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2015/10/06

「伊勢音頭恋寝刃」(2015/10/5)

近松徳三=作
通し狂言『伊勢音頭恋寝刃』(いせおんどこいのねたば)三幕八場       
序幕  第一場 伊勢街道相の山の場
    第二場 妙見町宿屋の場
    第三場 野道追駆けの場
    第四場 野原地蔵前の場
    第五場 二見ヶ浦の場
二幕目 御師福岡孫太夫内太々講の場
大詰  第一場 古市油屋店先の場
    第二場 同奥庭の場
日時:2015年10月5日(月)12時
会場:国立劇場
<  主な配役  >
中村梅玉:福岡貢
中村東蔵:叔母・お峰
中村鴈治郎:正直正太夫/油屋料理人・喜助
中村魁春:油屋仲居・万野
中村壱太郎:油屋・お紺
中村松江:油屋・お鹿
市川高麗蔵:今田万次郎
中村亀鶴:奴・林平
大谷桂三:徳島岩次実ハ藍玉屋北六
澤村由次郎:藍玉屋北六実ハ徳島岩次

歌舞伎は大衆芸能だ。でも客席に若い人が少ない。なんとなく難しそうで敷居が高い、入場料が高い、といった辺りが主な理由だと思う。入場料の件はどうにもならないが、芝居の中身についてはとにかく面白いし、理屈抜きで楽めるから一度は足を運んで貰いたいと願っている。        
だから劇評は、楽しさが伝わるように書いていきたい。

今月の国立劇場での芝居は『伊勢音頭恋寝刃』の「通し」となている。一部は度々歌舞伎でも上演されているが、「通し」というのは珍しく国立劇場でも初の上演となる。
歌舞伎の演目というのは、その当時に実際にあった事件を元にしたものが多い。こういうのを「際物」(きわもの)と呼ぶが、今風にいえば実録物といったところ。この芝居は、1796年(寛政8)5月に伊勢古市(ふるいち)の「油屋」で医師孫福斎(まごふくいつき)がなじみの女のことで9人を殺傷した事件を脚色したもので、同年7月に大坂で初演されている。速攻ですね。
舞台となった伊勢は当時の大人気スポットで、全国の人々は一生に一度は伊勢神宮に参拝に行くことが夢だった。この芝居の中で伊勢の名所のいくつかが紹介されていて、名所案内を兼ねていたわけだ。
歌舞伎の演目の特長の一つに「お家騒動」がある。悪者がお家乗っ取りを謀り、忠義の者たちがこれを阻み最後は悪を滅ぼすという至って単純なストーリーだ。歌舞伎の場合、善玉と悪玉とではメイクが異なるので一目見てどっちかが分かる仕組みとなっている。その大筋に家族や男女の愛憎と、笑いと涙を散りばめるというのが作劇の基本だ。この芝居では阿波の蜂須賀家のお家騒動が物語のきっかけとなっている。
もう一つ歌舞伎の題材に使われるのが「名刀」だ。名刀がしばしば権力の象徴として扱われ名刀を巡って善玉と悪玉の争奪戦が繰り広げられる。この芝居では「青江下坂」(あおいしもさか)という名の名刀とその「折紙」(折紙、鑑定書を指す)が善玉と悪玉の間を行ったり来たりする。

スートリーは、蜂須賀家の家老の息子・今田万次郎が、せっかく手に入れた名刀・青江下坂と折紙を、お家乗っ取りを策す徳島岩次一味によって奪われる。家来である奴の林平が一味の後を追いかけるのだが、これが昔のドタバタ劇と同じで喜劇仕立て。ここでかつては蜂須賀家に仕えていて今は伊勢神宮の「御師」(おんし、伊勢神宮の教えを広める役割をする下級神官)である福岡貢が登場し、一味の連中から陰謀を書いた密書を奪う。ここでは同じ二枚目ながら軟弱で滑稽味を帯びた「つっころばし」の万次郎と、柔らかいなかにも芯の通った「ぴんとこな」の貢の二人を対比させている。ここまでが序幕。
二幕目の「太々講」(だいだいこう)では、貢が太々講の金を盗んだ罪を着せられようとするのを伯母お峰に救われる話で、金を盗んだ正直正太夫のウソがばれるシーンや、貢に会いに来た油屋のお紺を貢が自分の叔母だと紹介しているうちに本物の叔母が現れるシーンなどが「チャリ場」(笑わせる場面)となっている。叔母のお峰が青江下坂を手に入れて貢に渡すのだが、全体として序幕と二幕目までは喜劇の作りだ。
大詰の「油屋」は単独でも上演される名場面で、青江下坂を入手した貢がsの名刀を万次郎に渡すために油屋を訪れるが、仲居の万野に意地悪をされた挙げ句、お梶という女から多額の金を借りながら返済しないと言い立てられ万座の中で恥をかかさえる。おまけに結婚まで約束をしていたお紺にまで愛想をつかされる。これを「縁切り」といい、歌舞伎ではしばしば使われる。怒りに震えながら必死に自分を抑える貢が役者の腕の見せ所だ。この間、名刀を藍玉屋北六がナマクラとすり替えたり、元は蜂須賀家と縁のある料理人の喜助が見破って元の通りに戻すという場面もある。お紺の愛想づかしは、実は名刀の「折紙」を北六から奪うための偽装で、お紺は貢に入手した「折紙」を渡す。余りの酷い仕打ちに怒った貢は、遂に青江下坂の刀で北六や仲居万野など多くの人を斬り殺し切腹しようとするが、お紺と喜助に止められ、刀と折紙を持って万次郎のもとへ向かう。この場面の殺陣は歌舞伎には珍しく凄惨なもので、スプラッターなシーンが展開される。

この様に『伊勢音頭恋寝刃』は見所満載の楽しい芝居となっている。
主役の貢を演じた梅玉に上品な色気があり、万野を演じた魁春の悪役ぶりが際立っていた。
他に雁治郎がコミカルな役と忠臣を演じ分け、奴林平の亀鶴の奮闘が印象に残った。

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