「通し狂言 神霊矢口渡」(2015/11/5)
国立劇場「通し狂言 神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)」四幕
福内鬼外=作
序幕 東海道焼餅坂の場
二幕目 由良兵庫之助新邸の場
三幕目 生麦村道念庵室の場
大詰 頓兵衛住家の場
< 主な配役 >
中村吉右衛門/由良兵庫之助
中村歌六/渡し守・頓兵衛
中村又五郎/南瀬六郎
中村歌昇/新田義岑
中村種之助/六蔵
中村米吉/傾城うてな
中村錦之助/竹沢監物、新田義興の亡霊
中村芝雀/頓兵衛の娘・お舟、筑波御前
中村東蔵/兵庫之助の妻・港
「神霊矢口渡」は元は人形浄瑠璃。福内鬼外(平賀源内)作で1770年の初演。通称「矢口渡」で、通常は四段目の「頓兵衛内」の場のみ上演される事が多く、通し狂言としては初代吉右衛門が上演して以来100年ぶりとなる。
この芝居の物語は太平記を基にして足利尊氏との戦で新田義興が尊氏の家来らによる計略で横死したのを、義興の弟・義岑らの苦心により新田家の再興を計るというもの。
見所は大きく分けた前半の、かつて新田義興の家来で今は足利尊氏の配下となっていた由良兵庫之助が、敵を欺き義興の遺児・徳寿丸の命を救う場面だ。足利の家来の竹沢監物の命令により兵庫之助が徳寿丸の首を討つのだが、実は我が子・友千代を身代りにしていたというもの。兵庫之助が真実を妻・港に打ち明け、悲しみを堪えながら高笑いする。亡き主君の夫人である筑波御前に対し冷たくあしらい、忠臣の南瀬六郎を討ったのも全ては亡君への忠義のためだった。兵庫之助役が肚を見せる場面が見所になっている。
もう一つは後半の矢口渡の場面で、義興が乗った舟の船底の栓を抜いて溺死させたのはここの渡し守・頓兵衛だった。足利の家来の竹沢監物の命令によるもので、たんまりと褒美をせしめた。今はやはり監物によって落人となった義岑を殺害するよう命じられている。
そうとは知らず渡し守の頓兵衛宅の家に一夜の宿を求めて、新田義峯と恋仲の傾城うてなの二人がやって来る。応対に出た頓兵衛の娘お舟は義峰に一目惚れし、思いを打ち明け口説く。そこへお舟に方恋慕している頓兵衛の下男・六蔵が義峯の正体を見抜き暗殺しようとするが、事情を知ったお舟が色仕掛けで六蔵を思い留まらせる。かなわぬ恋と知りながら、追手の足利方に味方する父を裏切って、お舟は義峯ら二人を逃してしまう。それを知った頓兵衛は説得のため立ちふさがるお舟を切り捨て、二人の後を追って行く。瀕死のお舟は駆けつけた六蔵に切りかかり、合図の太鼓をたたいて追っ手を欺むく。追いすがる頓兵衛に、義興の亡霊が放った新田家重宝の矢(水破兵破)が貫き絶命。終幕となる。
この幕では、お舟のクドキが大きな見所となっている。未通女(おぼこ)の田舎娘が恥ずかしさを押し殺しながら大胆かつ執拗に口説くのだが、この姿が実に愛らしい。と同時にこのシーンだけが近代的なのだ。
もう1ヶ所は、強欲のために二人を殺害すべく追う父親の頓兵衛と、これを防ごうとするお舟の凄まじい死闘だ。欲のためには娘の命さえ省みない父親と、叶わぬ恋と知りながら命を賭けて義峯を助けようする父娘の対比が鮮やかに描かれる。
通し狂言として100年も上演されなかったには理由があるのだろう。ツマラナイからだ。見所はやはり「頓兵衛住家の場」で、ここでのお舟の演技は数ある歌舞伎の女形の中でも出色だと思う。
今回の舞台でいえば、芝雀の狂おしいまでの一途な娘の心情を描いた演技が全てだった。
稀代の悪党である頓兵衛を演じた歌六の立ち回りや「蜘蛛手蛸足」と称される花道での引っ込みは迫力十分。
この所の吉右衛門の衰えが気になる。今回もかなりプロンプターがセリフを付けていた。
序幕で相撲取りを演じた役者が早速、五郎丸の例の「カンチョウ!」みたいな指先を真似ていたが、大衆演劇としての歌舞伎の一面を見せていた。
歌舞伎を何か芸術の様に思ってる人もいるようだが、もし芸術なら「ワンピース」を演りませんよ。
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