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2015/11/14

「桜の園」(2015/11/13)

「桜の園」
日時:2015年11月13日(金)13時
会場:新国立劇場 小劇場
[作]アントン・チェーホフ
[翻訳]神西清
[演出]鵜山仁
<   キャスト   >
ラネーフスカヤ:女地主/田中裕子
アーニャ:その娘/山崎薫
ワーリャ:その養女/奥村佳恵
ガーエフ:ラネーフスカヤの兄/石田圭祐
シャルロッタ:アーニャの家庭教師/宮本裕子
エピホードフ:執事/大谷亮介
ドゥニャーシャ:小間使い/平岩紙
フィールス:老僕/金内喜久夫
ヤーシャ:若い従僕/木場允視
ロパーヒン:商人/柄本佑
トロフィーモフ:大学生/木村了
ピーシチク:近郊の地主/吉村直
浮浪者/田代隆秀

一応芝居好きを自認し、新劇から歌舞伎まで幅広く観てきたつもりだったが、振りかえってみると西洋の古典的な演劇はほとんど鑑賞していない。例えばチェーホフの作品。そこで代表作である「桜の園」を見に行くことにした。
結論は素晴らしい作品だった。19世紀末のロシア社会とそこに生きる人々を活写しながら、ロシアの将来をも予見するような内容だ。
【ストーリー】
ラネーフスカヤが娘・アーニャの付き添いでパリから5年ぶりに自分の土地へ戻る。帰還を喜ぶ兄・ガーエフ、養女・ワーリャや屋敷の使用人たち。
しかしラネーフスカヤは夫や恋人からは金を巻き上げられ一文無しの状態で、かつてのように裕福な暮らしはもはや望めず金に困る一家。屋敷や庭園の桜の園は借金返済のため売りに出されている。商人・ロパーヒンは土地の一部を別荘用地として貸し出せば借金は返済できるし競売は避けられると助言する。しかしラネーフスカヤは散財する癖が抜けず、破産の危機も真剣に受け止めようとしない。
結局、桜の園は競売にかけられることになり、兄のガーエフと商人のロパーヒンが会場に出向く。
ラネーフスカヤは不安な気持ちを抱えたまま別れたパリの恋人とよりを戻すことを考えており、金を巻き上げられるだけだと警告したトロフィーモフと口論になる。
そこへガーエフが泣きながら帰宅、ロパーヒンが現れて自分が桜の園を買ったと宣言する。この一家の農奴の息子だった身分から桜の園の地主にまで出世したことに感動するロパーヒン。
一家は屋敷を出て行く事になる。
ラネーフスカヤはパリへ戻り、ガーエフ達は町へ引っ越すことになった。アーニャは新しい思想を持ったトロフィーモフに憧れ、自立して働くことを決意する。ロパーヒンはワーリャへのプロポーズを決意するが、土壇場でやめてしまう。
誰もいなくなった屋敷に、ロパーヒンが別荘建設のため桜の樹の伐採を命じていた斧を打ち込む音だけが響く。

この物語は19世紀末のロシア社会―農奴制の廃止、貴族社会の崩壊と新しいブルジョア層の勃興―の縮図を描いたものだ。
借金まみれになり屋敷まで売りに出しているのに浪費癖が治らず、一家が離散に追い込まれる貴族の典型が主人公ラネーフスカヤ。
彼らの経済力の低下は使用人たちの態度にも影響が出始め、若い従僕は時に反抗的な態度さえ示す。反対に古くからの使用人たちは相変わらず主への絶対服従の態度を保つ。
その一方で勃興するブルジョアジーの代表がロパーヒンだ。彼の父親の代まではこの一家の農奴だった。農奴解放で農夫となり、息子ロパーヒンは自らの商才で財を築き、ついにはかつての主の屋敷や土地を手に入れてしまう。
ラネーフスカヤの子どもの家庭教師だったトロフィーモフは大学生となり、新しい思想を身に着ける新興インテリの典型として登場する。
「桜の園」は社会が大きく転換してゆく時代の、各階層の人々の姿を鮮やかに描いた作品だ。
ロシアではこの後20世紀に入ってからロシア革命が起き、20世紀後半にはソ連の崩壊と市場経済への移行という大きな動きがある。それぞれの変革期にこの作品と同様の事態が現出されていただろう。今なおこの演劇がロシアにおいて、また日本においても共感され上演されているのはその為と思われる。
医師で作家だったチェーホフは19世紀末の人々の暮らしをリアルに把握していたのだろう。この作品にはそうしたチェーホフの人々への冷静かつ温かい眼差しが感じられる。

主役ラネーフスカヤの田中裕子は年齢を感じさせぬ若さと美しさで演技も良かったが、ロシア貴族夫人としての気品があまり感じられなかった。
商人ロパーヒンの柄本佑は好演だったが、大事なとこで2度ほどセリフを噛んだのが惜しまれる。
養女ワーリャの奥村佳恵は品があり、木村了と平岩紙が熱演、金内喜久夫と吉村直の渋い演技が印象に残った。
他に宮本裕子の手品の腕前と、ワンちゃんの演技に拍手。

公演は29日まで。

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コメント

私もシェィクスピアを数本みたのみ、こういうのを見てないなあ。
もう遅い。

佐平次様
私もチェーホフは今回が初めてでしたが、世界中で繰り返し上演されれているだけあって名作です。現在のロシアでは主人公の貴族の未亡人より、彼女の屋敷を落札する若い商人に人気があるそうで、そういう意味の普遍性を持っていると思います。

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