野坂昭如ノーリターン
作家の野坂昭如(のさか・あきゆき)氏が12月9日、心不全のため東京都内の病院で死去した。85歳だった。
と言っても野坂の書いた本はあまり読んでないので作家としての思い出は少ない。むしろ歌手の方かな。なかでも最高傑作は「サントリーゴールド900」(1976年)のCMソングだ。
ソ,ソ,ソクラテスかプラトンか
ニ,ニ,ニーチェかサルトルか
みーんな悩んで大きくなった.
(大きいわ 大物よ)
俺もお前も大物だ!
・・・・・・・・・・・・・・・
とんとんとんがらしの宙返り
ギリシア、ドイツ、フランスの哲学者の名前を並べた所に、何となく1970年代の空気を感じる。
これと、大橋巨泉のパイロット万年筆のCM「はっぱふみふみ」(1969年)、
「みじかびの キャプリキ取れば すぎちょびれ すぎ書きすらの はっぱふみふみ」
は、CMの二大傑作だと思う。
野坂本人の歌唱では、モンローの追悼歌と終末思想がくっついた様な「マリリン・モンロー・ノー・リターン」(1971年)があった。
この世はもうじき お終いだ
あの町この町 鐘が鳴る
切ない切ない この夜を
どうするどうする あなたなら
マリリン・モンロー・ノー・リターン
“ノー・リターン ノー・リターン”
同じ年にレコーディングした「黒の舟歌」は、本人歌唱より長谷川きよしのカバーの方がヒットしてしまった。
男と女の 間には
深くて暗い 川がある
誰も渡れぬ 川なれど
エンヤコラ 今夜も 舟を出す
Row and Row Row and Row
振り返るな Row Row
レアものでは1978年4月4日放送のNHK「ビッグ・ショー」で、この回は「山口百恵」だったのだが大のファンである野坂がゲスト出演していた。そこで「おんじょろ節」(以下に歌詞)と「オーシャンゼリゼ」を二人でデュエットした。いつになく野坂が神妙だったのが可笑しかった。
さみしい桜の 昼下がり
細い小指を からませて
行くの それとも行かないの
男と女の けものみち
おんじょろ おんじょろ おんじょろよ
男も女も おんじょろよ
とんびがくるりと 輪をかいた
直木賞を受賞した小説「火垂るの墓」をアニメ化した作品は、何度見ても泣かされる。終戦の年に15歳だった野坂は戦争を経験しており、実際に妹を空襲の後に栄養失調で亡くした体験に基づきこの小説を書いている。
「焼跡闇市派」を自称して政治活動を含め幅広い分野で活躍した野坂昭如氏。
ご冥福を祈る。
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コメント
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お話のCMソングはよく憶えております。背伸びして強がる感じ。
サングラスの似合う野坂の随想は、堰き止められぬ情熱を塗り固めたような感じで、
それでいて諧謔に満ち、体言止めを多用するなど、意表をつかれるものでした。
田中小実昌、殿山泰司との交情も思い出されます。
圓蔵も、野坂も・・・昭和は遠くなりにけり
初句が定まらないのが我ながら悲しい。
投稿: 福 | 2015/12/10 21:00
福様
野坂昭如の交友関係を見ると、お互いに戦争を潜り抜けてきた同志の様な繋がりを感じます。型にはまらない破天荒な生き方も魅力でした。
投稿: ほめ・く | 2015/12/10 21:46
「サントリーゴールド900」(1976年)のCMソングですが、小学生の頃、山口百恵が出ていたドラマ「赤い」シリーズのスポンサーの1社がサントリーで、ドラマの合間に流れるCMを翌日の土曜日にクラスで男子たちが真似して歌っていたことを思い出しました。
あと、30年以上前ですが、週刊朝日の連載エッセーで野坂昭如氏のエッセーが結構面白かったです。
先日の北の湖理事長の死去といい、まさに昭和は遠くなりにけり・・・と思いました。
投稿: ぱたぱた | 2015/12/13 20:58
ぱたぱた様
先の戦争を経験したいわゆる戦中派の人々が次々と亡くなってゆきます。戦争体験が次第に失われて行くことには危機感があります。
野坂氏は文筆活動から歌手、映画俳優、論客、そして政治家という、マルチタレントの元祖の様な存在でした。あのCMソングは、私たちも宴会なんかで唄いました。
投稿: ほめ・く | 2015/12/14 11:46