笑福亭福笑独演会(2015/10/10)
「笑福亭福笑独演会」
日時:2015年10月10日(土)14:00
会場:横浜にぎわい座
< 番組 >
前座・三遊亭わん丈『ぼんぼん』
笑福亭たま『弥次喜多地獄旅行』
笑福亭福笑『二人ぐせ』
~仲入り~
春風亭一之輔『茶の湯』
笑福亭福笑『憧れの甲子園』
一之輔をゲストに迎えた今回の「笑福亭福笑独演会」、2階席にも客が入っていた。客席の反応を見ると”たま”お目当ての人もいるようだ。
その笑福亭たまがマクラで、天満繁盛亭で桂福若が右翼と対談する会があって、上方落語協会に抗議があったという話題に触れていた。
調べてみたら今年8月に桂福若独演会というのが繁盛亭で開かれていて、そこに中曽千鶴子という人物が出演していたようだ。福若自身も「憲法改正に取り組んでいる落語家」として産経に紹介されている位だから、そのケがあるんだろう。
中曽千鶴子は徳島県教組襲撃事件で1審2審で有罪判決が出ている(現在は上告中のようだ)。またYOUTUBEでは、集会やデモで「シナ人たたき出せ!」「朝鮮人を射殺しろ!」「辻元清美射殺しろ!」と叫んでいる映像が公開されている所を見ると、レッキとしたレイシストだ。
もっとも本人のサイトではレイシストであることを否定しているが、世の中「私は泥棒です」と公言しながら泥棒するヤツはいないからね。この人物のツイッターには立川キウイの名も見え、落語家にも色々なのがいるんだなと思った。
たまによれば、当日は右翼で会場は満員だったというオチを付けていたが。
前座のわん丈『ぼんぼん』、声としゃべりは良いが、ネタは退屈。
たま『弥次喜多地獄旅行』、アタシがブログを始めた10年前に落語を中心とした記事を掲載していた女性がいて(現在は閉鎖)、彼女は東京の人だったが既に上方の「たま」に注目していた。その関係からこの人の高座を何度か観ているが、とにかく面白い。新作を掛けることが多いようだが、アタシはこの人の古典が好きだ。どうアレンジするかが楽しみなのだ。古典をそのまま演じるのではなく自分流に変えるという点では一之輔と同じだが、変え方が異なるように思う。
この日の演目は『地獄八景』の短縮版だったが、得意の時事ネタを織り込んで楽しく聴かせていた。
福笑『二人ぐせ』、東京では「のめる」というタイトルでお馴染みだが、米朝の記録を読む限りでは上方もほとんど同じ筋の運びだ。だが福笑の演じ方はかなり違う。「吞める」を口癖にしている男がアホなのだ。「つまらん」を口癖にしている男と、口癖を言ったら千円払う約束をした途端に、相手が葬式に行くと言う度に「一杯呑める」を連発し、終いには千円札を差し出しながら「一杯呑める」という始末。甚兵衛さんのアドバイスで田舎から大根100本送ってきてというと、相手の男は「田舎ってどこや?」と訊くと「沖縄や」と答える。沖縄で大根がとれるのかと突っ込まれると「天然記念物や」と答えてしまう。これじゃ相手は引っ掛からない。最後の詰め将棋でようやく相手に「つまらん」を言わせる所は通常通りだが、そこまでの両者の会話がとにかく可笑しい。会話に独特のリズムがあり、それが効果的。
一之輔『茶の湯』、最初にこのネタを聴いた時は一之輔が未だ二ツ目で、長屋の豆腐屋と鳶頭、寺子屋の3人の引越し騒ぎをカットした以外はオーソドックスな演じ方だった。以後聴く度に、中身を変えている。今では小僧の定吉の人格が荒廃し、まるでヤクザのようだ。茶の湯の客の来手が無くなると、往来を歩いている人を拉致してきて、口からホースで茶の湯を流し込むのだ。隠居といえば若い頃に芝居に凝ってついつい小僧を斬り殺し、針に凝って幇間を血だらけにしたという過去を持つ。もはやホラーだね。これを涼しい顔で語るんだから、やはりタダモノじゃない。心配なとこもあるけどね。
福笑『憧れの甲子園』、甲子園児の話しを思いきや、監督の独り語りだ。初の甲子園に出場したチームが、開会式の直後の1回戦初戦で16対0で負けてしまう。宿に戻った生徒の前で、監督が酒を呑みながら語る。最初は生徒たちを慰めるのだが、次第に怒り、ボヤキに変ってゆく。果ては校風にまで怒りが及び、「何が質実剛健じゃい、みなヤンキーやないか! 何が良妻賢母じゃい、まるで風俗養成所やないか!」とキレまくる。終いには生徒に酒を勧め「ルールは守れ、でもお前たちは未成年だから法律は守る必要はない」と言い出す。やがて酒瓶1本を空け、「こえで一升(一勝)や!」でサゲ。
文章で書いても可笑しさは伝わらない。高座を観るしかない。福笑の語り口、セリフの間、声の高低、表情が絶妙で、恐らくは他の演者がやってもこの面白さは出せないだろう。
上下(かみしも)を振らない独特の高座スタイルが活きていた。
« 「紙屋町さくらホテル」(2015/10/8) | トップページ | 国立10月中席(2015/10/13) »
「寄席・落語」カテゴリの記事
- 談春の「これからの芝浜」(2023.03.26)
- 「極め付き」の落語と演者(2023.03.05)
- 落語家とバラエティー番組(2023.02.06)
- 噺家の死、そして失われる出囃子(2023.01.29)
- この演者にはこの噺(2023.01.26)
以前に数回コメントさせていただいた者です。
件の噺家の名前ですが、「桂梅若」ではなく、「桂福若」とおもわれます。
貴ブログ、今後も楽しみにしております。
投稿: さだきち | 2015/10/11 13:52
さだきち様
ご指摘有難うございます。早速本文訂正致しました。ボケてますね。
投稿: ほめ・く | 2015/10/11 16:42
「得意の時事ネタを織り込んで、」
たまは知的な風貌で楽しそうに語るので、こうしたことには長けているんでしょう。
ところが案外、これが難しいんですね。皆ができるかというと、さにあらず。
私見では菊之丞が噺のスパイスとしてうまく裁ち入れており、また、一之輔も巧いと思います。
投稿: 福 | 2015/10/13 06:53
福様
先日、白酒が『だくだく』の中で床の間の掛け軸に「安保法案反対」と書かせるギャグを入れていましたが、白酒も時事ネタが多いです。他には志らくがマクラで頻繁に採り上げますし、ベテランだとさん八と言った所でしょうか。
投稿: ほめ・く | 2015/10/13 07:21