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2015/10/02

映画の中の「イヌ」

ここのとこ日々、古い映画のDVDを観ている。最も古いものだと私が生まれるはるか前の1930年のものから、新しい映画では1950年代、つまり私が小学生上級から高校生になる頃までの青春期(なにせ早熟だもんで)に公開されたものだ。名画座とよばれた映画館で観たものもあれば見損なったもの、その後にTV放映で観たものもある。今の所はフランスやイタリアなどヨーロッパ映画が中心だが、これからもう少し範囲を広げるつもりだ。
1930年代の映画となると時間の流れがユッタリとしている。まるで5代目柳家小さんの落語を、それよりは3代目三遊亭小圓朝の世界に近いか。むろんモノクロだが画面の美しさに感心する。カメラアングルや影の写し方が巧みなのだ。当時の街並みや人々の息遣いまで聞こえてきそうになる。
古いフランス映画を観ていて思ったのは、イヌが出てくるケースが多いのと、これが実に効果的に使われていることだ。
先ずは『禁じられた遊び』から。
監督と脚本は巨匠ルネ・クレマン、映画全編に流れる音楽はナルシソ・イエベス、主演の幼い少女ポーレットをブリジッド・フォッセー、そして少年ミッシェルをジョルジュ・プージュリーが演じた映画史上に残る名画だ。1952年の作品。
この作品だが、映画館で観たのは10代前半だったと思う。12歳年上の兄から勧められ新橋の名画座で観たが、2本立てだった。1本がこれで、もう1本が『真昼の決闘』。ところが期待した『禁じられた遊び』はサッパリ面白くなく、ついでに観た『真昼の決闘』の方がやたら面白かった。
今になってこの理由を考えてみると、一つは私の年齢が低すぎて良さが理解できなかったこと。もう一つは『禁じられた』を途中入場して後半を、『真昼』を全編観てからまた『禁じられた』の前半をという具合に切れ切れになってしまった事があげられる。だからストーリーも頭に入ってないし、面白さも分からなかったのだ。その印象だけが残って今に至り、今回もう一度観かえしたという次第。
そうしたら、これが素晴らしいのだ。ご存知の方も多いだろうから解説は省くが、これほど静かに「反戦」を訴えた映画は他にあるまい。そして二人の子役の演技もこれ又映画史上に残る名演だ。
さてイヌの話しだが。
第二次世界大戦中の1940年、ナチスドイツの進攻を逃れ、都市から逃げてきた難民の列が南フランスの田園地帯で列をなしていた。それを狙ったドイツ空軍が爆弾の雨を降らせる。幼いポーレットを連れた両親は物陰に隠れるが、ポーレットが抱いてイヌが飛び出してしまい、ポーレットがそれを追いかける。両親が後を追うと、そこに敵機の機銃掃射が襲いかかる。少女をかばおうとした両親は背中を打ち抜かれ死亡、犬も打たれたのか痙攣している。
立ち上がり 一人歩くポーレットは後ろから来た馬車に乗せられた。乗っていた女はポーレットの抱く犬を見て、「死んでるよ」 犬を川に放り投げた。その犬の死骸を、馬車から抜け出たポーレットが追いかける。犬を拾い上げ、そのまま犬の死骸を抱いたポーレットは田舎道を歩く。
牛を追ってきた近くの農家の少年ミッシェルがポーレットに出会った。
「・・・どうしたの?」 
「・・・犬が死んだの」 
「どこから来たの?」 
「あっち」 
「ママは?」 
「死んだ」 
「パパは?」 
「死んだの」
ミッシェルは犬をそこへ捨てさせ「別の犬をやるよ」と言って、ポーレットを家に連れ帰った。
そのままポーレットはその農家に住むことになる。貧しいが親切な家族はポーレットを可愛がってくれる。
ある日、ポーレットはミッシェルから死んだ人は埋葬され、お祈りを捧げられることを教えられる。
「私のママとパパは?」
「もう穴に埋められてるよ」
「雨が降っても濡れないように?」
「そう」
「私のイヌは濡れちゃうわ」
翌朝、ポーレットは捨てた犬を拾いに行き、ミッシェルと一緒に廃墟になった水車小屋の中に穴を掘った。水車小屋には主のようなフクロウがいて、ミッシェルはそのエサのモグラの死骸を持ってきて犬と一緒に埋めてやった。ポーレットが、イヌが一人では寂しいからと言うので。
「・・・父と子と聖霊の名によりて、彼と天国に迎えたまえ・・・」 ミッシェルは村の司祭から教わったお祈りを奉げた。ポーレットも真似をして胸に十字をきりながら土を被せていく。
「十字架を立てよう」 
「十字架って?」 
「神様だよ」 
枝を折り、十字架にして土の上に立てた。二人は虫などの死骸を見つけては墓に埋め十字架を次々と立てる。こうして二人だけの秘密の墓地が出来上がるのだが・・・。
そうか、最初に墓を掘り十字架を立てたのは愛犬のためだったのだ。それもイヌの死骸が雨に濡れると可哀想だからという理由で。
この悲しみを通して観客は戦争に対する怒りが湧いてくる。

もう1本は、ジャン・ギャバン主演の『霧の波止場』で、監督はマルセル・カルネ、1938年の作品だ。
脱走兵の主人公ジャンは逃げる途中でトラックに乗せて貰う。夜道にイヌが飛び出してきて危うく轢きそうになるが、ジャンが運転手からハンドルを奪い咄嗟によける。怒った運転手からジャンは車から降ろされるが、くだんのイヌが後から付いてくる。ジャンが何度も石を投げて追い払おうとするが、イヌはジャンから離れようとしない。ある日、ジャンは街で女性と知り合うが、彼女は孤児で、引き取られた先の名付け親の男からしつこく迫られていた。見かねたジャンが男を脅し、女から引き離す。やがてジャンは知り合った医師の紹介で南米行きの船に乗れる事になるが、出航寸前になって女性の事が気になり家に向かうと、果たしてそこに名付け親の男が来ていた。ジャンと男は格闘になり、男は銃でジャンを射殺してしまう。
船室ではジャンとずっと行動を共にしてきたイヌが待っていたが、ジャンは戻って来ない。いよいよ出航の汽笛が鳴り船が出発する寸前になって、イヌは船室を飛び出し桟橋を駆け抜け、ジャンにいる家に向かって一目散に走って行く。これがラストシーンだ。
脱走兵と野良犬との触れ合いが巧みに描かれ、ラストのイヌが桟橋を駆け抜けるシーンによってこの物語の悲劇性をより際立たせていた。
もしこのイヌがいなければ、もっと平凡な作品になったに違いない。陰の主人公だと言える。

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コメント

「禁じられた遊び」、修学旅行で行った浅草国際劇場で見たんじゃなかったか。
今記事を読んでも涙が禁じ得ないです。

佐平次様
どんな名優でも子どもと動物には敵わないと言われていますが、私もこの作品を何度も涙を拭いながら観てました。
名作は時が経っても色あせないですね。

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