柳家喬太郎独演会(2015/12/18)
第327回県民ホール寄席「柳家喬太郎独演会」
日時:2015年12月18日(金)19:00
会場:神奈川県民ホール 小ホール
< 番組 >
柳家喬の字『動物園』
柳家喬太郎『寝床』
~仲入り~
一龍斎貞寿『赤垣源蔵徳利の別れ』
柳家喬太郎『カマ手本忠臣蔵』
喬太郎本人も言ってたが、東京周辺での独演会は珍しい。2000年代にはかなり頻繁に独演会を開いていたが、2010年代になった頃から東京や横浜では開催が少なくなった。寄席を除けば、00名人会だの00落語会だの、誰かとの二人会やゲスト出演が圧倒的だ。県民ホール寄席では2年ぶり。
この日は2席ということで、古典と新作を1席づつと思っていたら予想通りだった。
喬の字『動物園』、口調ははっきりしているが、若いのにクスグリで言うことぁ古いね。
喬太郎『寝床』
高座に上がる足取りが変だと思ったら膝を悪くしているそうで、小さな腰当を用意していた。おまけに風邪も引いていて最悪のコンディションと。
不摂生でしょう。体重をもう少し絞らないとこれからも膝で悩むことになる。売れてる噺家は休みが少なく、体調が悪くても簡単に休演できないという事情がある。なら、日頃から健康管理をしっかりやれば良いのだろうが、職業柄か、暴飲暴食夜更かし3点セットなんて生活を送ることが多いのだろう。
他の芸能分野では舞台や高座で体調不良を訴えるのを聞いた事がないが、噺家だけは多い。芸人と客との垣根が低くそれが許される職業だとも言えるが、それに甘えているとも言えよう。
初代三平の口癖じゃないが「身体だけは大事にして下さい」。
公演での旅先のエピソードなどの長いマクラからネタへ。
『寝床』の演出は、基本は師匠・さん喬に準じたもので、
・8代目文楽の演出、旦那の喜―怒―喜―怒という感情変化を基本にして
・志ん生の笑いの要素、【例】奉公人の一人が「旦那の義太夫の会がある」と聞いて屋根から落ちる。奥さんが実家に帰る。
・桂枝雀の笑いの要素、【例】師匠が弟子の良い所を無理に誉める。旦那の稽古中の声を聞かせる。繁蔵が母一人子一人だと言って泣き、最後は覚悟を決めて居直る。
といった、いいとこ取りの内容だ。
喬太郎の高座は下手な義太夫を無理やり聞かされる店子たちのオーバーアクションで客席を沸かせていたが、喬太郎の『寝床』に仕上げるには未だしばらく醸成が必要かも。
貞寿『赤垣源蔵徳利の別れ』、来年には真打昇進だそうで、読みも人物像もしっかりと出来ていた。しかし内容が余りにクサイ。討ち入りの前日に源蔵が別れを告げるために兄を訪ねたが不在だったので、兄の衣装の前で架空の酒盛りをして、そのサインに残った酒が入った徳利を置いて行ったというストーリーだ。そこに余計な逸話を付加し過ぎる。泉岳寺へ引き上げる途中で源蔵が兄の下男に色々な形見の品を託すが、フィクションとしても無理がある。講釈の会ならこういう内容でも良いだろうが、落語会の色物としてはもっとあっさりと演じて欲しい。
喬太郎『カマ手本忠臣蔵』
喬太郎の高座はざっと数えて200席は越えているだろうが、同じネタを何度も聴いているという反面、聴いた事がないネタも結構ある。この日の2席がそうだった。
忠臣蔵に登場する浅野内匠頭、吉良上野介、大石内蔵助を始め主要な人物が皆オカマで、赤穂浪士の吉良邸討ち入りは「情死」で、実際には吉良の家来たちが赤穂浪士たちを殺害した後に吉良の首を討ったというストーリー。いわばアンチ忠臣蔵。
忠臣蔵というのはフィクションが先行していて、史実は謎だらけだ。
発端となる「松の廊下」での浅野の吉良への刃傷事件でも、分からない事が多すぎる。
・勅使接待役として吉良と浅野との組み合わせは二度目で、しかもこの年は吉良が経験を買って浅野を指名していた。浅野が接待の手順が分からなかったというのはあり得ない。
・刃傷事件だが、吉良が他の人と立ち話をしている背後から浅野が吉良の背中を小刀で切り付け、振り向く所をさらに額に切りつけている。傷はいずれも浅く、吉良は治療後に茶漬けを食べて帰宅した。
・問題はなぜ小刀で切りつけたのか、だ。小刀は刺すもので切るものではない。武士なら誰でも知っている。これ以前の過去に殿中での刃傷事件は二度起きていたが、いずれも加害者は相手を刺して殺害している。浅野には殺意が無かったとしか思えない。
・事件後の取り調べでも、浅野は最後まで理由を語らなかった。語りたくなかったのか、それとも語るべき事がなかったのかが分からない。
事件の発端からして謎だらけであり、いかようにも解釈ができる。かなり乱暴ではあるが、喬太郎の創作もその一つだろう。
喬太郎のオカマぶりは、もしかして本人にもそのケがあるのではと思えるほど真に迫っていた。ただ昨今は性意識の少数者に対する差別に厳しい目が向けられて来ているので、こういうネタがいつまで出来るのか。
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コメント
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『忠臣蔵』界隈は常に騒がしいもんですね。
丸谷才一『忠臣蔵とは何か』の書き出しが好きです。
徳富蘇峰の「彼等はなかなか遊戯気分でやってゐるんです」という言葉に
丸谷が「急所をついているやうな気がする」と応じるところです。
この遊戯気分をキーワードにして論を進めるのですが、推理小説を読むようで引き込まれます。
投稿: 福 | 2015/12/20 07:18
福様
赤穂浪士の討ち入りには予め幕府が暗黙の了解を与え、これを最大限に利用したふしがあります。謎の多い事件だけに解釈が自由で、そこが人気の秘密かも知れません。
投稿: ほめ・く | 2015/12/20 09:27