三田落語会「一朝・扇辰」(2015/12/19昼)
第41回三田落語会・昼の部「一朝・扇辰二人会」
日時:2015年12月19日(土)13時30分
会場:仏教伝道センタービル8F
< 番組 >
前座・入船亭辰のこ『たらちね』
春風亭一朝『尻餅』
入船亭扇辰『藪入り』
~仲入り~
入船亭扇辰『雪とん』
春風亭一朝『二番煎じ』
(お囃子:太田その)
いよいよボケが進んだようで、この日のチケットは2か月前に買っていたにも拘らず、同日の朝日名人会のチケットを2枚も購入してしまった。仕方なく向こうは妻と娘に譲ってこちらへ来ることにした。
なお朝日名人会の感想だが、二人ともトリの雲助『掛取万歳』がとても良かったとのこと。三三は期待した程ではなく、市馬の高座は二人とも寝てしまったそうだ。手厳しいね。
今年最後の三田落語会、昼の部は「一朝・扇辰 二人会」。一朝は17回目の出演で最多ではなかろうか。持ちネタが多いのと、人柄が良いので誰とでも合う、といった所から自然と回数が増えているのだろう。
現役の東京の噺家の中で最も江戸落語らしさを残しているのは一朝だと思う。最大の特徴は「軽み」で、これが「粋」に通じる。近ごろやたら大声を発したりオーバーアクションしたりという見掛け熱演タイプの人だの、無理な筋の改変や余計なクスグリを入れて「受け」を狙う人もいるが、一朝には全くそうした気配がない。どんなネタを演じても本寸法で粋な高座を見せる。この点で雲助と一朝は双璧だ。
辰のこ『たらちね』、いいね、既に落語家の語りになっている。扇辰の弟子は粒ぞろいだ。
一朝『尻餅』、この日の2席はいずれも年末に相応しいネタで、かつ8代目可楽の十八番だ。だからどうしても可楽と比べてしまう。
可楽の演出と比べ尻餅を搗く場面の描写が丁寧だ。主が一人三役演る所とか祝儀をはずみ酒までふるまう所は上方の演出に近い。それでいてサラリと演じる所が一朝の特長だ。最初は渋々で始めた主の餅つきの真似が、次第に興に乗って楽しげになってゆく。「お前の尻をこうしみじみ見たのは初めてだ」という亭主の言葉も嫌らしさを感じない。バカバカしいストーリーだが、歳の瀬を迎えた貧乏夫婦の情愛も感じられた1席。
扇辰『藪入り』、マクラでこのネタのオチを理解するための説明があり、扇辰特有の丁寧な語りで聴かせたが、一本気な父親の性格付けが弱く感じられたのと、時間がかかり過ぎくどかったのが欠点。
ただ、アタシはこの噺が苦手だ。テーマの「君には忠、親には孝」という儒教臭が強すぎて好きになれない。これだけは好みの問題なので致し方ない。
扇辰『雪とん』、後席の高座はテンポが良く、いい出来だったと思う。
この娘さん、年が17,8と言ってたので(当時は「数え」)現在では16,7っていうことになるわけだが、積極的に男を引き入れるなんざぁ随分と早熟ですね。昔の未通女(おぼこ)は大胆だったのか。今ならお祭り佐七は淫行罪で逮捕ですよ。昔が大らかだったのか、現在が厳しすぎるのか。
一朝『二番煎じ』、火の回りから番小屋に戻って来てからの描写が優れていた。炭を足して息を吹くと火の粉が舞い上がり、それを手で振り払う箇所では外で冷えた身体を急いで温めようとする姿が眼に浮かぶ。燗をつけた酒をリーダーが一人一人に慰労の言葉をかけながら注いで行く個所では、責任者の気遣いが感じられた。今では各人それぞれ別の職業に就いているが、昔ながらの幼馴染。宴会はまるで同窓会のように盛り上がって行く。茶碗酒の飲み方、シシ鍋のつつき方も堂に入ってる。見ていて、生唾が出そうになる。
強面と思われて役人も、酒でコロリと柔らかに。
一朝の高座は客席も温めていた。
今年最後の会ということで、余興に(と言ってもプロ級の腕前だが)笛を披露。
①お囃子の太田そのさんの三味線と唄(美声!)に合わせて長唄『連獅子』
②舞踊『隅田川』の最後で、子を失った女が月を見上げて嘆く場面で吹かれる『空笛』
③祭り囃子の『鎌倉』から『屋台囃子』に移るまで
最高のクリスマスプレゼントだった。
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コメント
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一朝は何をやるか、「掛け取り」もいいな、芝浜はいらない、なんて思っていたのでした。
二番煎じもラッキーでした。
現今の若い女性の生態、果たしてほめ・くさんの考察が当たっているのか、いやどうしてかなり激しいのではないかとも思います。
実体験ではありませんが。
投稿: 佐平次 | 2015/12/21 11:56
いらっしゃいましたか。
一朝へのご評価、同感です。
『藪入り』は、ほめ・くさんほど嫌いではなく、三代目金馬の音源は、よく聴きます。
しかし、友人との宴会の余興で演じた時、この噺の難しさを痛感しました。
とにかく、仕込みをしなければ奉公のことや、ねずみの懸賞のことなどは分からない時代ですからね。
そして、夫婦の会話部分、寝ている姿勢なので、結構大変なんです。
それにしても、一朝『尻餅』の楽しさは、破格でしたね。
糸屋の娘、たしかに大胆!
私も実体験ではないですが、現代の若い女性も、大胆らしいです(^^)
投稿: 小言幸兵衛 | 2015/12/21 12:59
佐平次様
この日の一朝の高座は、最後客席からの盛大な拍手が全てを物語っていました。
余計なことを書いたのは、どうも近頃は未成年の飲酒や喫煙に対する厳しい措置といい、いわゆる「淫行条例」(女性の側が誘っても18歳未満なら男が罰せられる)といい、あまりに雁字搦めの世の中にしている様な気がしているからです。若い人が気の毒に見えてなりません。
投稿: ほめ・く | 2015/12/21 17:34
小言幸兵衛
この日は錚々たる顔ぶれがお揃いだったようで。これに応えるかの様な一朝の好演でした。
若い女性にも古い女性にも、当方としては大胆な人に出会った事がないので、実に寂しい限りです。一度親指と人差し指で裾を引っ張ってみようかと思いますが、きっと引っ叩かれるのがオチでしょうね。
投稿: ほめ・く | 2015/12/21 17:41
私もこの会に行っておりました。藪入りは、当代圓楽と一之輔でしか聴いたことありませんでしたが、長すぎる点を除けばなかなかだったと思います。一朝がトリで「そう長くやりませんから」と言って噺に入ったのは、笛をやるためだったのかと納得しました。一朝では初の二番煎じに加えて笛が聴けてラッキーでした。
投稿: ぱたぱた | 2015/12/22 12:55
ぱたぱた様
扇辰、良かったです。父子が玄関で顔を合わせる場面では涙がでました。ただネタの好き嫌いだけは致し方ありません。
一朝の『二番煎じ』と笛は素晴らしかったです。ネットで評価が高いのは当然だと思います。
投稿: ほめ・く | 2015/12/22 21:19