のいい男、無粋な薩摩男、江戸近郊の田舎者、通人を気取った男、田舎のお大尽らの5人の演じ分けが見事。特に最初の男が親の墓参りや女房の事を思いながら「来なきゃ良かったなぁ」を繰り返し、若い衆の生意気な言葉にキレて啖呵を切る場面は上出来だった。
上手いんだなぁ、この人は。
雲助『庚申侍』
その昔、庚申待ちという風習があり、庚申(かのえさる)の夜には、三尸(さんし)という腹中の虫が天に昇ってその人の罪過を告げるので、人々は徹夜で宴を開き寝ずにいた。宿屋で集まった連中、宴も終り退屈だからそれぞれが面白い話しを披露し合うという事になり、やがて一人が人を斬って50両を盗んだという自慢噺を始める。それを聞いた隣室の侍が、その殺された男こそ自分の兄で、この場で敵討ちをすると言い出す。そう、設定は異なるが「宿屋の仇討ち」とそっくりのストーリーなのだ。
志ん生が手掛けていたがその後途絶えていたのを、雲助が復活させたものらしい。
こうした珍しいネタを聴けるのも、この会ならでは。
休会前の最後の会も、以上の通り充実したものだった。
どなたか継承して頂けるなら、これに勝る喜びは有りませんが、いかがでしょうか?
« #22西のかい枝・東の兼好(2015/9/10) | トップページ | 中国旅行を終えての感想 »
「寄席・落語」カテゴリの記事
- 「落語みすゞ亭」の開催(2024.08.23)
- 柳亭こみち「女性落語家増加作戦」(2024.08.18)
- 『百年目』の補足、番頭の金遣いについて(2024.08.05)
- 落語『百年目』、残された疑問(2024.08.04)
- 柳家さん喬が落語協会会長に(2024.08.02)
「笠碁」くらいになると、これはもう心理描写に優れたユーモア小説ですね。
先代は丁寧に軋轢から和解に至るまでのいきさつを語ります。
(中に父親に酷似している声が混じるのは毎度のこと)
当代も丁寧で温かみのある話法ですから、よろしかったでしょうね。
投稿: 福 | 2015/09/14 06:58
とうとう一度も行かないままに終わってしまいました。
もっと果敢に動かなくてはと思いながらどんどん腰が重くなってきました。
投稿: 佐平次 | 2015/09/14 09:43
福様
『笠碁』という噺は微笑ましくも可笑しいという点がポイントだと思います。二人を見る目の温かさという点で10代目馬生は優れていました。当代馬生もそうした視点を受け継いでいて、良い高座でした。
投稿: ほめ・く | 2015/09/14 16:11
佐平次様
貴兄の安保法案反対デモへの行動力には感嘆しています。
数ある落語会の中でも気分の良い、また内容的にも優れた会でしたので休会は残念です。主催者がよほどしっかりしていたんでしょう。個人の方だったので、何らかの事情があったのだと推察されます。再開を期待してるんですが。
投稿: ほめ・く | 2015/09/14 16:20
本来は土曜の夜の会は行かないのですが、この日は例外的に今松独演会に行きました。
そのうち例外的に古金亭にも行こう、と思っていたので、実に残念です。
石井さんのブログが八月下旬から更新されていないので、心配しておりましたが・・・・・・。
ただ人気者を集め、千人を越える会場で高い木戸銭を取る落語会が増える中、残念ですね。
再開を祈ります。
投稿: 小言幸兵衛 | 2015/09/14 18:21
小言幸兵衛様
この会は仲入りに出演者がロビーに出てきて客と交流したり、以前にゲストで出た小満んが終演後に出口で客一人一人に挨拶したりと、他の会では見られない光景に出合いました。是非再開を期待しております。
投稿: ほめ・く | 2015/09/14 23:34