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2015/10/17

こまつ座『マンザナ、わが町』(2015/10/15)

こまつ座 第113回公演『マンザナ、わが町』
日時:2015年10月15日(木)18時30分
会場:紀伊国屋ホール
作=井上ひさし 
演出=鵜山仁
【  キャスト  】
土居裕子/ソフィア岡崎(ジャーナリスト)
熊谷真実/オトメ天津(浪曲師)
伊勢佳世/サチコ斎藤(マジシャン助手)
笹本玲奈/リリアン竹内(歌手)
吉沢梨絵/ジョイス立花(女優)

1942年3月、真珠湾攻撃以来“排日”の気運が高まる中、アメリカ西部に住んでいたおよそ12万人の日系アメリカ人が、急造された10カ所の収容所に強制収容される。その1つカリフォルニア州の「マンザナ収容所」の一室に5人の女性たちが集められる。所長は彼女たちに「マンザナは強制収容所ではなく、日系人たちの自治によって運営される一つの町なのだという内容の朗読劇『マンザナ、わが町』を上演するよう命令を下す。
メンバーは演出の経験のあるジャーナリスト、米国各地を巡業してきた浪曲師、ハリウッド女優、歌手、そしてマジシャン助手という、いずれも舞台経験のある女性たちだ。しかし彼女らは同じ日系といっても1世あり2世あり、国籍も日本人ありアメリカ人あり、年齢も経歴も経済状況も全て異なる。稽古が進むうちにお互いの違いが浮き彫りになり、時に対立も起きる。また与えられたシナリオも強制収容所という実態を覆い隠し、あたかも自治が実現しているかの様な内容で、彼女たちは納得がいかない。
5人がそれぞれの身の上話を交わすうちに、マジシャン助手と自己紹介していた女性の挙動に疑いの目が向けられ、やがて彼女の正体が暴かれるが・・・。

太平洋戦争の開戦と同時にアメリカに居住していた全ての日系人12万人は10か所の強制収容所に収容された。日本からの移民だった1世には当時アメリカは国籍を与えす、2世3世の米国籍を持つ人間でも日系というだけで収容されてしまった。財産は没収、外部との連絡は遮断、もちろん言論の自由は無しという、米国憲法に明らかに違反するものだった。その実態はナチスの強制収容所と大差ないものだった。
米国への忠誠心がテストされ、アメリカ国籍も持ち忠誠心が高いと判断された若者の一部は米軍の配属され、激戦地に配置された。
この状態は終戦になるまで続いた。
これには続きがある。
戦後の公民権運動の高まりの中で先ず日系1世の米国籍取得が実現するようになり、1980年代には強制収容に対する補償運動が盛んになる。
こうした運動が実り、1988年8月10日、当時のレーガン大統領は戦時中の日系アメリカ人強制収容に対し、人種的偏見と政治的指導力の欠如を正式に謝罪した。同時に一人につき2万ドルの補償金と教育資金12億5000万ドルを支払うことを決定した。1990年の当時のブッシュ大統領が発表した公式謝罪文にはこう書かれていた。
「お金や言葉だけでは、失われた歳月は償えないし、つらい記憶を消し去ることはできない。」

この芝居では登場人物に戦争前から日系人に対する人種差別があった事がエピソードとして語られたいる。例えばハリウッドでは日系人の女優の役は必ずといって良いほど芸者で、人間的に優れたアメリカ人を慕って恋仲になるがやがてアメリカ人は帰国し、芸者は失意のまま自殺するというストーリーになっていた。そして日系人の役者はアメリカ人にやたらペコペコと頭を下げる。あるいは米国俳優の下男や女中としてこき使われた。彼女らは言う、同じ移民でも東海岸からの移民と西海岸からの移民とでは態度が全く違うのだと。そうした下地があったからこそ、戦時中の日系人に対する強制収容という違法な事が出来たのだのだろう。
ジャーナリストの女性が大統領宛に出す手紙で、米国における日系人強制収容所の実態はナチスのそれと同一であり、ルーズベルト大統領とヒトラーは同じことをしていると告発する。鋭い指摘だ。
劇中ではアメリカの黒人差別、アジア人差別を批判しているだけでなく、日本人による中国人、朝鮮人に対する蔑視、差別についても批判の眼を向けている。
5人の女性たちが激しい討論のすえ心を一つにしていく中で人間としての尊厳が保たれ差別のない世の中への希望を胸に、芝居の幕を閉じる。

井上作品らしく難しいテーマを採りあげながら、劇中ではユーモア溢れる会話や歌ありダンスありの音楽劇風の仕立てになっていて、正味3時間の舞台は飽きることがない。
ただ問題の深刻さに比べ、終幕が甘すぎたように思えた。最後の公演を終えてからジャーナリストのソフィア岡崎は他の収容所に移されて行くというエンディングもありかなと。
こまつ座の舞台には珍しく出演者がセリフを噛む個所が何度かあり気になった。
浪曲師を演じた熊谷真実の熱演が目立ち、まるで彼女の奮闘公演の様だった。
歌手役の笹本玲奈の歌声が舞台に華をそえる。

公演は25日まで。

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