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2015/10/09

「紙屋町さくらホテル」(2015/10/8)

演劇集団土くれ 第64回公演『紙屋町さくらホテル』
日時:2015年10月8日(木)18時30分
会場:麻布区民センターホール
井上ひさし:作   
石塚幹雄:演出
<  キャスト  >
奥山規子:神宮淳子(さくらホテルのオーナー、櫻隊隊員) 
小林朝子:熊田正子(同共同経営者、隊員) 
小林真命:浦沢玲子(女学生、隊員)
相場宏:丸山定夫(新劇俳優、隊長) 
斉城薫:園井恵子(宝塚女優、隊員)  
橋本勇一:大島輝彦(大学助教授、隊員)  
小沼武司:戸倉八郎(特高、隊員)  
安原昇:針生武夫(傷痍軍人実は陸軍将校、隊員)  
川村富雄:長谷川清(薬売り実は海軍大将、隊員) 

この演劇に出てくる「櫻(さくら)隊」について簡単に紹介する。
前身は丸山定夫らによって結成された苦楽座で、宝塚を退団した園井恵子も参加していた。苦楽座解散後に桜隊と改称して日本移動演劇連盟に組み込まれ、地方への慰問巡演活動をはじめる。太平洋戦争末期に劇団の地方疎開に際して広島に15人が疎開、中国地方の慰問公演を受け持つ。原爆投下により広島市内の宿舎兼事務所にいた丸山定夫ら9人は8月下旬までに全員死亡した。
目黒区の五百羅漢寺境内に「移動劇団さくら隊原爆殉難碑」が建てられている。
櫻隊に関しては書籍や映画もある。

ストーリーは。
昭和20年5月、広島市紙屋町にある「さくらホテル」が舞台。日増しに戦況が悪化する中、軍都広島に「移動演劇隊さくら隊」がやってきた。2日後の広島宝塚劇場公演に向けて稽古に励む隊員たちだが、近く広島にB29の爆撃があるという噂が広まり隊員が集まらない。そこでホテルのオーナーと共同経営者、大学の助教授や女学生も参加し、傷痍軍人や富山の薬売りが現れ誘われるままに隊員となる。しかしこの二人の身元はどこか怪しい。ホテルのオーナーが日本人でありながらアメリカ国籍だったのでスパイの嫌疑がかかり、彼女に特高が監視につく。監視のためには一瞬たりとも目が離せず、ついに特高までが隊員となって稽古に参加する。
プロの俳優は新劇の團十郎と異名を取る丸山定夫と、映画『無法松の一生』でヒロインを演じて人気が高まった園井恵子のふたりで、他は素人たちだったが、猛稽古の末次第に演技が板についてくる。
しかし薬売りの長谷川という男は実は海軍大将で、天皇の密使として全国を行脚していた。傷痍軍人を称していた男は針生という陸軍中佐で、長谷川海軍大将を監視し、場合によっては刺殺する任務を持っていた。稽古の陰では戦争の終結を巡って両者の対決が起きる。
米国国籍の神宮が無事に舞台に立てられるか。
待望の公演は果たして幕が開くのか・・・・・。

井上ひさしの戯曲の多くは太平洋戦争中に何が起きていたのか、そして戦争責任は誰が負うべきかというテーマで貫かれている。なかでも本作品はその点が最も色濃く出ていると云って良い。
・劇中に登場する長谷川清は正三位、勲一等、功一級の海軍大将。昭和20年2月、軍事参議官の長谷川は海軍特命戦力査閲使に任命され火薬廠・鎮守府・水中水上特攻関係を査察し、6月12日に海軍戦備は士気は高いが物資不足で不備であることを天皇に報告した。この報告が終戦のきっかけの一つになったと言われている。終戦後はA級戦犯として巣鴨プリズンに服役。
・陸軍は最後の最後まで本土決戦を捨てなかった。子どもと年寄りを除く全国民が命がけで米軍との決戦に臨むという計画で、劇中では2000万人の日本人が犠牲になれば米軍は手を引くだろうと針生陸軍中佐に言わせている。
・米国に住む日本人たちは敵性外国人として強制収容所に収容されたが、2世や3世でアメリカに生まれ育ったアメリカ国籍のある者も日系ということで収容されてしまった。
・日本でも英米人に対しては同様のことが行われたが、対象はドイツ人などの同盟国の人たちも収容された。また外国人に日本国籍を与えるのは極めて稀な例だった。この作品ではホテルのオーナーである神宮がその対象となる。
・全ての俳優は当局の「鑑札」が無いと舞台に立てない。劇中では滝沢修に鑑札が下りないのは彼がアカだからと特高に言わせている。
・大島助教授の教え子が「N音の法則」を発見するくだりがある。人間が相手を否定する際に出てくる言葉は必ず「N音」になり、これは全世界共通だという。なぜなら人はN音を発音する時には唇を閉じ人間の内部と外部を遮断してしまうからだと。この教え子は特攻隊員となり戦死する。形見の手帳を大島が読み上げ、このような前途ある若者を失う戦争は断じて許せないと嘆く場面は、本作品のクライマックスの一つとなっている。実際に学徒出陣で多くの優秀な若者が戦死した。
・隊員たちが灰田勝彦の『新雪』を合唱していると針生が止めようとする場面があるが、灰田がハワイ生まれという事で軍部から睨まれていたという事実を踏まえている。
・戦時中、特高や憲兵などをやっていた人間の中に、戦後GHQの下請けとなって戦犯の洗い出しをした人間がいたのも事実だ。
・他に築地小劇場の新劇や宝塚の演技手法についての批判が丸山や園井によって行われている。

余りにテーマが多すぎてやや重点の置かれ方が希薄な印象もあったが、さくら隊のメンバーが心を一つにして3日間の夢のような時間を過ごしたという点はよく理解できた。私たちは彼らが原爆によって亡くなるのを知っているだけに、観ていて熱いものがこみ上げてくる。
井上作品らしい歌や踊りが随所に挟まれ、楽しい舞台に仕上がっていた。
「劇団土くれ」のHPを見ると、劇団員が演出を含め16人のようだ。この規模でよくこれだけの大舞台が演じられたかと感心する。役柄の年齢とのギャップやセリフのトチリはあったが、全員がこの芝居に打ち込んでいた事は十分に伝わってきた。
園井恵子を演じた斉城薫は清楚な印象で、どこか本人とも似ているなと感じた。他に針生を演じた安原昇の悪役ぶりが目に付いた。

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