「テロとの戦い」って何だろう
フランスのパリで起きた一連のテロに対して世界中が湧きたっている。直後に行われたG20でも共同でテロとの戦いを行うことで一致した。今の所、パリでの襲撃事件はISIL(Islamic State in Iraq and the Levantの略、ISともいう)の犯行によるものとされているが、それなら「対ISとの戦い」で良いのではないか。なぜテロ一般に広げる必要があるのだろうか。そこに参加各国の思惑を感じてしまう。
この問題でロシア連邦チェチェン共和国のラズマン・カディロフ首長は、自身のInstagramのブログの中で次の様な主張をしている。
【私は、パリでの武器を持たぬ人々の殺害を断固非難する。しかし一方で、これは、反イスラム感情に火をつけるため何者かによって計画された行動ではないのか、あるいは、他の何らかの差し迫ったグローバルな問題から注意をそらそうとの試みではないかとの、疑いも持っている。
我々は、パリで世界の大国のリーダー達が心を一つにして、テロを非難した事を歓迎する。しかし、彼らは、いかなるテロリズムを非難したのだろうか? 世界中のテロリズムなのだろうか、それともフランスだけを襲ったテロリズムだろうか?
なぜ大統領や国王、首相らは一度も、何十万ものアフガン人やシリア人、エジプト人、リビア人、イエメン人、イラク人の死に抗議して、行進の先頭に立たなかったのだろう?
なぜ彼らは、チェチェンの首都グローズヌィで政府庁舎が爆破された時、北オセチアのベスランで学校が襲撃され占拠された時、モスクワのドゥブロフカで劇場が占拠された時、沈黙していたのだろう。昨年12月にグローズヌィで起きた新聞・雑誌会館と学校占拠事件では、50人以上の死傷者が出たにもかかわらずである。もし世界全体が、在野勢力支援を装って、一連の国々全体で、テロリストに武器や資金を与え、彼らを育てるならば、世界中の国々の首都が安全になる事はない。フランスでのことは、テロリズムとの戦いをしているように装うようで自分は気に入らない。】
このカディロフ首長というのはプーチン大統領を手を結び、チェチェン人を弾圧しているイカガワシイ人物だという評判があり、全面的に主張を受け容れるつもりはないが、欧米諸国が何十万ものアフガン人やシリア人、エジプト人、リビア人、イエメン人、イラク人の死には冷淡であるというのは事実だ。
日本政府もまた然り。
そうした国々が唱える「テロとの戦い」のスローガンに疑問を持つのは当然といえる。
もっともプーチンなどはさしずめテロの親玉みたいに見えてしまうのだが。
ナチスドイツが欧州各国を侵略し占領した際に、それぞれの国で抵抗運動が起きた。今ではそれを私たちはレジスタンスと呼ぶが、ナチスは彼らをテロリストと呼んでいた。
テロリズムあるいはテロリストという定義も、どちら側から見るかによって180度変わってくる。
中東諸国ではテロというとアメリカやイスラエルを指すことが多い。
アメリカによるイラク侵攻などは正に国際的テロ行為と呼んでもおかしくない。ISの勢力拡張はイラク戦争を抜きには語れない。さらには、シリアの反政府勢力への軍事援助が、結果としてISの武装を助長してしまった。トルコを通しての武器供給ルートが今ではISの密売ルートと化している。
しかし、ISを生み育てたというアメリカの責任は棚上げだ。
私たちは戦争を始めとするあらゆる殺戮や暴力には毅然として対峙すると同時に、これに乗じて国家による国民抑圧を強める火事場泥棒的な政策(例えばフランスの憲法改正や日本での共謀罪設立の動きなど)には十分に眼を光らせる必要がある。
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