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2015/10/22

#2三遊亭兼好独演会(2015/10/21)

けんこう一番!第2回「三遊亭兼好独演会」
日時:2015年10月21日(水)19時
会場:国立演芸場
<  番組  >
『挨拶』三遊亭兼好
立川幸之進『狸札』
三遊亭兼好『三枚起請』
~仲入り~
亀井雄二「舞囃子『敦盛』」
三遊亭兼好『能狂言』

当ブログでは数年前から、次代を背負う落語家として「三白一兼」という略称を設けていた。三三、白酒、一之輔、そして兼好の4人を指す。ここ数年を見ると、この中で兼好が一歩遅れているような印象を持っていた。受賞歴からは、専門家もそういう判断なのかなと推察できる。
しかしこの日の高座を観て考えを改めた。他の3人と比べて決して引け劣らない実力を見せていた。会自身も構成が優れており、近ごろでは出色の独演会だった。

幸之進『狸札』、立川流の二ツ目だったが師匠の芸協移行に伴い、現在は芸協で1年限りの前座をつとめている。本人としては忸怩たるものがあるだろうが、頑張って欲しい。

兼好『三枚起請』、一口にいうと非常に説得力のある演出だった。同じ女郎から起請文を貰った3人の人物像が明確だった。最初の男は未だ10代に若造で、とにかく女郎に入れあげ日参しているうちに起請文を受けとった。相手は年上だが姉さん女房も悪くないとのぼせ上っている人物として描かれている。二人目は棟梁で、女とは以前の品川にいた頃から馴染みだ。年が明けたら一緒になろうという言葉を信じて独身を貫いてきた。三人目は女が暮に20円の金が必要で、どうせなら所帯を持つあんたに金を都合して欲しいと頼まれる。だが懐には1銭もなく、やむなく奉公に出ている妹に母親の治療費と偽り着物を借りて質に入れ、足りない分は給金の前借りまでして貰って20円作り女に渡した。
3人共に起請文を貰っていたが、深刻度は違う。3人が揃って女郎の所へ仕返しに出かけるが、深刻度の違いは女への対応の微妙な差となって現れるくる。
こうした人物設定を行うことにより、このネタの深みが増していた。
仕返しされた時の女の開き直りっぷりも良かった。男たちは完全に返り討ちにあったわけだ。
サゲの解説を冒頭のマクラで行っていたので分かり易い。
上出来の高座。

亀井雄二はシテ方宝生流能楽師で、最初に能についての簡単な解説があった。
・能は江戸時代までは武士に好まれ、一般の町民は観ることが出来なかった。謡だけは町民にも普及していた。
・この日披露する「舞囃子」というのは、能のある曲の中の舞所だけを取り出し、シテ一人が面・装束をつけず、紋服・袴のままで、地謡と囃子を従えて舞うものを指す。
・この日舞う『敦盛』について、信長が桶狭間の前に舞った「人間五十年 下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり」を能と勘違いする人が多いが、あちらは「幸若舞」と言い能とは別だ。
この後、「舞囃子『敦盛』」が披露された。
初めて能を見たお客には新鮮に映ったに違いない。

兼好『能狂言』、前の能の背景をそのままにして演じたが、それには理由があり、「能の解説」がそのままこの噺のマクラになっている。更に独特のサゲが能の背景で活かされる。
筋は。
ある小大名が国許に帰国し、江戸で観た能狂言にいたく感服し、領地の祭りで毎年行う「ドジョウ掬い」の代りに能狂言をするよう命じる。
処が、家老以下家来一同、誰一人として能狂言を知っている者がいない。このままでは切腹ものだと焦る家老たちは、藩内一帯に「能狂言を知る者がいたら名乗りでよ」という高札を立てるが効果がないまま祭りの日が近づく。
そこへ江戸では売れなくて地方で稼ごうとやってきた落語家二人。たまたま休んだ茶屋で、能狂言を知ってるとホラを吹いたものだから、城中に引っ立てられる。
家老から詰問された二人は今さら知らないとは言えない。明日が祭りの日だというので、とにかく忠臣蔵五段目の茶番をやってごまかすことにする。
鼓も笛も太鼓も無いので若侍の口真似で演じることにした。謡を含めて一晩中の特訓でいざ当日。鳴物連中の掛け声、口笛、口太鼓の中を、五段目のセリフを謡のように節をつけて、二人は能みたいなものを舞う。
定九郎と与市兵衛の金を渡せ渡さぬというヤリトリがあって、定九郎は刀を抜いて与市兵衛を斬り捨てる。定九郎は「久しぶりなる五十両、これより島原へ女郎買いにまいろう」と言って舞台から引き下がってしまう。お囃子連中も舞台を下がってしまうが能なので幕が下りない。
仕方なく一人取り残された与市兵衛がむっくと起き上がり、「わしを殺して金を取り、女郎買いとは、太てえ野郎。島原へはやるまいぞ。女郎買いには、やるまいぞ、やるまいぞ、やるまいぞー」と言いながら能の恰好で高座から退場。
6代目圓生以来演じ手がいないと言われていた珍しいネタで、兼好はオリジナルを少し変えて藩の祭りの趣向で、恒例の「ドジョウ掬い」の替りに「能狂言」を演じるという設定にし、より笑いの要素を強くした。
本人も能を習っているようで、型がそれなりにサマになっていた。
兼好の新しい面を見た思いで、大変結構でした。

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寄席・落語」カテゴリの記事

コメント

私も、久しく兼好を聴いていません。
『能狂言』は、座間で文我で聴いています。
珍しい噺に、マクラに相当する演出も準備して挑んだ、ということですね。
なかなか、味のある企画だと思います。

いろいろあって今月は生の落語をまだ聴いていないので、そろそろ行こうと思います。

小言幸兵衛様
最初プログラムを見た時は能の舞台には少々違和感がありましたが、見事につながっていて感心しました。ニクイ演出です。中身も兼好らしい笑いの多い高座ながら、能や狂言の真似がサマになっていて、これまた感心した次第です。久々にこの人の実力を見せつけられた思いです。

東京かわら版のエッセイなど達者なもんで、才弾けた人と思います。
ただ、天から声に恵まれなかったなあ。
しばらく聞いていると気にならなくなりますが。
上方のつぶした声ともちょっと違う。

佐平次様
声ですか、確かに苦手の方はいるでしょうね。落語は語り芸ですから、声の良し悪しは大事な要素です。この点では他の三・白・一に比べハンディがあります。

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